ワイチの力
「それで……俺には何が見えてるんですか?」
「まず、ワイチ殿が白く見えると言っていた流れですが、私には見えていません。ですが、先ほどの子犬の変化を聞く限り、おそらく気ではないかと思います。」
「気?」
「ええ、生きるための力です。元気、気力、気合などと言うでしょう。その根となるものだと思ってください。」
ワイチが晴明の身体を見ると、白い流れは一か所に留まることなく全身を巡っていた。
「じゃあ、この赤いのは?」
「おそらく血でしょう。先ほどの子犬は食事を取ったことで、白と赤の流れに変化があったのでしょう?」
「そうです。最初は全部弱々しかったのに、肉を食べ始めたら少しずつ流れが変わっていったんです。」
「やはり身体の状態まで見えているようですね。」
「じゃあ青は何なんですか?」
「それが少し難しいのです。最初は単純に水分かとも考えましたが、それでは曖昧すぎます。身体の中を巡り、生命を維持する水……そうですね、潤水と呼びましょう。」
「潤水……気と血と潤水か。」
「そして、あなたにはもう一つ見えているものがあります。」
「まだあるんですか?」
晴明の手に炎が灯ると、その直前にワイチが見た赤と橙の流れが再び腕から手のひらへ集まっていった。
「やっぱり見える。炎が出る前に、身体の中から何かが手に集まってます。」
炎が消え、今度は晴明の周囲に風が巻き起こった。
「今度はさっきと違う……。」
続けて足元の土が盛り上がり、水が宙へ浮かぶと、そのたびに晴明の身体を巡る流れが変わっていった。
最後に指先へ光が集まり、
バチッ――!
青白い雷が弾けた。
「全部違って見える……。」
「私が扱う五属性、火、風、土、水、雷です。どうやらワイチ殿には、術として現れる前の属性まで見えているようですね。」
「術になる前から……。」
巨大トカゲとの戦いが頭に浮かんだ。
黒紫色の炎を吐く直前には腹から口へ、尻尾を放つ直前には先端へ、白い流れが集まっていた。
「待ってください。じゃあ、あの巨大トカゲの攻撃が分かったのも……。」
「その力によるものだと思います。」
「でも、あの時は白いのしか見えなかったですよ。今みたいに違うものまでは……。」
「まだ見え始めたばかりですからね。どこまで見えるのかは、これから確かめていけばいいでしょう。」
「これからか……。」
「では戻りましょう。皆さんが待っていますよ。」
◇
治療院へ戻ると、扉の向こうから子供たちの賑やかな声が聞こえてきた。
「ナリア先生! 終わったよ! これも持っていく!」
扉が勢いよく開き、薬草を抱えた子供が飛び出した後ろから、包帯を山ほど抱えた子供が続き、部屋の中では別の子供たちが机を拭いたり薬瓶を並べたりしていた。
「ありがとうね。薬草はそちらへお願いします。包帯はこっちですよ、慌てなくても大丈夫ですからね。」
「はーい!」
元気な声が治療院いっぱいに響く中、ワイチと晴明は奥の部屋へ向かった。
「おっ、戻ってきたか。」
「どこ行ってたんだよ。」
「ワイチ殿と少し話をしていました。」
小次郎が武蔵の脇腹を肘で小突いた。
「いてぇな! 何すんだよ。」
「武蔵、言うことあるだろ。」
「……分かってるよ。」
武蔵は少し黙った後、
「ワイチ、悪かった。言い過ぎた。それは謝る。」
「……うん。」
「でもな、抜けろって言った理由まで間違ってたとは思ってねえ。今回みたいなことがもう一度起きたら、次も助かるとは限らねえからな。」
「それは俺も分かってるよ。ポーションだけじゃ足りなかったし、俺自身も何もできなかった。」
「何もできなかったわけではありません。」
晴明の言葉にワイチが顔を向けた。
「私がこうして無事なのは、ワイチ殿が攻撃に気付いてくれたからです。」
「でも、そのせいで俺が死にかけたじゃないですか。」
「そこが問題なのです。攻撃を見抜くことができても、それを伝える方法も、避ける方法もなかった。力がないのではなく、まだ使い方が分かっていないのですよ。」
「使い方……。」
「ワイチ殿は回復を得意としていません。ですが、無理に私たちと同じことをする必要はありません。」
「どういうことだ?」
「今回、一つ分かったことがあります。ワイチ殿には、私たちには見えないものが見えています。」
「見えないもの?」
「気、血、潤水、そして術を使う時に動く属性の流れです。」
「気? 血? 潤水? なんだそりゃ。おまけに属性まで見えるってのか? それが見えると何ができんだ?」
「今回、毒棘竜が尻尾を放つ前にワイチ殿だけが攻撃に気付きました。もし相手が何をしようとしているのか事前に分かるようになれば、戦い方そのものが変わります。」
「なるほどな……攻撃されてから避けるんじゃなくて、攻撃される前に分かるってことか。」
「それだけではありません。先ほどワイチ殿は弱っている子犬を見ただけで、身体の状態に異変があることにも気付きました。」
「ちょっと待ってくださいよ。まだそこまで分かるって決まったわけじゃ……。」
「だから確かめるのです。」
「……なるほどね。」
「回復ができないから役に立たないのではありません。ワイチ殿には、それ以上に価値のある力があるかもしれないということです。」
「戦い方そのものを変える力か……面白えじゃねえか。」
コンコン――。
「失礼します。」
扉が開き、ハロルドが神妙な顔で入ってきた。
「おや、皆さん揃っていましたか。ワイチさん、もう傷は大丈夫なのですか?」
「ええ、なんとか。まだ痛いですけど。」
「それは良かった。今回は本当に大変でしたね。正直、生きて戻ってきたと聞いた時は驚きましたよ。」
「そんなにヤバい奴だったのか?」
「皆さんが戦った相手ですが、おそらく毒棘竜でしょう。」
「毒棘竜?」
「森では毒の悪魔とも呼ばれています。これまでにも何度か討伐隊が出ていますが、倒せたことはありません。追い払うだけで精一杯だった相手です。」
「マジかよ……そんなのと戦ってたのか、俺たち。」
「現在、街は警戒態勢に入っています。周辺の住民にも森へ近付かないよう知らせていますが、私が気になっているのはそこではありません。」
「何が気になるんだ?」
「毒棘竜は、本来なら街の近くまで現れるような魔物ではないのですよ。なぜあの場所まで出てきたのか、私にも分かりません。」
ガシャン――!
陶器の割れる音が部屋に響いた。
床には薬瓶と包帯が散らばり、その先でナリアが立っていた。
「今……なんて言いました?」
「毒棘竜です。皆さんが戦った相手は、ほぼ間違いありません。現場には毒で草木が枯れた跡と足跡が残っていましたからね。」
「本当に……毒棘竜だったんですか?」
「ええ、間違いありません。」
「……お願いします。」
ナリアの声が震えた。
「私も、皆さんと一緒に行かせてください。」
次回予告
ワイチです。
俺たちは一度、毒棘竜に負けています。
正直、あんな強い奴に勝てる気がしません。
でも、このまま放っておくこともできません。
このままじゃ勝てない。
だから知りたいんです。
みんなに何ができるのか。
どんな力を持っているのか。
それが、あいつを倒すヒントになるかもしれません。
次回、俺たちができること




