第12話 警告と謀略
高級料理店で美食に舌鼓を打ち、ステータスの確認と余剰経験値の割り振りを終えた俺は、ジンさんの運転する車で二つ目のSランクダンジョンへ向かっていた。
戦闘後の軽い疲労と満腹感が身体に滲む中、ヘッドフォンから流れる穏やかな音楽が静かに沁み渡り、窓の外を街並みがゆっくりと後ろへ流れていく。
「松原ハンター、到着しました」
ヘッドフォン越しに聞こえたジンさんの声で意識が浮上し、俺はヘッドフォンを外して車のドアに手をかけた。
目の前では、パーティー同士で談笑する者、装備やアイテムの最終確認に余念のない者が入り混じっており、今のところ明確な殺気は感じられない。
とはいえ、警戒を怠るつもりはなかった。
先の襲撃がそうであったように、ダンジョンボスとの戦闘で消耗し、出口を潜ったところを狙われる可能性は十分にある。
「松原ハンター、本当にご一緒しなくて大丈夫ですか?」
ジンさんの声には、俺を気遣う色が滲んでいた。普段と変わらない、丁寧で穏やかな口調。
「ご心配ありがとうございます。ただ——先の襲撃と同様、ダンジョンから出たところを狙ってくるようであれば、容赦なく全員始末します」
「……」
ジンさんは眉をわずかに動かし、言葉を飲み込んだ。
「ハンターギルドとして何も対応なさらなければ、貴重な戦力を失うことになります。早急な対応が必要だと、会長にお伝えください」
「承知いたしました」
俺は淡々と告げた。忠告はした。ハンターギルドが実際にどう動くかは、俺の関知するところではない。
改めて周囲のハンター達へ視線を巡らせ、俺はダンジョンの入口へと足を踏み出した。
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現地のサポートスタッフとして同行していたジンは、松原唯人がダンジョンの入口に消えるのを見届けると、携帯電話を取り出して画面を滑らせ、耳元に近づけた。
「ジンか。どうした?」
通話の向こうから届く会長の声は、短く、冷たかった。
「お疲れ様です、ウェイ会長。松原ハンターを二つ目のSランクダンジョンへ送り届けました」
ジンは、淡々と状況を報告する。
「様子は?」
「表面上は平静ですが、警戒心は非常に高く、こちらをまったく信用していません」
「であれば、先の襲撃が我々の仕業だと勘づいてもいそうだな」
「おそらく——確信していると思います。「貴重な人材を失いたくなければ、早急な対応が必要だ。会長にお伝えください」と、直接言われました」
「我々の仕業だと確信した上で、警告してきたというのか? 弱小国家のハンター風情が!」
「私はそう感じました。また、実際に松原ハンターの戦闘を拝見しましたが——Sランク未満の戦力を投入しても、焼け石に水かと思います」
「では、どうする?」
「最低でもSランク、できればSランク上位のハンターを複数集めるべきです」
「Sランク上位となると、国力に直結する九龍に頼るしかないが?」
「九龍が我が国の筆頭戦力であることは十分承知しております。ですが、他のクランや裏の組織に任せても、無駄に終わるかと」
「構わん。他のクランや裏の連中がどれだけ死のうと、九龍さえいれば我が国は安泰だ。それに——裏の連中が消えるなら、一石二鳥というものだ」
「……」
「さて、我々の仕業だと確信しているのなら、依頼内容を変更せんとならん。懸賞金を引き上げ、松原唯人の殺害を目的とするように」
「……承知いたしました」
「常に命を狙われ続け、肉体的にも精神的にも疲弊しきったところで九龍を投入すれば、確実に始末できる」
「ですが、国民や公共施設への被害は……」
「これも国防のためだ。敵国の主要戦力を排除できるなら、国民も政府も黙認するはずだ」
「……分かりました」
「松原唯人を始末したら、次は日本だ。我が国で好き勝手に暴れた責任を取らせるため、改めて侵攻してやる。以上だ」
「失礼いたします」
通話を切ったジンは、行き交うハンターや買い物客の群れへと視線を流した。
友人や家族と連れ立って笑い合う声が聞こえる。
その声が、やがて叫び声や泣き声に変わる日が来る——そう思うと、やるせなさが胸の奥に広がった。
気持ちを切り替えようと、ジンはタバコを口に咥えた。




