それぞれの戦い
ハルバルドの剣が、俺の全力の剣を受けた。
力で押し合うが、体重で勝るハルバルドに次第に押し負ける。
タイミングを測り剣を弾いて、後ろにさがる。
ハルバルドの連続する鋭い突きを、左右に払うように受け流す。
もっとCodeを沢山、かつ、強く行えばハルバルドを凌駕することができるが、その分早く限界が来てしまう。
おそらく、ハルバルドも同じことを考えている。
だから、この微妙な力関係が保たれているのだ。
「おい、そいつは俺の『獲物』だ」
見ると、ベオーミングがソウタをつれて部屋に入ってきた。
俺とハルバルドはその声を聞き、互いに距離をとった。
「そんな約束はないが」
ハルバルドはそう返した。
連れて来られたソウタは『おじさんの姿』をしていた。
膝を抱えて丸まった格好で固まったように寝ていて、ベオーミングにベルトを掴まれ、持ち上げられていた。
ソウタの両腕には、ブレスレットを嵌められ、そのブレスレット同士がさらに鎖で繋がっていた。
部屋に入ってくると、ベオーミングは、ソウタを落とした。
「この、ソウタという男を連れてきた。これでアオイをもらっても構わないな」
「……」
ベオーミングが俺にそう言った。
これは、最初に想定した状況とは、まるで違う。
ソウタは寝ているし、ソウタとアオイが向こう側にある。
この状態で、アオイとソウタ二人を同時に取り戻すことは困難を極める。
「その女をこっちに渡せ」
ハルバルドの注意が俺から逸れた。
剣を振りかぶって、全力で飛び込む。
「させるか!」
ベオーミングの剣が、俺の振り下ろした剣をあっさりと受け止めた。
ハルバルドは抵抗するアオイの腕をかわし、あっさりと捕まえてしまう。
「お前は、俺が殺してやる」
なんでアオイのペンダントが働かない。
今、まさにアオイの危機だというのに。
「ソウタ!」
俺は叫んだ。
頼む、起きてくれ、アオイを連れていくそのハルバルドという男を止めてくれ。
祈るような気持ちで、もう一度叫んだ。
「ソウタ!」
ソウタはブレスレットを付けられている。俺のCode探査の力は届かない。
「ソウタ!!」
声でしか彼の意識を呼び起こせない。
「ソウタ!!!」
頼む…… 起きてくれ、ソウタならアオイを救える。
「他人の事を気にしている場合か」
ベオーミングが剣を跳ね上げてきた。
俺は慌てて弾かれた剣を回し、構え直す。
軽々と剣を振り回すと、体の周囲を回転させながら切りつけてきた。
体格で負けている上、ベオーミングが全力で振り回してくる剣を受けることはできない。
俺は逃げ場が無くならないように、周囲を見まわしながら避け続けた。
息が上がって、ソウタを呼ぶところではない。
見ているうちにハルバルドがアオイの腕をとった。
届くわけもないのに思わず腕を伸ばす。
「アオイ!」
腕を引っ張られてバランスを崩しながら、アオイは俺を振り向き言った。
「アラタ!」
視線が重なった時、俺は一瞬、気持ちが通じ合ったと思った。
「おとなしくついてくれば、悪いようにはしない」
急にハルバルドはアオイにすり寄るような言葉を放った。
そうか、と俺は思った。
アオイに敵と認識されるから『ペンダント』の力が発動するのだ。
逆にアオイの敵意が低ければペンダントが感知しない。
ハルバルドはアオイを優しく扱うことで、ペンダントの影響を免れようとしている訳だ。
「!」
ベオーミングがかざした剣の切先が、俺の鼻先で止まった。
「あの女のことは諦めろ。それより、さっさと能力を上げて、俺と戦え」
鋭い金属に俺は恐怖しつつも、冷めた思いがあった。
体育会系バカと争うためにここにいるのではない。
俺はアオイとソウタを助けるためにここにいるのだ。
……つまり、助けるためにはこいつを倒さねばならないのか。
俺は思い直し、ベオーミングに向き合った。
ここで勇気を振り絞らなければならない、ということか。
「やってやる」
床や天井、壁にCode変更はかけれない。自らの肉体をブーストするしかないが、それはやればやるだけ反動が早くやってくる。
恵まれた体のエルフであるベオーミングと、彼のもつ剣術を上回らねばならない。
かつ、戦っていられる時間をキープしつつ、だ。
自分の体のCodeを覗きつつ、変更をかけていく。
ベオーミングが間合いを詰めてきた。
俺の目には、ベオーミングの顔の上にCodeのリストが流れていくのが映る。
ちょうど、そのCodeに重なるように、鋭い突きが飛んでくる。
「!」
その剣が俺の体を捉えたかに思えた。
だが、そこに俺はいなかった。
俺は跳躍していた。
ベオーミングの頭を蹴り、体勢を崩した奴の背後に着地した。
よろけたベオーミングは、受け身を取るように転がると、素早く立ち上がった。
「やっと本気を出したか」
言い終えた、奴の視線が変だった。
俺は警戒しつつもベオーミングが見るその先に目をやった。
「ソウタ!?」
ソウタの体が発光し始めた。
輝く光の中で彼の姿は、光るシルエットに変わる。
光の中で、シルエットが変形していく。
おっさんから、ゴスロリ・ツインテールの美少女へ。
突然、ソウタからの光が消えた。
いつもの白黒ゴシックロリータの服をきた姿へ。
彼は立ち上がると、両腕のブレスレットが床に落ちた。
そうか、おっさん姿の太い腕に腕輪をつけたから、いつもの姿に変われば外れるのだ。
「ソウタ!」
俺の声に反応してソウタが振り返る。
俺にウィンクすると、口を開く。
「こういう変身シーン、一度やってみたかったのよね」
それはソウタのいつものダミ声だった。
そんなことのためにCode書き換え能力を無駄遣いしなくてもいいのに。
華奢な肩、細い手足に折れそうな腰。
だが、俺には、それが頼もしく見えた。




