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水晶の勇気(仮)  作者: ゆずさくら


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19/32

御休憩

「肩車してよ」

「えっ?」

 子供ならともかく、そんなに体格差がない女性を肩車することができるだろうか。

 だが、この条件を飲まないとアオイは永久に降りてこないだろう。

「やってみよう」

 綱を持つ手を入れ替えながら、多足虫の足の間で回りアオイに背を向ける。

 頭に手を置かれて、そのままなんのきっかけもないまま、アオイが飛びついてきた。

「いきなり飛び付かないで!」

 俺は彼女の足を掴んで、体に力を入れる。

 だが、踏ん張りきれずにバランスを崩す。

 ここで多足虫の足を踏んだら、大変なことになる。

「もっとちゃんと立ってよ!」

 揺れたせいでアオイが足を絞ってくる。

「く、苦しい……」

「だから揺らさないで!」

 アオイは俺の頭にしがみついてきた。

 視界が狭まるのと、後頭部に感じる柔らかさ。そのせいで、自分の中で『いやらしい』感情が湧いてきて、余計にフラフラしてしまう。

「見えないと歩けないから、落ちついて」

 ようやく普通の肩車状態に戻ると、俺は綱を放した。

 多足虫の動ける範囲から遠ざかると、今度はどうやって下ろそうか考える。

「おろしてもいい?」

 アオイは頭の上で後ろを振り返っている。

「そうね。もう近づけないみたい」

「自分で降りれる?」

「無理無理、ちゃんとおろしてよ」

 俺は、どうやっておろしたらいいのか、わからなかった。

 肩車のノウハウ動画を見たくても、この世界ではスマフォも使えないし、当然ながらそんな時間的猶予もない。

「じゃあ、お辞儀するように俺が体を前に倒すから、タイミングを見て飛び降りて」

「待って! そのまま膝を曲げてしゃがんでよ」

 そんな足腰に力があれば初めからそうするんだが……

「こっちの足腰が持たないよ」

「……とにかくそうして」

 イヤな予感しかない。だが、この肩車と同じで、やるしか選択肢は残っていないのだ。

 俺は体を曲げ始めた。

「!」

「いやっ!」

 俺がバランスを崩した瞬間、アオイは俺の頭を手で押さえ込み、伸び上がった。

 その後、どんな動きだったのかは全く理解できない。

 気がついた時には、俺は仰向けに寝転がっていた。

 目の前には、あおいの足の付け根があった。

 逆に俺の足の付け根側には…… アオイの頭があった。

 柔らかい頬の感触が、アソコで感じられる。

 ここで元気になってしまうと、気づかれる、と俺は慌てた。

「何やってるのよ!」

「とにかく、そこから顔をどけて」

「あっ! へ、変なところで喋らないでよ」

 俺はアオイに足の付け根を叩かれた。

「言われなくなって、わかってるわよ!」

 ようやく重なり合っていた体を離すと、アオイは立ち上がった。

「食事をとってきて」

 俺は頷いた。

 そして、再び多足虫へと歩いていく。

 持ってきた食事などは多足虫の背中、プラットフォームにくくりつけている荷物の中にある。

 再び綱を掴みながら近づくと、プラットフォームに乗った。

 荷物を手に取り多足虫からおりる。

 草原を少し歩くと、アオイの姿が見えないことに気づいた。

「アオイ!」

 返事がない。

 敵や、獣など、特に気配(けはい)はなかった。

 まだ旧市街すら遠く、安全だと思っていたのに……

 俺の声が届けば、何か反応があるかも知れない。

「アオイ! どこ!」

 まずいまずいまずい!

 俺は叫びながら走り回った。

 その時、後ろから服の裾を掴まれた。

 しまった……

 俺は抵抗しないことを示すため、自然と両手を上にあげていた。

「大きな声で名前を連呼して、あんた、うるさいのよ」

「えっ?」

 振り返った。俺の服を掴んだのはアオイだった。

「な……」

 ここで何をしていた? 俺はそう言いかけて、アオイが何をしていたか気付いた。

 言いづらかったんだろう。

 やってる最中に返事もできないし。

 多足虫に乗る前に用はたしておいたはずだが、時間も立っている。生理現象だし、仕方のないことだ。

「ほら、そこから水が湧いてるから、手を洗って食事にしましょ?」

 俺たちは元の草原に戻り、用意していた食事を口にした。

 食事中、アオイがやたらに学生時代の話をしてきた。

 あまり深く答えないようにして、可能な限り話を短く切り上げた。

 食事が終わるころ、さすがに彼女も俺の対応を不審に思い始めた。

「なんか、学生の頃の話題、避けようとしてない?」

 当然だろう。身バレするし、身バレした瞬間、スクールカーストの頂点と底辺という身分の違いが生まれ、まともに口が聞けなくなってしまう。

 いい思い出がない、とも言えない。それは俺がアオイと出会い、好きになり、それだけでも幸せであった、という事実を否定することになってしまう。

「そんなことないよ」

「返しがそっけないのよね」

 出来事を詳細に返すと、きっとそこから同じクラスだったことがバレてしまう。

「……あのさ。私の知り合いの『アラタ』って()の話をしていいかしら?」

「あっ、ほら、多足虫も動くのをやめてるから、出発できるんじゃないかな」

 疑いの眼差しを向けられているが、気にしないふりをして、言葉を続ける。

「早くしないと明るいうちに旧市街を抜けられないかも」

「じゃあ、わかった。多足虫に乗るから、また肩車してよ」

 俺は岩を指さした。

「あの岩に乗ってよ。ある程度体を起こした状態からじゃないと乗せられない」

 アオイは素直に岩の上に乗った。

 そして岩の上から、背中を向けた俺の肩におりてきた。

 肩車したまま、多足虫へ近づいていく。

 綱を手にして、虫へ指示を入れた。

 足の隙間を通って、プラットフォームにアオイを降ろす。

 アオイはプラットフォーム自体も嫌らしく、素早く椅子の上に上がってしまう。

 俺は木の枝に引っ掛けていたロープを外し、綱を持って多足虫の上に上がった。

 綱を引いて、多足虫に指示を入れると、虫が走り出した。

 もう一度指示を入れるとさらにスピードをあげ、草を蹴る足の音が騒がしくなってきた。

「アラタ、本当に忘れたの?」

 俺にはアオイがそう言ったように聞こえた。

 その言葉に心が震えた。

 勇気を出して応えるべきなのではないか。

 そんな気持ちが湧き上がっては、もう一人の自分が否定する。

 しばらく間があり、耐えきれなくなった俺は言った。

「えっ、今、何か言った?」

「なんでもない」

 諦めたのか、そう言った後アオイは何も話さなくなった。




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