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ざわざわざわ。
「へ~、あれが『のりわら』か~」
あのホームルームでのやり取りがあってからというもの、休み時間のたびにあたしと笑ちゃんを見に来る人たちで、教室前の廊下はいっぱいとなっていた。
同じ学年の人ばかりでなく、上級生や下級生もまじっているようだ。
前と後ろのドアは開け放たれ、中をのぞき込もうと廊下から身を乗り出す生徒たちでごった返している。
トイレに行きたいクラスメイトなどの邪魔になっているのも、まったくお構いなしといった感じだった。
みんな、ごめんね……。そんな罪悪感さえ募ってくる。
「……べつに、かのりんが悪いわけじゃないですの」
そんなあたしを、笑ちゃんが慰めてくれた。
う~、座敷童子に慰められることに慣れ始めている自分が、ちょっと嫌だ。
「それにしても、ボクたち、とっても人気者ですの。これはきっと、かのりんの芸人魂のたまものですの~」
ドアに群がる生徒たちに愛想笑いをしながら手を振っている笑ちゃんが、嬉しそうにそんなことを言った。
この子も、小明麻さんに感化され始めているのかもしれない。
「なんでやねん!」
あたしは思わず、彼女のおかっぱ頭を引っぱたいてツッコミを入れてしまった。
それに反応して、おーっ! と歓声が沸き起こる。
「あれが伝家の宝刀、のりわら流ツッコミってやつだな!?」
「生で見られるなんて、超感動~!」
……いったい、どんな事態になっているのだろうか、これは……。
あまり目立ちたくない、というあたしの望みは、確実に打ち砕かれてしまったようだ。
首謀者はおそらく小明麻さんだろうな。
あたしを笑ちゃんとのお笑いコンビ『のりわら』として仕立て上げようとしているに違いない。
「こら、みんな、もうそろそろ授業が始まるわよ~? 早く自分の教室に戻りなさい。『のりわら』はいつでも見られるから。とりあえずは、春祭を楽しみにしててね~」
群がる生徒たちを押し分け、咲先生が教室に入ってくる。でもその言葉を聞く限り、先生もあたしの敵方のようだった。
それにしても、どうしてそんなに、あたしと笑ちゃんにこだわるのだろう。
やっぱり入部しなかったことへの嫌がらせ?
ここは、はっきりさせておこう。あたしはそう考えた。それくらいの反撃をする権利は、あたしにだってあるはずだ。
次の休み時間。
これまでと同じように群がってきていた生徒たちのざわめきが響く教室内で、澄まし顔のまま本を読んでいる小明麻さんに近寄ると、あたしは怒鳴りつけた。
「小明麻さん、いったいどういうつもりなの? 小明麻さんがあたしのこと、いろいろと言いふらして、あんなに人が集まってるんでしょ!?」
バンッ! と彼女の机に勢いよく両手を叩きつけて、怒りの度合いもアピールする。
それでもまったく怯む様子もなく、小明麻さんはゆったりとした動作で栞を本に挟み、あたしのほうへ視線を向けてきた。
「あら、わたくしはそんなことしていませんよ? でも、人気者になれて、よかったじゃないですか」
「あたしはね、目立ちたくないのよ! だいたい、お笑いコンビだなんて言い出したのは小明麻さんじゃない! 笑ちゃんがクラスの特徴っていうのはわからなくもないけど、どうしてお笑いコンビなの!?」
平然と言葉を返してくる小明麻さんに対して、怒り心頭なあたしは、たたみかけるように怒号を浴びせる。
その声にキッと鋭い視線を返し、すくっと立ち上がる小明麻さん。
あたしのすぐ目の前に、彼女の整った顔が迫る。
「わたくしは妖怪部の部長です。そして笑ちゃんは、座敷童子。妖怪という分類になるかは微妙なところかもしれませんけれど、わたくしの想像力をかき立てる逸材であることに変わりありません」
目と鼻の先、たぶん三十センチ定規も入らないくらいの距離から、じっと見つめられている状態。
あたしは小明麻さんの黒い瞳に吸い込まれそうになりながら、ただただ彼女の発する言葉を黙って聞き続けることしかできなかった。
「妖怪というのは、陽気で爽快なもの、略して『ようかい』なの。だからこそ、お笑いにはもってこいの存在ってことになるのです」
………………。
「字が違ぁ~~う!」
バシッ!
あたしは思わず、小明麻さんの綺麗な黒髪の頭をスパーンとはたいていた。
「ふふふ、いいツッコミですわ。根っからの芸人なのね」
「違うわ、ボケッ!」
バシッ!
あたしは思わず、小明麻さんに二度目のツッコミをお見舞いしていた。
……ああああ、つい……。
そんなあたしに、小明麻さんは満足そうな笑みを浮かべながら視線を向けてくる。
「ほんと、興味深いわ。大丈夫、あなたと笑ちゃんなら、いいコンビになると思いますわよ?」
小明麻さんの言葉が終わるのとタイミングを合わせたかのようにチャイムの音が鳴り響いた。それとほぼ同時に、先生が教室へと入ってくる。
あたしは仕方なく話を切り上げて、自分の席まで戻るのだった。




