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朝、目が覚めると、すぐ目の前に女の子の寝顔があった。
……って……。
「なに、あたしのベッドに入ってきてるのよ!」
あたしは手のひらで女の子のおかっぱ頭を思いっきりスパーンと叩き、清々しい音を鳴り響かせた。
「うにゅ~……。あ……かのりん、おはようですの~……」
寝ぼけまなこをこすりながら、身を起こす女の子。それはもちろん、笑ちゃんだった。
「あんたね、どうしてあたしのベッドで寝てるのよ? 妖怪なら、押入れの中を寝床にするもんでしょ!?」
「ひう……。それって、偏見だと思いますですの……」
枕を胸の前で抱きしめながら、あたしに涙目を向ける笑ちゃん。
こんな状況を見られたら、確実にあたしのほうが悪者だと思われるだろう。
「はぁ……。ま、いいけど。でも今夜からはせめて、別の布団を敷いて、そっちで寝てよね」
「え~、でも、ベッドがいいですの……」
「贅沢言うな!」
「ひうっ!」
あたしはビシッと言い放ち、さっさと学校に行く準備を始める。
このときにも、なんとな~く違和感があったのだけど。
朝は時間もない。ドタドタと階段を下りると、お母さんが朝食を準備してくれていた。
「ほら、早く食べなさい。遅刻なんて、しちゃダメだからね」
「わかってるわよ~」
マーマレードを塗りたくったホットトーストをぱくっと口にくわえ、カフェオレで流し込んでいく。
ゆっくり朝食を食べていられる時間がなくて慌ただしくなってしまうのも、毎朝の恒例行事のようなものだった。
というわけで、素早く食べて歯を磨く。
そしてドタバタと騒がしい音を立てながら玄関へと向かうと、あたしは置いておいたカバンをつかみ、ドアを開けて飛び出した。
「行ってきま~す!」
「はい、行ってらっしゃい、ふたりとも」
「行ってきますですの~!」
「…………」
駆け出そうとした瞬間、すぐさま動きを止めたあたしは、じとーっとした視線をかたわらにたたずむ彼女へと向ける。
「笑ちゃん……なんで……?」
「はい? ご一緒に登校しますですの!」
セーラー服姿の座敷童子、笑ちゃんは、満面の笑みを浮かべながら、そうのたまうのだった。
☆☆☆☆☆
ともかく、笑ちゃんに構っている時間なんてない。あたしは、走った。
「わ~、朝のジョギングですね! 学生らしいです! パンを口にくわえて走ったりは、しないんですの?」
「しないわよ! ……っていうかあんた、なに一緒になって走ってるのよ! だいたい座敷童子がお座敷から離れてどうすんの!?」
「かのりんのおうちだけじゃ、ちょっと狭いですの。だから健康のためにも、外へ出るんです。かのりんと一緒なら、どこにでも行けるんですの!」
……はぁ、そうですか……。
なんだかもう、考えるもの面倒になってきた。
走っていて酸欠だから、というのもあるのかもしれないけど。
「とにかく、一応妖怪なんだから、姿を消しておくとかしなさいよ!」
「う~、でも、学生気分が~」
「文句言うな!」
「ひう~!」
恒例の驚き声を発すると、すぅ~……っと笑ちゃんの姿は空気に溶け込み、消えていった。
☆☆☆☆☆
「ふぅ~、どうにかセーフだわっ!」
校門に滑り込み、あたしはひと息つく。
まだ予鈴が鳴ってない時間にここにいるのだから、あとは歩いても余裕だろう。
と、そのとき。
「におうわ……」
「ひゃあ!?」
突然背後からかけられたおどろおどろしい声に、あたしの背筋は氷を流し込まれたように震え上がった。
「そこまで驚くことはないと思うのだけれど」
「いや、普通驚きますよ……。っていうか、いったいなんですか?」
振り返ると、そこに立っていたのは、腰まである長いストレートの黒髪を優雅に揺らすセーラー服姿の女の子だった。
今いる場所は学校の敷地内なのだから、彼女は当然ながらこの中学校の生徒ということになるはずだ。
あたしは二年生だけど、相手が上級生なのか下級生なのか、それとも同い年なのか、まったくわからない。
うちの学校では入学する年度によって、赤、青、緑の中から上履きの色が決められる。だから、もしここが校舎の中だったら上履きの色を見れば判別がついたのだけど……。
そんなわけで、もし上級生だったとしても失礼のないよう、あたしは丁寧語を使って話しかけていた。
「香紀さん、クラスメイトなんですから、もっと砕けた話し方をしていただいて構いませんわよ」
「いや、あの、あなたの喋り方も、全然砕けてないと思いますけど……」
受け答えで同い年だということがわかったものの、彼女の丁寧な口調に、あたしもそのまま丁寧語で返してしまっていた。
それにしても、クラスメイトだというのに、まったく気づかなかったなんて。
昨日は笑ちゃんの件が気になって、それ以外は全然目に入ってなかったからなぁ、あたし……。
と、それはともかく……。
「あ……あたし、におう……?」
思わずくんくんと、制服の二の腕の辺りに鼻をくっつけて、においを嗅いでしまう。
「ええ、においますわ。もうプンプンと」
「ええええ~~~~!?」
でもでも、昨日はちゃんとお風呂に入ったし、確かに制服は洗ってないけど、べつにそれはみんなも同じだと思うし……。
だけど、普通の子は朝シャンとかするものなのかも……?
あたしの場合、朝は慌ただしいことが多いからそんな時間はないのだけど、やっぱりそれがいけないのかな?
寝てるときって結構汗をかくっていうし、もしかしてあたし、陰では汗くさい女とか言われてたり……!?
なんてちょっと暴走気味な苦悩に包まれていると、クラスメイトの彼女はさらに言葉を続けた。
「妖怪のにおいがプンプンと漂っていますわ」
「え……?」
呆然としているあたしの目の前で、彼女は右手をにゅっと伸ばす。
すると――。
「ひうっ!」
お馴染みの悲鳴を上げ、その女の子に首根っこをつかまれた笑ちゃんが空中から姿を現した。
「あうあうあう~~~! この人、なんなんですの!?」
慌てふためく笑ちゃんの目の前で、にこっ、と涼やかな笑みをこぼす彼女。
妖怪を驚かせる女子中学生の登場だった。




