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今朝のあれは、いったいなんだったのか。
あたしは気になって仕方がなかった。
始業式が終わり、教室で担任の先生がいろいろと話をしているのも、完全に上の空だった。
そんなモヤモヤした気分のまま初日の学校は終わり、あたしは美野ちゃんと一緒に下校していた。
「ねぇ、みのた~。今朝のあれ、なんだったんだろう? ……痛っ!」
思わず「みのた」と呼んでしまって美野ちゃんのゲンコツを食らったあたしだったけど、今はそんなことを気にしてはいられなかった。
考えてみたら、座敷童子なんて、そんなの実際にいるわけがない。
あんた、なに言ってるの? 頭おかしくなったんじゃない?
といった返事が飛んでくるのを、あたしは期待していたのかもしれない。
だけど。
「さぁ、なんだったのかしら。正座してたしセーラー服も着てたけど、いきなり消えたわよね。でも、本人が座敷童子だって言ってたんだから、そうなんじゃない?」
美野ちゃんは平然と、そんな答えを返してきた。
「ま、春だから、いろいろあるのよ、きっと。あちらの世界でも。……それじゃ、また明日ね」
彼女はそう言うと、さっさと走り去っていった。
いつの間にか、分かれ道まで来ていたようだ。
美野ちゃん、なんかさらっと、気になることを言ってたけど……。
あたしは、あまり細かく考えないことにした。
ちょっと疲れていて幻覚を見てしまったとか、そんな感じに違いない。
美野ちゃんにも見えていたみたいだけど、おそらく彼女も疲れていたんだ。
現実逃避気味に、そんなことを考える。
今日のところは、部屋でゆっくり休むことにしよう。あたしは急ぎ足で家に帰った。
階段を駆け上がり、ドアを開けて自分の部屋に滑り込むと――。
「あっ、どうも……」
部屋の床にぺたりと正座したおかっぱ頭の女の子が、あたしをお出迎えしてくれた。
「お座敷と言うには、ちょっと狭っ苦しいですの」
「あ……あんたね~~! 勝手にあたしの部屋に入っておいて、なに言ってんのよ~~!」
思わず怒鳴ってしまっていた。本日二度目。
「ひうっ!」
デジャブかと思うような展開。じわじわじわ~~~と女の子の大きな瞳に涙が浮かぶ。
と、
「ちょっと香紀! なに騒いでるの? 静かにしなさい!」
一階からお母さんの怒鳴り声が響いてきた。
お母さんの声のほうがよっぽど大音量だとは思ったけど。
あたしが悪いのは間違いないのだから、素直に「は~い、ごめんなさ~い!」と一階に向けて謝っておくことにした。
☆☆☆☆☆
ドアを閉め、あたしは改めて部屋の中に視線を移した。
今あたしの目の前では、目に涙を浮かべたおかっぱ頭の女の子が正座をしている。
さて、どうしたものか……。
「え~っと、あなた、……名前は?」
とりあえず社交辞令(?)ということで、名前を訊いてみた。
「ぐすっ……。ボクは、ワラっていいますの。笑うと書いて、笑です。座敷童子やってます。年齢は……お願い、訊かないで……」
「ふ~ん、笑ちゃんね。あたしは長波香紀、十三歳よ。よくわからないけど、うちのクラスにいたわけだし、制服も着てるし、同い年ってことにしてタメ口で話しちゃうけど、いいよね?」
見た目からすると、どう考えても小学校低学年くらいで、かなり幼いように思えるのだけど。
訊かないでとお願いしてくるほどの年齢だとすると、きっとあたしよりもずっと長い時間を過ごしてきているに違いない。
とはいえ、敬語を使うのもちょっと変な気がしたため、同い年という案を提唱したというわけだ。
「うん、わかったですの」
そんなあたしの言葉を聞いた、笑と名乗った座敷童子の女の子は、やっと泣き止んでくれた。
「あの……、かのりんって呼ばせてもらっても、いいですか?」
「うん、いいよ」
「ありがとうですの!」
さっきまで泣いていたはずの笑ちゃんは、もうすっかり笑顔に変わっていた。
こちらからはタメ口で話しちゃってるけど、どうやら笑ちゃんのほうは「ですます」口調を崩さないつもりらしい。
ま、それはそれで構わないけど。
あたしはそんな笑ちゃんをじろじろと眺め回す。
「ひう……。なんですの?」
さすがにちょっと怯えた目になる笑ちゃん。
「いや、座敷童子ってさ、その、妖怪……だよね?」
「え~っと、そういうことに、なるのでしょうか……?」
おかっぱ頭を微妙にかしげている仕草は、なんだかとっても可愛らしくて、妖怪だなんて到底思えないのだけど。
本人がそう言っているのだから、座敷童子だというのは紛れもない事実なのだろう。
う~ん……。なんだか妙なことになっちゃったみたいだなぁ~。
でも、確か座敷童子って、家に住みついたら幸福が訪れるとか言われてるよね。
とくに害があるわけでもなさそうだし、部屋でおとなしくしていてくれるなら、あまり問題はないのかも。
それにしても、今日はちょっと疲れた。怒鳴りすぎたからかなぁ……。
眠気もあったせいか、あたしは正常な思考ができない状態になってしまっていたようだ。
「ん……、ま、いいわ。この家に住み着くつもりなら、それでもいいから。おとなしくしててね。……なんか眠いから、あたしは寝るよ。構ってあげられなくて、ごめんね~。くぅ……」
ベッドにごろんと横になると、あたしは一瞬にして深い眠りに就いていた。




