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『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました  作者: 皇 翼


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5.

「さて、まずはお前……リーシャの命を救ったとも言える魔法。あれも複合魔法だ。通常の魔法では、あんなに簡単に肉厚で防御力も高いモンスターを簡単に真っ二つには出来ない」


確かにあんな魔法は見たことがなかったと思い、今更ながら感心する。私達生徒が使えるのはせいぜい基本元素の魔法程度。だからこそ、無意味な魔法は試さなかった。


あの時起きたこと。それは私に背中を向けて立っていたこのクライヴ先生の視線の先で、サイクロプスが綺麗に縦に真っ二つに割られていた。血が後から吹き出してくるくらいに見事な太刀筋だった。

その綺麗さから、とても鋭く長い刃物でも使ったのかと思ったが、魔法だったようだ。いや、本来であればあんな大きさのものを刃物で切断するなど不可能だとは思うのだが、あんな魔法は知らなかった故にそう思ってしまっていた。


「あれで使ったのは、3つだ。1つ目が目標に対して魔法でマーキングして追尾させる魔法、2つ目が風魔法、3つ目が速度強化の魔法だ」

「本来自身に使用する速度強化の魔法、でも今回は自分から発する風魔法自体にそれを組み合わせることで、魔法自体が飛ばされる速度を速めて威力自体をも上げ、制御しきれなくなった速度のものをマーキングで無理矢理ぶつけている……ってことですか?」

「お前――理解速いな。その通りだ。補足するならば、あの時の速度としては音速と呼ばれる速度まで上げていた。そこに風魔法の威力だ。すごいだろう?俺のオリジナルだ。ちなみに特許も持っている。まだまだ研究が進んでいない分野だ。そもそも使える人間が少ないのもあるが……で、試してみるか?」


少し……ほんの少しだけ、面白いなと思った。

実は、魔法というものは数千、数万と、記録されているものの数だけでも、この数を越えるくらいに種類が多い。教科書などに載っているのはほんの一部なのだ。一部の部族だけで使われている魔法や、王侯貴族にのみ口伝されているものを含めれば一体どれだけになるのか。数えたくもないほどに膨大な数になる。

それらを複数個組み合わせる。その組み合わせだけでも天文学的な数値になる。

自分が想像もしていなかった、知らなかった『複合魔法』。正直、オリジナルという部分にも惹かれた。だから、なんだか分からないが首が自然と縦に動いていた。


「よし!じゃあ、基礎的な魔法で試してみろ。まず、小さな炎の魔法を作り出す」


言われた通り、左手の上で浮かせるように掌くらいのサイズの火球を産み出す。初級魔法だ。

炎に恐怖心を抱いていると成功しないらしい。魔法は基本的に、想像力――イマジネーションの強さが物を言う分野である。だからその対象を怖がっていては想像どころじゃないし、なによりも想像するために必要な観察も上手くいかないのだろう。

授業で苦戦している人間は多数いた。


「で、そこに氷魔法をひょいっと出す」

「ひょいっ??」


急に変な効果音が飛んできて、疑問を口に出してしまう。なんだひょいって……と変なところに気を取られていると、氷魔法が変なところに飛んで行ってしまった。2つの魔法を同時に出すことは初めてだったが、割とすんなりとそれは出来た。しかし制御が効かなかった。


「はい!失敗ー!!!ざまあ!!あれー?何をやっても上手くいっちゃうんじゃないんでちゅかー!!?」

「……大人げないって言われませんか?」

「言われる。惜しかったから、もう一回挑戦してみろ。すぐにだ。俺の直感的な言葉は別に考えなくていい。お前なりに今度はやってみろ」


そう言われて再度魔法に集中する。

まずは火球を生み出す。そしてそれを……火球を包み込んで融合するように重ね合わせた――。


少し出力を高めに出していた魔法2つが合わさり、周囲が軽い蒸気で包まれる。それと同時に、床がびちゃびちゃになった……。


「成功、した?」

「……お前、やっぱすげーわ。普通は2つの魔法を同時に出力することすら、素質がいるし何年修練をしたところでできないやつもいる。――流石、あの家の出なだけあるな」

「あの家?」

「ん?ああ、そうか。なんでもない。気にするな」


クレイヴ先生が何かを口走りかけたが、そんなことは気にならなかった。

それよりも私の中にあったのは、何か探していたものが見つかったような晴れやかな気持ちと異常なまでの高揚感。一つの魔法では、ただの一つの物質しか生み出せない。しかしそれを合わせた瞬間、全く別の不思議な現象が引き起こせる。それはきっと人智を超えたものも――。


魔法単体ではなんとも思わなかったのに、それを掛け合わせるというより高度になった瞬間、変化した。私の心にまで魔法がかかったようだと、らしくないことを考えた。


正直、魔法の融合が成功した瞬間、楽しかったのだ。何が起きるのだろう、どんな反応が待っているのだろうと。

もう一度、今度は同時に魔法を発動する。一瞬にして更に多くの量の水で床が満たされた。


「見つかったか?楽しいこと」

「はい。私、もっといろんな魔法を試したいです」

「……さっきまでとは別人だな」


予感がする。きっと私はこの『複合魔法』に出会うために生まれてきたのだろう。

これで母に良い報告ができる。きっと彼女であれば、私以上に、まるで自分のことのように喜んでくれるだろう。この学院に入れるくらいの魔力レベル、そして素質を併せ持って生まれられたことにすら感謝の感情が湧き上がってくる。

そして私はあの死にかけた切っ掛け、そしてこのクライヴ先生と『複合魔法』に出会わせる切っ掛けを作ってくれた――怒りの対象であったはずのオーランドにすら今は感謝していた。

だからこそ、彼の望み通り私はこの『複合魔法』にこれから時間を捧げよう。そう決意した。


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