57.
「リーシャ!大丈夫か!?」
光が収まった瞬間、私の名前を裂けんばかりの声で呼びながら、すぐに目の前に飛び込んできたのは、息を荒くし、必死な形相をしたクレイヴ先生だった。
現実の私の身体には、あの悪夢のような火傷も、動かない右腕もない。ただ、魔法の中であったとはいえ精神を魔法で操られていた負荷による酷い目眩と、魔法の中での時間の流れと、決闘当日のままであろう現実の時間の乖離に酷い頭痛を覚えていた。
視線を少しずらせば、向こう側ピクリとも動かないオーランドが見えた。魔法の中の私のように、担架に担がれて運ばれて行っていた。
「……勝者、リーシャ=スプライント!!」
クレイヴ先生の厳格な声が闘技場に響き渡った瞬間、わっと地鳴りのような歓声が観客席から湧き上がった。
勝った。
私は、オーランドに勝ったのだ。
魔法の中とは違い、勝負に勝って、婚約解消もそのまま成されるだろう。そして、師や友人を裏切ることもしていない。
最高の気分だった。あの魔法の中が最低な状態だっただけに。
***
「優勝・蒼氷!」
あの後、緊急事態と国からの調査が入るということで、一時的に決闘及び魔導祭は中止になったが、あの後再開され、私は決闘でも優勝を飾ることが出来た。
オーランドとの試合を観ていたらしい代表の生徒の一部は、私と戦う前に辞退……降参をしてしまい、不完全燃焼なところはあったが、勝ちは勝ちだ。
そして今日は授賞式。
蒼氷の代表のモヒート先輩が、トロフィーと賞状を受け取るところを見るはず――だったのだが。
「行ってこい、スプライント。君がチームで一番活躍したんだ」
異例の私がトロフィーと賞状を受け取り、祝福を受けることになった。
私達のチームが勝ったのだ。最初はあんなにも興味がなかった魔導祭だったのに、終わってみると、楽しかった思い出ばかりが思い出される。
私はとても幸せだと思った――。
******
魔導祭から1か月ほど。
私の周りでは、いろんなことが起こった。
まず、婚約が正式に……完全に解消された。この事実には、とても安心した。これを聞くまでは、どこか脳裏にあの魔法でのことが染みついていたからだ。やっと解放されたと思えた。
そしてそれと同時に、オーランドのことについても聞いた。
私を最後に襲ったあの魔法。あれは、元教師のリューガスが使っていたものと同じものだったようだ。計画の一部。オーランドは、その魔力の高さから、授業などで細工されていたのだろうという話をクレイヴ先生から聞いた。
でも、そんな事情があったとしても、私は到底彼を許したいとは思えなかった。
私がそんなことを考えていたからだろうか。あの魔導祭での怪我を治療されたオーランドは、実はあの決闘の日からずっと行方不明なのだそうだ。そして今では完全に退学扱いだ。今までオーランドにちやほやしていた人間たちが、コソコソと悪口を言っている様には人間の醜さを感じたが、人間なんてこんなものだろう。
ちなみに、彼が両親に手紙を残していたことから、自分自身で姿を消したのだろうと言われているが、もう一生会うことはないのだろうことはなんとなく予感している。
でも、もう何もかも『過ぎ去った事実』なのだ。
私は過去に後悔なんてないし、今後も思うままに生きていくつもりだ。
放課後、『いつものあの場所』への扉を開く。
「来たか、スプライント。待っていたぞ。昨日のあの魔法についての続きだが――」
「うっわ、モヒート先輩、リーシャがついて早々それですか?流石に、魔法馬鹿すぎ……」
「リーシャさん、お茶はいかがですか?お菓子も用意してますよ」
「セレナ先輩、俺も食べたいです!」
「はああぁぁあ、この場所も狭くなったなー。リーシャのせいで」
「そんなこと言って、もう認め始めてるんだろう。マーカス。お前は相変わらず素直じゃないな」
この場所は、以前よりも和気あいあいとして、賑やかになった。
モヒート先輩、ミレイア、セレナ先輩、ガイゼル先輩、そして文句を言っているマーカスも、皆優しい顔をして微笑んでいる。
そして何よりも、クレイヴ先生がたくさんの生徒に囲まれて、とても幸せそうなのだ。
「さて、今日も始めようか」
クレイヴ先生のその言葉と共に、もう日常になったこの幸せな時間が始まる。
この時間が永遠に続けばいいと思う。でも、それと同時に、未来が楽しみで仕方がない。
私は今度こそ、自分の道を、未来を掴み取った――。
他作品も色々アップロードしているので、ご興味ありましたら是非。




