43.
ヒューゴ先生が降参してすぐ。
私たちは講堂を離れ、北棟へ向かって廊下を進んでいた。
「いやぁ、ヒューゴ先生を倒したのは大金星だよ!このままどんどん行っちゃおう!目指せ、教師全員撃破!!!」
ミレイアが軽い足取りで走りながら、楽し気に話しかけてきた。
今はどこに敵がいるのか分からない状況なのに、仲間故の信頼感とでも言うのだろうか、全員リラックスした状態で移動していた。
「でも教師の一人を倒すのに四人がかりですよ?流石に全員は無理だと思います」
セレナ先輩が冷静に返す。
私も流石に教師全員の相手をわざわざしたくはない。特にクレイヴ先生とは会敵したくない。生徒を全て狩りつくさんとする狂戦士状態になった人を相手にすると、怪我をするどころの話ではないだろう。
面倒事を避けるためにも、最後まで隠れ切るか、会うのはあの人以外でありたい。
「まあまあ。鬼ごっこだぞ?倒す競技じゃないんだから、逃げ切ることを第一に考えて行動するぞ。俺達にはまだまだ他の競技が残っている」
モヒート先輩が改めて方針を固める。
私と同じだ。隠れ切るか、逃げ切る。
丁度、廊下の壁に浮かぶ大型魔法モニターが更新された。淡い光が走り、文字と数字が書き換わる。
《総参加生徒数:500》
《残存生徒数:302》
「……減っていますね」
セレナ先輩が呟いた。
さっきヒューゴ先生と戦っていたときの表示より、残っている生徒の数がさらに減っている。しかも、かなりの人数。目を離してからそんなに時間は経過していないはずなのに、勢いが全く止まらない。
画面が次の表示に切り替わる。
捕縛数(上位3名)
《クレイヴ教諭:93》
《アルメリア教諭:22》
《ヒューゴ教諭(退場):12》
「え、数字が、なにこれ。怖すぎる……」
ミレイアが言う。言わんとすることは分かる。この短時間で、この数。
クレイヴ先生の実力は知っているが、それ以上に、その必死さが伝わってきて怖い。
「とんでもない勢いだな。去年以上だ」
モヒート先輩が腕を組む。あの先生のことだ。去年より、もっと研究費が欲しいのだろう。だから万全な準備をしてきているはずだ。ちゃらんぽらんに見えて、重要な場面では一切手を抜かない。それがあの人だ。
そして次の表示。
チーム別残存数
《蒼氷 残り65/100》
《紅炎 残り70/100》
《黄雷 残り60/100》
《白凛 残り58/100》
《黒狼 残り49/100》
「黒狼が大幅に減っていますね。大きな戦いがあったのでしょうか」
セレナ先輩が眉をひそめる。
黒狼の戦法からして、複数人で教師の相手をして、ポイントをまとめ取りされてしまったのだろう。クレイヴ先生あたりにでも。
いくら魔法を学んでいる生徒と言えど、所詮は急に組んだだけのチーム。教師からしたら、烏合の衆だろう。私達を含めて、だ。ここの学院の生徒は、別に連携のための特殊な訓練を積んでいるわけではない。
足を止めてモニターを見ていると、また3人、生徒の数が減る。
「はは、化け物だな。これを相手にしろだなんて、この学院は酷い場所だ」
モヒート先輩が苦笑する。
きっと皆同じ気持ちだろう。戦う以前に、会敵したくない。見たくもない。
「どうか、会わずに平和に終わりますように。一生のお願い!」
ミレイアがそう言った、その直後だった。
ドォン!!
少し先で、建物が揺れるほどの大きな衝撃。
廊下の窓ガラスが震えて、更なる衝撃を受けて、一部が割れていた。
「……今の」
セレナ先輩が顔をしかめる。
私達に疑問を投げかけながらも、既に魔力探知をしながら周囲を警戒しているのは流石だと言えた。
モヒート先輩が警戒しながらも、窓の外を覗く。
「……あー」
嫌そうな声を出した。
でもその頃には私も薄く伸ばした魔力探知の先で、誰の仕業なのかを察していたので、同じ反応をしていた。
魔力探知で気付かれないように、数十メートル分しか探知をしていなかったのが仇になった。見える位置に、ソレはいた。
中庭の広場。そこにいたのは――
マーカス。そして、クレイヴ先生。
美しい中庭の巨大な噴水を大破させたうえで、巨大な土壁を展開している。
そして、その前で拳を天に突き出しながら、魔法を放つハイテンションな男――クレイヴ先生。貴方、そういう暑苦しいタイプを冷ややかな目で見る人でしょう、先生。
キャラの豹変ぶりに、思わず内心ツッコミをいれてしまう。
「俺のボーナスぅぅぅぅ!!!」
拳が振り下ろされると同時に、マーカスが間に展開していた土壁が、もろくも爆散する。
炎魔法と水魔法で大規模な水蒸気爆発を起こしたのだ。範囲を狭めて、威力を大きくするために、重力魔法も合わせている。
この威力にするために、噴水から吹き出ていた水を利用したのだろう。流石はクレイヴ先生だ。
予想外の爆発に、マーカスが吹き飛んだ。
「ぐっ!」
「……」
全員、無言になってしまった。
「ねえ」
ミレイアが小声で言う。
「今の見なかったことにして通り過ぎるって選択肢ある?」
「賛成です」
私は即答した。
むしろ、彼女が言わなかったら私がそれを言っていただろう。
「マーカスには悪いが、彼がもし命を落としたとしても、俺たちまで捕まる義理はない。それに別のチームだしな」
モヒート先輩も頷く。
正義感が強い人だが、本来は合理的な人だ。
「合理的判断だと思います」
セレナ先輩も冷静だった。彼女は優しい先輩だが、危険を感じたら、知り合い程度の間柄の人は見捨てる冷静さを持っている。
満場一致での判断。これはきっと間違いないだろう。皆、競技のことは置いておいて、死にたくなんてない。
「逃げましょう」
静かに廊下を離れようとする。
その瞬間。クレイヴ先生が振り向いた。中腰で歩きながら、ちらちらと動向を見ていたせいだろう、彼と目が合う。
一瞬の沈黙。
そして――。
満面の笑顔。
「お」
嫌な予感しかしない。
「お金ちゃん、四人追加ぁぁぁ!!」
実家の犬が手術していたので、帰っていたのもあり、投稿できていませんでした。
今は落ち着いたので、順次更新していきます。




