召喚
「異界の勇者よ、我が王国のために姿を表したまえ」
王城に設けられた一室。
円形の魔法陣が描かれた祭壇を前に、ティアラを付けた金髪の王女が祈りを捧げる。
バーダル王国第一王女ジークフリート。
起きている隣国との戦争で窮地に立たされている状況を挽回すべく、異世界からの英雄の召喚を試みる。
途端、煌々と輝き始める魔法陣。
従者たちが「おお」と感嘆の声を漏らし始める中、魔法陣に光の柱が立ち上る。
「おお、よくやった。これで国は救われる」
娘をほめたたえる国王、バーダル三世。
やがて光の柱が薄くなり、召喚された者の姿があらわになる。
「え…」
直後、場の空気が凍り付く。
目の前に現れたのは、英雄どころか人ですらない物体。
なんかの台座に立っており、剣を持ち鎧を着ているデザインの素焼きの土器、所謂ハニワだった。
「…は?」
ジークフリートの思考が完全に停止する。
ゆっくりと父親を見ると、表情を変えないまま彫刻のように硬直し、真後ろに倒れる。
「へ、陛下!気を確かに!」
二人係で医務室に運ばれる国王。
従者たちも国王を追いかけ、部屋にはついにジークフリートとハニワだけになる。
「終わった、この国も、妾の人生も…」
「ははは」と乾いた笑いを漏らしながら、崩れるように両手両ひざを床につく。
生まれてから英才教育を受け、誰よりも気高く、誰よりも勉強を重ね、果ては召喚術を身に付けた。
最高難度の異世界召喚術。
しかしその結果が目の前の素焼きの土器である。
こんなのでどうやって戦えというのか…
「どうしよう…」
召喚に必要な魔力は既に使い切っている。
このまま国外へ逃亡でもするかと考えたとき、ハニワが声を発する。
「女、何を泣いている?」
「え!?」
思わず顔をあげる。
しかしそこには召喚した時と何一つ変わらない土器の姿。
一文字に閉じた口と楕円の目の、どこか愛嬌のある表情で相変わらずこちらを見ている。
「我に理由を聞かせよ、なぜ泣く?そもそもここはどこだ?」
表情も、口すら変えず、声だけが届く。
「えっえっと、わた…妾はジークフリート。
バーダル王国の第一王女で…じゃ」
目の前の珍事に口調を忘れかけるジークフリート。
王女としての威厳を損なわないために、おとぎ話の王女を真似してキャラ付けしているが、理会できない状況につい素が出る。
「今、わが国は滅亡の危機にある。
隣国の侵攻で国の主要な都市が落とされ、風前の灯火。
対する敵は精強、数もはるかに多い。
そこで戦局を逆転させるために異世界より英雄を召喚したのであるが…」
「詳しく教えよ」
「え!?」
「戦局、敵勢、味方軍、地勢、戦に関する情報をすべて我に教えよ」
相変わらず何一つ動かすことなく、淡々と声を放つ土器。
「わ、わかった。こっちだ」
作戦室に案内しようとするジークフリート。
しかし、土器は微動だにすらしない。
「我は動けぬようだ、持ち上げて直接動かせ」
「え…」
まさかの事態にさらに困惑するジークフリート。
仕方ないと覚悟を決め、持ち上げる。
「お、思い…」
およそ三十キログラム近くの重量。
文官職で力仕事をしてこなかったジークフリートにとっては、かなりの重量である。
「ま、待て、いいものを持ってくる」
そういって退室するジークフリート。
少しして台車を持ってハニワの元に戻ってくる。
荒縄で引っ張る形の台車。
普段は重い荷物を奴隷に曳かせている物。
ハニワを何とか持ち上げて台車に乗せると、王国の将軍や参謀の集まる作戦会議室に向けて移動する。




