■■■■■。
「遂に最後の日だね。と言ってもやることは魔物退治だけど」
アリアは拍子抜けした。てっきり昨日以上の理不尽が、例えばエピックとオウルが同時に相手をするなんて事があるかもしれないと恐れ慄いていたのだが全然そんな事は無かった。
「そうそう君に渡す物が」
そう言って差し出してきたのは鍵山から受け取った散弾銃『エコー』。
流刑地から帰って目覚めた後、エピックが整備及び改造すると言って持っていっていたのだが、今日それが帰ってきた。
「古めの銃だけど良く手入れされていた、でも実戦で使うには流石に心許なかったからね。威力、耐久、そして弾を無限に出るように魔改造したから頼りにしてくれたまえ、ああでも反動とかはあるから慣れておいてね」
アリアは丁寧に両手で銃を受け取り、『エコー』をじっくりと見て触る。ポンプアクションだったものはセミオートに改造されてた、しかし原型がかなり残っていたのを見るにエピックからの敬意なのだろうか。
「ありがとうございます。今ここで使ってみてもいいでしょうか?」
「ああ、じゃあ丁度そこにあった騎士甲冑に撃ってみなよ」
「なんであるんですか」
それは兎も角、アリアは鍵山の構えを思い出しながら銃を構えて引き金を引いた。
すると離れた位置にあった甲冑が粉々になり、原型が全く無くなっていた。アリアはその威力に恐怖した。反動が少なく弾を装填する必要もなく重さも片手で持てるほど軽量、更にこれは散弾銃なのでもっと近くで撃ったら威力はとんでもないことになるだろう。生物に撃ったら血の爆発が起こる。
「おーこれは中々。会心の出来だ」
「これは無闇に使えないですね...流れ弾で無関係な人が死にそうです」
「そこはまあ、慣れるしかないね」
想定外の贈り物を貰ったアリアは早速魔物に銃を試すべく、足早に拠点から出ようとする。そんなアリアをオウルは呼び止めた。
「おい」
「?、なんでしょうか。先生が呼び止めるとは珍しいですね」
「今回はな。......お前が死んでは色々と面倒だから、やるよ」
渡されたのは綺麗な緑色の宝石。何の装飾も加工もされていない磨かれただけの宝石、何か力を感じるが詳細は分からなかった。
「なんですかこれ?」
「お守りとでも言っておこうか、これを渡したことはあいつには黙っておいてくれ。...いいか、絶対に油断するなよ。慣れ、慢心は死に直結する。それを心に刻め」
「.....わかりました。深く刻んでおきます」
片手で構え標準を合わせる、弾が発射され魔物の頭に命中した。顔だけがポッカリと無くなりその威力を再確認したアリア。第二等級相手にはほぼワンパンでき、第一等級並みの魔物にも有効打に成り得る強力な武器が手に入りウキウキな気分。
未だ第一等級の強い方の魔物には逃げるしかないがこのままいけばいずれ対等に、いや超えることが可能なはずだ。そう確信したアリアはどんどんと戦いに明け暮れていく、ふとロマリスの言葉が頭に浮かんできた。”私達は同類”的なことを言っていたがそれは間違いではなかったとアリアは思う。
日が暮れてきた頃、魔物に見つからないよう身を隠して休憩していたアリアは炎を纏う巨大な魔物を見つける。
最終日なのでせっかくなら何か記念に強い魔物を倒したいと考えていた、この魔物は間違いなく第一等級で勝てるかはわからない。
だが分からないからといって諦めるような性格はしていない、なので頭の中で策を考え始めた。
月が出て、完全に夜の時間帯になった。時間をかけて色々と仕込みあの魔物を倒すためだけの罠を仕掛けた。後はその場所に誘導するだけ、だが一番の問題はそもそもこちらについてきてくれるかなのだがそこはもう信じるしかない。
剣をを持ち魔物の前に出ようとするその瞬間、とてつもない殺気がこの周囲を包んだ。そのせいで追跡していた魔物は驚いてどこかに逃げてしまった。
第一等級が逃げたという事実、明らかに異質な存在が近くに来た事でアリアの感情は不安と恐怖で塗りつぶされた。しかし三週間この魔境を居た経験がアリアの体を動かした。
まずは罠を仕掛けた場所への撤退、予め作っておいた隠れ場所へと隠れてその存在が何なのかを確かめようとした。
音や魔力を垂れ流す誘導石を開けた場所に置き、自分は離れた木の上に隠れる。隠密の魔術を使ったので大抵の生物にはバレないはず。
そしてしばらくじっとしていると足音が聞こえてきた。こんなところに人がいるのか、一瞬アリアはエピックさんと先生かもと思ったが”何があろうとも手は出さない”と言われているのでその線は無い。一体何者なのか検討もつかないが、何であれ敵ならば全力で応戦しなければならない。
暗闇より出てきたのは人型ではあるが絶対人間じゃない中身をしたドス黒い『闇』だった。手と足には錆びて所々欠けた黒い鎧、ガントレットの先端は龍の様に鋭い爪の形をしている。手にしているのは血塗れの大剣、剣身の半分は無かった。
胴体や顔は完全に闇に飲まれており何も見えずボロボロの黒の布でそれを隠していた。何処となくエピックを思わせる風貌だがアリアは断じてアレがエピックと似ているなんて思いたくなかった。
アリアの心の恐怖は転じて怒りへと変わった、必ず奴を殺して大好きな人の名誉を守らなければならないと自分勝手な思いだと理解していながらもそう強く思った。
アリアは隠れるのを辞めて感情のままソレの前に出て斬りかかりたかったが何とか抑えて、まずは手始めに土で造った人形をけしかける。
戦いにおいて重要なのは情報。相手がどんな技術や能力を使ってくるのか、弱点は何かなどの情報をある程度集めてから直接対決に望みたい。
四体ほど造り、前進。左右から別々に殴りかからせるが、その全てを一刀両断。
硬く造ったはずなのだがバターを切るが如く斬られた。アリアが驚いている中『闇』の視線がこちらを向き、目が合う。
龍の様に細長い瞳孔、紫に淡く光るその眼を見た瞬間にアリアの手がカタカタ震えはじめた。頭では何も感じず、無意識に綺麗とまで思っていたが、身体そして血はそうじゃなかった。本能が訴えるのだ、アレから逃げなければならないと。
その訴えに従い全速力で後ろに逃げるアリア。当然それを見た『闇』は追いかけてきた。
「■■」
全く聞き取れない言葉を叫びながら迫ってくるので若干涙目になりながら逃げ続ける。
「■■■■■■■■■■■、■■」
「何言ってるんですか馬鹿ーー!!!?」
悪態をつき、息切れしながらも走る。走り続ける。
「はぁ...はぁ...」
ひとまず岩陰に隠れた。撒けたようで一安心、とはいかない。今も強烈な殺気があちこち動き回っているから全く気が休まらない。
「これからどうしよう......」
心は怒りと恐怖で半々、それだけならばまだ戦えるが身体の方が震えて武器もまともに握れないし魔力の制御も乱れている。これじゃあ何も出来やしない。
アリアは途方に暮れるのだった。




