彼女は何を求めたのか
「騒動を楽しんでる」
誰かがそう結論付けた。
「平穏や栄達など求めない。
破滅をただひたすら求める。
そうとしか言えない」
その言葉には一定の説得力があった。
なにせ、実際にそういう行動をしてたのだ。
他に言いようが無い。
解釈のしようがない。
「それだけならまだいい。
自分だけがそうなるなら」
解説は続く。
「だが、ああいう人間の怖いところは、他を巻き込むところだ。
自分だけに留まらない。
何故か他人を巻き込もうとする。
そう、言うなればだ。
友達を作ろうとする子供のように。
他の誰かを巻き込もうとする」
聞いた誰もがぞっとした。
破滅に巻き込もうとする者がいる。
その事実に。
「これも想像でしかないが。
おそらく、悪女はごく普通に当たり前のようにやっていたのだろう。
それが楽しいから友達を誘う。
楽しいから他の人にも伝えたい。
そういう無邪気さで、他人を破滅に引きずり込んだ」
普通の人間には想像が出来ない考えだった。
しかし、悪女なら確かにそうだろうと誰もが思った。
「おそらく。
彼女にとってそれは良い事だったのだろう。
楽しい事にみんなを引き込んだ。
そう考えていたのではないだろうか」
もうこの時点で誰もが理解不能になっていた。
なんでそう考える。
どうしてそう思う。
そんな疑問を抱いた。
抱いたが答えは見つからない。
当たり前だ。
普通の人間には持ち得ない感性だ。
持ってないものを理解出来るわけがない。
推測する事も不可能だ。
ただ、そうだろうと分析するのがせいぜいである。
そんな理解不能な悪女について、分析者は次のように締めくくる。
「自他の区別がついてない。
だから、自分が楽しい事は他人にも楽しいはず。
そう思っていたのだろう」
そして、と解説者は続ける。
「そして、それに賛同しない者に癇癪を起こしていたはずだ。
なんでこんな楽しい事を拒絶するの?
なんで一緒に遊んでくれないの?
子供がそう言うように」
誰もが想像した。
無邪気な子供を。
何かに誘いに来る子供を。
とても楽しい事を見つけた子供を。
その子供の誘いにのれば、子供は嬉しそうにするだろう。
しかし、もし誘いを断れば?
子供はどうするか?
不機嫌な顔をするだろう。
あるいは悲しそうな顔をするだろう。
それとも怒るのかもしれない。
何にせよ、決して良い感情は抱かないだろう。
そんな子供と悪女が重なった。
「では、彼女は子供のような存在なんですか?」
誰かが尋ねた。
分析者は首を横に振って、その質問に否定の意を伝えた。
「そうではない。
多くの子供達も、良し悪しの区別がついている。
だんだんとついていく。
しかし、彼女はそうではなかった」
善悪の区別がつかない…………というのとは違う。
ある意味、区別はついている。
ただ、善悪が逆転しているだけで。
「悪女にとって、善良なる事が悪業であり。
悪業が彼女にとっては善良だったのだ」
この逆転が悪女を悪女たらしめていた。
「彼女にとっての普通は、すべからく悪業だった。
悪業が彼女にとって良きもので普通なのだ」
それは説明を聞いてる者達にもよく分からない。
あまりにも異質すぎた。
だが、異質過ぎるが故に、言いようのない違和感と嫌悪感を抱いた。
真の邪悪。
悪を悪と思わない。
逆転している善悪の価値観。
それ故に世の中を理解出来ない。
「おそらく彼女は、世の中が邪悪にまみれてるように見えていたのだろう。
だから彼女は、そんな世の中を正そうとしたのかもしれない」
理解出来ないおぞましさ。
その説明を聞いた多くの者が感じたのは、そういったものだった。
続く言葉も、それを更に増長させた。
「もしくは、他の人を楽しい一時に誘いたい。
我々が平穏を望み、それに人を誘うように」
とどのつまりそれは、次の言葉に至る。
「彼女は人をよりよい状態に、騒乱と壊滅の中に誘おうとしたのかも」
悪女と呼ばれたモノの考え方。
それを推測して出て来たのがこれだった。
「これが正解なのかどうかは分からない。
だが、私はこうなのではないかと思う。
考えがここに至った」
「あるいは。
彼女は言った、『退屈だ』と。
彼女が世の中に何の価値も見いだしてなかったのだろう。
だから、楽しい事をしようとした」
「その一つが、王権の乗っ取りだったのかもしれない。
彼女にとってそれは、とても面白いゲームだったのかもしれない。
ゲームだから楽しく取り組んだ。
ゲームだから、真剣に遊んだ。
ゲームだから、事の達成に挑んだ。
あらゆる危険をかえりみず」
「失敗すらも恐れてなかったのかもしれない。
彼女に失うものはない。
生きてる事は楽しくもなんともない、退屈なもの。
苦痛ですらあったのかもしれない」
「そんな人生を楽しもうとしたのだ。
命がけで。
いや、命をかけたという気にもなってないのかもしれない。
命に価値を見いだしてなかったのかもしれない。
生きてる事が退屈なら、そんな生きるという事にどんな価値を見いだすのだろう?」
「そんな彼女は、退屈を紛らわすために活動した。
自分にとって楽しい一時を得るために。
多くの人にも楽しんでもらおうと。
だから国を巻き込んでの騒乱を起こしたのかもしれない」
「出来ればこの考察が的外れである事を願う。
もしこの通りなら…………私は人という存在に大きな疑念を抱かざるをえない」
悪女の行動や言動、思考を探求した者はそう言って説明をまとめた。
それを耳にした者達は、言葉もなく沈黙を保った。
聞いても考えがまとまらない、そもそも異質過ぎる思考を理解しきれない。
どうにか理解をしようと、説明を何度も頭の中で繰り返す。
口を開いてる暇などなかった。
ごく一部。
説明を理解し、悪女の思考を推測できた者達は、また違った思いを抱いた。
あまりにも異質過ぎる考え。
そんな存在の事を理解してしまったが故に沈黙した。
そのおぞましさに体と心を震わせて。
彼らは恐怖しか感じられなかった。
悪女と呼ばれる存在に。
そのモノが起こした事態にではなく。
そんな事態に至る思考や性格・人格・人間性というものに。
そんな悪女の所業と人間性は、騒乱が終わった後も語り継がれ。
国における最悪の禁忌となっていった。
ただ、一つだけ悪女の功績をあげるとするならば。
彼女に従っていた者達をこの騒動の中で一掃できた事。
連座で関係者のほぼ全てが処刑された事。
何せ悪女に嬉々としてついていった者達だ。
まともであるわけがない。
それらをまとめて処断出来た。
その為の仕分けが済んでいた事が、ある意味利点だっただろうか。
おかげで…………というには、被害があまりにも大きいが。
その後の国の運営についてはあまり滞りが発生する事もなかった。
一時的に出会っても国力が弱体化したので、近隣諸国などからの介入はあった。
戦争になる事もあった。
だが、国内における足の引っ張り合いなどもなく、問題に対処する事が出来た。
それだけが不幸中の幸いだっただろう。
そして、国内問題が一掃されたせいだろうか。
その後、特に問題もなくこの国は長く存続する事になる。
周辺諸国が様々な理由で潰えていく中で。
今の時代までも。
だからといって評価されるわけもなく。
悪女は悪として怨嗟と侮蔑の対象となっている。
「決してああなってはいけない」
「そして、あのような存在を許してはならない」
そういう教訓を後世に残して。
今もこの国では緩やかに相互監視がなされている。
人々の間で、常識として。
どこに悪女のような存在がいるか。
そういう兆候を示してる者はいないか。
それを誰もが気にしている。
見つければ問答無用で処断をするくらいに。
それだけの爪痕を残した。
それだけの傷跡を残した。
それだけの事をした悪女は、いまだにこの国を恐怖と混乱に陥れている。
そう言ってよければ、彼女の願いは達成されたのだろう。
世界を恐怖と混乱に陥れる。
そういう状態を長く続けさせているのだから。
それでも世の中は平穏である。
騒乱も騒動もない。
その原因を取り除き続ける事で。
昔話でかつての出来事を語り続ける事で。
概ね世間は平和であった。
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