第46話 リリイの覚醒
リリイとアーリィを追いかけてきた黒騎士は、静止して鉄仮面の口から蒸気を吐いた。
二人は黒光りする鉄の化け物の異様な風体と、その大きな蒸気音に驚いて心臓を縮ませた。
「イングの新兵器なの? 騎士と馬が一体なの。騎士は人じゃない。騎士はゴーレムなの」
「殺人機械って感じ。たぶん標的は私たちだよね……」
銀色の馬車に乗りこもうとしても、背中を見せたら襲われそうだ。
「馬車でも逃げられない。さあ、おいで。アーリィを狙わないで、私を狙いなさい」
リリイは横にステップして、黒騎士の注意をひいた。
「リリイ! 狙われる」
アーリィが悲痛な声をだす。
「こんなところでは終われない。こんなものをつくったのは誰よ? 何の恨みがあって? ふざけないでよ。こんなマシーンなんかに私とアーリィがやられてたまるかって!」
リリイは祈った。すると、高い空から気力の塊が身体の中に入ってくるような感覚を覚えた。
黒騎士が槍で突いてきた。リリイは浮かぶように後ろへさがり、攻撃をかわした。
「怖くない。怖くない」
リリイは自分に言い聞かせる。
「力が回復したかも。この化け物くらい倒せなきゃ、錬金術師を名乗る資格はないわ!」
走り去った黒騎士は転回して、再び攻撃の態勢になる。
リリイは巻き上がる砂埃を見てはっと気づいた。
「そうだ。土の属性を試してみよう。レミーの真似をしよう」
リリイが詠唱すると、地面の土がくぼみ、線と円が模様をつくっていく。
ほかの属性の術を使うには、原則、錬成陣が必要だ。
土に働きかけて模様を刻むのは、土の属性の初歩の術だが、より高度な術を使うために、錬成陣をつくるのだ。
「いでよ。ゴーレム!」
錬成陣上の地面が盛り上がり、黒騎士より大きな土人形が出現した。
「土の術のコンボなの!」
「できた。私はレミーに教えるだけじゃなかったわ。同時に教わっていたのね」
槍を横に立てて突進する黒騎士に対し、土のゴーレムはリリイをかばいながら殴りかかる。
ゴーレムは黒騎士にあっけなく破砕された。
しかし、空中に散った大量の砂が黒騎士の鉄仮面から中に入っていく。やがて、黒騎士の内燃機関が土で詰まり、動きが止まった。
「ふう……。風の術で砂を操ったわ。なんとか倒せた」
リリイは一息つく。アーリィが駆け寄り、二人は抱き合った。
「怖かった。リリイ。戦えたね。しっかり錬金術で」
「アーリィ。あなたを守るためだから、私は戦えたんだよー」
リリイはアーリィの黒髪の頭を抱いて、そのまま泣きそうになる。
アーリィが顔をあげた。
「つぎはレミーとアンジィ様を守るの」
「うん。城に戻ろう」
リリイの胸元のネックレスの五芒星が、方々に光を放っていた。




