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声を無くした金糸雀は  作者: 毛布子
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金糸雀の唄※旦那様視点

 日々の生活の中にある、ほんの僅かな違和感に気が付いたのは、いつのことだったろうか。



 ――目覚めた時、仕事へ行く時、帰宅した時、眠りに就く時……ふとした瞬間に感じる、些細な違和感。



 人生の折り返し地点を過ぎると、昔はさして気にも留めなかった細かいところが気になり始めると聞いていた。

 五十代も半ばを過ぎた自分にも、とうとうその傾向が現れたのだろうか。


 どんなに能力に優れた者でも、老いには勝てない。

 中流貴族の出であったが、王に見込まれて近衛騎士となり、力で成り上がっていった自分でも……鍛え続けてはいるが、肉体の衰えを随分前から感じ始めている。



 現役を引退する日は、近付いてきている。現在は、実戦力というよりも、指導役としての仕事が増えた。

 時代は移っていく、次代へと流れていく。

 衰えた勢力は淘汰されていく。

 そう、それは決して自分だけに限ったことではない。どんなに力の強いものも、権力を持ったものも……やがては死を迎える。



 人だけではない。

 国も、永遠ではない。

 ……物語のようなこの王国の繁栄は、地道に築き上げられたものではない。いくつもの周辺国の犠牲の上に成り立っていることを、大人達は知っている。


 今の王が健在な限り、王国は安泰だろう。

 しかし、十年後は?

 ……あと二十年経てば、確実に次代に権力が移っている。そうなったら、周囲の状況はどうなっているだろう。





「………なた、……ね」


 ふいに肩を揺すられて、物思いから覚める。

 視線を上げると、妻が心配そうに自分を見ていた。


「あなた、随分長い間ぼんやりとしていらっしゃったわよ。大丈夫?」


 自分を覗き込む、深い海の色の瞳。


 ……ずっと、この瞳に見つめられたかった。


 実の弟に利用された、人質の第二王女。

 ……美しい、隣国の元王妃。


 彼女の降嫁先を自分の元に決めたのは、王自身だろう。

 自分の思いを知っていた王は、利用価値があると同時に危険因子でもある彼女を、体よく押しつけてきた。


 ――幸せな結婚生活ではなかったと聞く。

 だから、これからは自分が彼女を守っていこうと誓ったはずなのに。



「あなた?どうなさったの」

『旦那様?どうかなさったの』



 ほんの一瞬。

 聞き慣れた感覚が告げる違和感に、知らず眉をひそめた。


 欲しかった人を手に入れて、幸せなはずなのに……胸の奥に小さな違和感ばかりが降り積もっていく。



「……?」


 訝しむ妻の身体を抱き締めて息を吐く。

 この苛まれる想いは、どこからくるのだろうか。



「……貴女を愛しています」


 抱き締めた腕の中が震えるのがわかる。

 皆に愛されて育った女性は、隣国で誰にも愛されなかった。

 腕の中の妻が、潤んだ瞳が自分を見つめている。


「私も……あなたを愛しています」



 ――ああ、違うんだ。


 妻から告げられた愛に、感じたのはやはり違和感。耳が求めるのは、……よく似た聞き慣れた言葉。




『愛しているわ、旦那様』


 ――あの声が、もう一度聞きたい。



最後までお読み頂きまして、ありがとうございます。

王様の話の回は、キャラが勝手に動きました。

様々な面で、つたない話だったとは思いますが、新しい挑戦であったこともあり、完結できたことにほっとしております。


すれ違いにするはずが、『全員一方通行』という重たい恋愛モノに仕上がりました。不思議。


最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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