第1話「カッパと子供たちの夏が来る」
今日、久しぶりに
あの子に逢ったんだ
でも…彼はもう子供じゃなかった
当たり前だよね
あれから20年も経ってるんだから…
僕たち妖怪と違って
人間の寿命は短いから
子供だった彼も
すっかり大人になってた…
たぶん、もう彼には
僕は見えないんだろうな…
僕たち妖怪を見られる人間は
純粋な心を持った子供だけだから…
大人になったら見られなくなる
彼は僕を覚えてるだろうか…?
大人になった彼は
奥さんと二人の子供を連れていた
さみしいけれど
やっぱり大人になったんだね
あの年の夏…
彼とはよくこの川で遊んだ
楽しかったなあ
川で溺れてた彼を僕が助けたんだ
あの時は危なかった…
あれが僕たちの出会いだった
僕を見ても彼は怖がらなかった
そして僕に
「泳ぎを教えて」と言ったんだ
彼はすぐに泳げるようになって
僕と一緒に川で遊んだ
彼は僕の大好物のキュウリを
よく家から持って来てくれた
僕は喜んで食べた
毎日楽しかったなあ
でも、やがて
僕たちに別れが訪れた…
彼の夏休みが終わりなんだって
田舎のおばあちゃんちから
自分の家に帰るんだって彼は言った
彼は僕との別れを悲しんで
おいおい泣いていた
もちろん僕も泣いた
抱き合って二人で号泣したんだ
別れの日――
彼の乗る電車を追いかけて
線路の横を流れる川を
僕は必死で泳いで追いかけた
すぐに彼は気が付いて
電車の窓から身を乗り出して
懸命に僕に手を振ってくれた
でもやがて――
川の流れが変わってしまい
本当に別れの時が来た
彼は大声で僕に叫んだ
「かっぱー!
来年もきっと来るよー!
待っててねー!」
僕は大きく頷いて彼に手を振った
「必ず来いよー!
待ってるからなー!」
翌年の夏――
彼は来なかった
そして20年が経ったんだ…
大人になった彼は
奥さんと二人の子供を連れて
この川にやって来た
僕は大人になった彼を見て
懐かしさに泣いた
でも、もう彼に――
僕は見えない
戻って来て二日目――
彼は両手で二人の子供の手を握って
僕の川へ来た
連れていたのは
男の子と女の子だった
子供たちは
小さな手にキュウリを握ってた
キュウリは僕の大好物だ
「パパ見て!
あれがカッパさん?」
女の子が彼に聞いた
「ホントだ…
パパの言ってた通りだ
ホントにカッパがいた!」
男の子は僕を見て興奮している
「だから言ったろう?
カッパは本当にいるって…
パパの友達だったんだ
でも、もう――
パパには彼が見えないんだよ…」
彼が僕のいる川を見て言った
「どうしてなの?」
声をそろえて二人が彼に聞く
彼は寂しそうに子供たちに答えた
「パパは大人になったんだ
カッパは子供にしか見えないんだよ
さあ…
カッパにキュウリをあげてごらん」
子供たちは彼の手を放して
こわごわ僕に近づいて来た
「カッパさん、こんにちは」
「キュウリ、あげる」
僕は二人からキュウリを受け取った
「ありがとう
よく知ってるね
キュウリは僕の大好物なんだ」
僕が美味しそうに食べる姿を
二人はキラキラと目を輝かせながら見つめていた
たたずんでいる子供たちに向かって
いや――
僕に対して彼が話し始めた
「カッパ…
そこにいるんだろ?
残念だけど僕には
もう、君が見えない…
あの別れの日にした
君との約束を
守れなくてごめんよ
あれからもう
20年も経ってしまった…
その二人は僕の子供たちさ
双子なんだ
夏休みの間、こっちにいるから
二人と遊んでやってくれないか?
泳ぎも教えてやってほしい
君の話は何度も聞かせたよ
僕は君のことを
一度も忘れたことはなかった
君と過ごした
あの暑かった夏の日々――
僕の最高の思い出さ…」
話し終えると
彼は木陰に腰を下ろした
僕は彼を見て
懐かしさに涙が浮かんだ
彼の頬にも涙が伝っていた…
「さあ、遊ぼうか!」
僕は子供たちの手を取った
僕と君たちの夏休みは
これから始まるんだ――




