二十六歩目 早く
「クラフターの付加魔法ってすごいんですね。専用武器には縁がありませんし、支給服くらいでしか認識していませんでした」
ソノラが感心したように言って、新緑色の模様にそっと触れる。
生地に直接色を染めたように描かれた模様は触れても目立った凹凸はない。
「これ、まだ効果あるのか?」
「うん。あ、でも、付加魔法かけて貰った後よりちょっとだけ下がってたよ」
「時間経過で効果が弱くなるんですね」
カナカの質問に頷いたフワワが確認したステイタス値を思い返しながら答えれば、ソノラは撫でるように触れていたマントから手を放してそう言った。
「ヴァルさんのお陰でカナカくんのお手伝いができたんだよね。またちゃんとお礼言いにいかなくちゃ!」
溌剌とした笑顔でそう言うフワワにソノラは「うーん」と小さく首を傾げた。
「確かにヴァルさんのお陰もあると思いますが、何よりもフワワが上手に跳ぶ魔法を使えた、という事でしょう? 頑張ったフワワも凄いと思いますよ」
「ああ。それにとてもいいタイミングだった」
「実際アレが無かったらもっと時間かかって大変だっただろ。すげぇじゃん」
「―― …………っ!」
ソノラに続きネスタ、そしてカナカにまでそう言われたフワワは目をきらきらと輝かせながらぴょんっ、と跳ねるように椅子から立ち上がった。
「ま、待ってね! すっごくすっごく嬉しいんだけど、大きな声出ちゃうから落ち着くねっ」
自然と上がってしまう口角を隠すように両手で口元を覆いながら、ぴょこぴょこと嬉しい気持ちが滲み出ているような足取りで三人から離れるフワワに、ソノラがきょとりと丸くした目を細めて、小さく笑いを零す。
「もっと早く言えば良かったですね」
「いつだってすっごく嬉しいよっ!」
ソノラの言葉に慌てたようにフワワがそう言い返す。
そうしてフワワは両手の指を組んで微笑んだ。
「あのね、やっぱりアタッカーとか、すごく強い人とかにはまだ憧れちゃうけど、私だけじゃなくて、みんなにもどうしても出来ない事はあって、その中で頑張ってるんだってわかったから」
昔、フワワと母を助けてくれたエレメンターのような、大丈夫だと思わせるような力強さはフワワには無い。
おそらくどれほど頑張ってもなりたいものような人に、フワワは絶対になれない。
けれどそれは別にフワワに限った話ではない。
「まだまだ全然少ないけど、ちょっとずつ出来る事増やして、もっともっと、みんなの出来る事を手伝えるようになるね!」
そう言ったフワワは青い目をパッとカナカに向けて両手でぎゅっと握り拳を作った。
「無理しないくらいにっ!」
「……おう。頑張れ」
カナカ達が合間に挟む忠告を力強く宣言したフワワに小さく笑ったカナカがそう言い返した。
「なら私ももっと頑張らないといけませんね」
「ソノラも?」
フワワの宣言を聞いたソノラもテーブルに置いている本型の武器の表紙を撫でてそう言えば、ネスタが意外そうな目でソノラを見て首を傾げた。
「はい。今までは遠距離から確実に当てられるので速度を気にせず威力重視でしたが、もっと素早く攻撃できるようになりたいと思いましたので」
「あ、私も早く攻撃とかできるようにもなりたい」
「一緒に頑張りましょうね」
今回の一件を踏まえたソノラらしい考えにフワワが小さく手を挙げて賛同すれば、ソノラがにこりと笑ってそう言った。
それにフワワも嬉しそうに笑い返す。
「そうなると……かなり強くなるな」
「ソノラって力押し好きだよな」
元々攻撃力としては十分なソノラの唯一の欠点と呼べる部分が速度になる。
その欠点を克服したソノラを想像したネスタは、想像の中のソノラの強さに感心したように頷き、カナカはどことなく呆れた顔でソノラを見ながらそう言った。
ソノラはカナカの言葉にそっと頬に手を当てて少し考えるように目を瞑る。
「そうですね…………そうかもしれません。私、小難しく考えるのって実はそんなに好きじゃないんですよ。確実な方を選びたいといいますか」
「まるでアタッカーみたいな発言をするんだな。ソノラは」
ネスタが朗らかに笑って言えばソノラは「そうですか?」と不思議そうに首を傾げる。
「ネスタは何かこうしたいとかないんですか?」
「そうだね! ネスタくんもしたい事とかあったら教えてね」
ソノラの質問にフワワがぱたぱたと椅子に戻りながらそう言って笑う。
それにネスタは二度ほど目を瞬かせた。
「……そうだな。俺は、たぶん、ムルムさんみたいな全体を見ての指示出しは、出来そうにない。けど、もう少し、こう………………その、みんなを守れるように頑張りたいと思う」
ゆっくりと考えて、ゆっくりと目が潰れそうなほどに輝く笑顔でそう纏めたネスタに全員がそっと目を逸らした。
「うん。一緒に頑張ろうね。ネスタくん」
「上手い言葉見つからなかったって事はわかった」
「頑張って考えたのは伝わりました。向き不向きはありますから」
「ありがとう。みんな」
全員の返答になおのこと嬉しそうに微笑んだネスタにフワワはテーブルに置いたままのマントを持ち上げて顔を隠し「すごくきらきらしてるよぉ」と呟いた。
ソノラもテーブルに置いた本を持ち上げて咳払いを一つする。
「それで、カナカは何か要望とかありませんか? 最優先で対応しますけど」
「他人に合わせるの無理。イヤ」
ソノラの質問に食い気味に返したカナカの渋い顔に、今日の討伐の疲労がわずかに浮かんだ。
討伐するまでに何度もアーリャとのタイミングが合わず、一度はアーリャが合わせようとしたもののカナカの速度の方が速いという事で、結局カナカの方がアーリャに合わせる事となった。
その際に浮かべていた不承不承の表情と全く同じ顔をしている。
討伐の為に仕方がないと受け入れはしたものの、元々ソロで活躍していたカナカにとって今更誰かに合わせるというのは本人が進言したくなる程度に難儀だったのだろう。
「……ではこれからも全員がカナカに合わせる方針で行きましょう」
ソノラの言葉にフワワもネスタも異論は一切なく頷く。
カナカのやる気がなくなる事の方が《夕焼け空》パーティーにとっての一番の痛手だ。
御覧くださりありがとうございます。
明日、7/19(日)に次話を更新します。
お気に召したらよろしくお願いいたします。




