八歩目 お家
フワワは鞄の中の最後の一個を両手で持って、少しだけ誇らしげに、緑色の魔石を籠の中に入れる。
「これで全部です」
「あー……なるほどぉ……」
こんもりと籠に積み上がった魔石を見て、ソノラの言葉に応じたヴァルはそっと顔をひきつらせた。
赤や黄、青の魔石の頂点に置かれた小ぶりの中でも少しだけ大きめの緑色の魔石の積まれた高さをまじまじと眺める。
ソノラの置き方が綺麗だったお陰でほろほろとフワワが落とした小さい魔石も零れることなく積み上げられている籠は、下級パーティー用の魔石を受け取る籠だ。
フワワ以外は中級パーティー相当の実力だとは確認していたものの、数あるパーティーの中でも少人数という事もあって、下級パーティー用の籠を選んだヴァルは、その選択をした自分に呆れつつ、足元から中級パーティー用の、少し大きめの籠を持ち上げた。
そうして、籠と籠の間でパチンと指を鳴らす。
小さい籠の中で起きた風が魔石を丸ごと包んで、そのまま真横にある籠の中にそれを収めて消える。
フワワは目を輝かせて、パチパチと手を打つのにヴァルは「あ、どもー」と気恥ずかしそうに軽く返して、籠を持ち上げる。
「実質中級パーティーが討伐した数の魔石換金してきまーす」
言いながらすでに立ち上がって籠を抱えたヴァルが急ぎ足で奥の部屋に下がっていく。
その背中を見送ったフワワは、隣に居るソノラを見上げる。
「ソノラちゃん。討伐数ってパーティーのランクごとに違うの?」
「そうですね。うちはカナカとネスタが中級2相当、私が中級3相当だったので、中級相当の『魔』の討伐もしています。中級の対応が出来るのでその下の下級相当の『魔』も当然討伐できるので、本来の下級パーティーと違って中級相当の『魔』の討伐分があるので、大体の討伐数は違いますよね」
「あとは、下級相当でも中級寄りの強さの『魔』も居る。そう言ったもので苦戦して撤退を選ぶ場合もあるから、そのランクに居るからと言ってそのランク相当の『魔』をすべて討伐できるわけじゃない」
ソノラの言葉にカナカがフワワを振り返って付け加えた説明に、うんうん、とネスタは肯定するように頷く。
「そっか。旅の途中に出る『魔』が全部下級なわけでも同じ強さってわけでもないもんね。それに、下級でも私じゃ全然攻撃が効かない事もあったし」
道中の『魔』との戦闘を思い出しながらソノラとカナカの説明に納得したフワワは、少し考えてからカナカを見る。
「ねぇ、カナカくんは見ただけで大体の強さが分かってたけど、あれはどうやって判断してるの?」
その質問にフワワを見返したカナカは、んー、と言葉に詰まる。
いつもは分からなくても早々に返答をするカナカが悩む姿にフワワは首を傾げて不安そうにソノラとネスタを見る。
二人も悩ましそうな表情で考え込んでいた。
「えっ? も、もしかして変な質問………? あっ、私が分かってないのがおかしいとかかな!?」
全員の反応に不安になったフワワが顔を蒼褪めていくと、カナカが軽く手を左右に振った。
「いや、なんか………感覚? 雰囲気? だから、説明ができない」
「そう……ですね。確かに私も最初は分からなかったんですけど、いつからか見たら大体この『魔』なら倒せるかどうかがわかるようになってましたね」
「気が付いたら、そうだったな」
「な、なるほど。なんか感じ方が違うんだ、ね」
カナカのみならずソノラもネスタも曖昧な返答にフワワはごくりと唾を飲み込んで真剣な顔をする。
そんな会話をしているうちに戻って来たヴァルが不思議そうな顔を一瞬したものの、席に着いて置いたままの籠をどかしてカナカの前に袋と紙を置いた。
「はーい。では、ご確認お願いしまーす」
「……」
緩い口調のヴァルには何も返さず、無言でカナカが【神の雫】を袋に近づける。
そうして半透明に浮かぶ枠の中に記載された金額とヴァルが記載した紙の金額が一致しているのを確認して【神の雫】を下げたカナカは、じとりとヴァルを見る。
「金額の意図は?」
「フラトゥスと北部大都市山間案内依頼料は規定金額先払い制になっておりまーす」
カナカの質問を想定していたヴァルが手早くその内容が記載された紙をカナカに見えやすいように差し出す。
それに舌を打ったカナカが「いらない」と紙を一瞥してから押しのけたのだった。
「宿屋ってのは通常便利良いとこにあるもんだし、宿泊側もその方が良いから成立してる立地を全否定したご要望のお客様にご提案できる宿は、ここでーす」
要望を聞いている最中から浮かべていた疲れた表情でヴァルが示すのはどこからどう見ても普通の一軒家だった。
「普通のお家ですねぇ」
「今まで見た宿もあんまり宿屋って感じしなかったもんね」
「快適生活と縁遠い辺境中のド辺境でそんな建物作ってどうすんだよ。普通の家改装してやってるって」
ヴァルの身も蓋もない明け透けな返答を聞いてフワワは自分が住んでいた辺境の村を思い出して、納得する。
フワワの出身地など観光地でもないから宿屋もなく、エレメンターが討伐依頼で来るときようにある空き家を管理人が定期的に掃除したりしていた。
「観光するとこないしなぁ。まぁ、でも、迂回路と海路が面倒くさかったり急ぎとかでエレメンターの宿泊はそれなりってところだから、宿を潰すわけにはいかないけど」
言いながら扉を開いて中に上がっていくヴァルは、閉じていたカーテンを開けていく。
明るくなってよく見えるようになった室内には、最低限の家具があって少しばかり生活感が欠けているくらいで、外から見た印象と変わらないほどに普通の一軒家の内装をしている。
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