五歩目 フラトゥス
「山と平地だとやはり勝手が違うだろうか? 確かに足場の悪さは気になるが」
カナカが気にしたでこぼことした道を見ながらネスタが尋ねれば、アーリャは少しだけ考えるように近くの木を見上げた。
「あー。さっきみたいな、崖みたいな段差は、山とか森はしょっちゅうあるんだよね。移動手段ならソノラちゃんのやり方をしてもいいんだけど、『魔』を追っかけてる最中だと逃げられるからなぁ。うちは全員崖は跳べるぜー」
「確かに。飛び降りるならあの高さは平気ですけど、上るのは難しいですね」
ソノラは先ほどの移動を思い出して納得する。
今回はソノラだけだったが、二、三名となれば『魔』を見失ってしまうだろう。
「あ、じゃ、じゃあ、同じ風のエレメンターならさっきの、アーリャちゃんがしてくれたやつはできますかっ?」
フワワが期待を込めて尋ねれば、そんなフワワをアーリャは見返す。
「そだなぁ。自分になら安全に出来るけど、うちは他人にやると加減が下手で釣り上げ過ぎる時があるかなぁ。パーティーメンバーの中でも他の人にはできないとかもあるし、覚えたら楽だろうから聞かれたら教えるんだけど、そもそも自分にもできないって人もいるから、個人差だねぇ。絶対とは言えないけど知りたいなら教えるぜ~」
アーリャの言葉に目を輝かせて答えようとしたフワワは、ハッと前のめりになっていた気持ちを落ち着かせて、カナカ達へと確認するように顔を向ける。
それにソノラとネスタはカナカへと視線を向けた。
パーティーメンバーの視線を受けたカナカは、少しだけ考えてから口を開く。
「いいと思う。移動に便利だろうし」
「そうですね。もし覚えたならフワワの身を守る事にも繋がると思いますから、反対する理由はありません」
「あぁ。そうだな。俺も良いと思う」
三人の言葉を受けてさらに目を輝かせたフワワが肩越しに振り返っていたアーリャへと向き直る。
「知りたいですっ! 時間があったら、教えて欲しいです!」
意気揚々と、握り拳を作って言うフワワとカナカ達を纏めて見たアーリャはにんまりと楽しそうに笑った。
「いいねぇ。あ、教えるのはいいけど、覚えたとしてもしばらくは人が居ない時には使わないことが大事な約束だぜ~」
「それは、全然大丈夫ですけど、どうしてですか?」
「慣れたと思った時こそ油断するからさ~。どんなものでも出来た、慣れたって時が危ないからねぇ」
くるくると立てた人差し指を少しだけ上に持ち上げて、それからひらひらと下へと動かしたアーリャの仕草で、意図を理解したフワワはキュッと杖を握りしめてしっかりと頷いた。
「はい。約束します。無茶はしない、無理はしちゃだめですもんね」
「そうそう」
フワワの返答に嬉しそうに笑みを深めたアーリャは足を止めて先を促すように前へと手を伸ばした。
「慣れないでこぼこ道だったろうけどお疲れちゃん。ついたぜ~」
そう言ったアーリャの示す先へと進んだフワワはその先の景色に目を輝かせた。
目の前に広がる緩やかな傾斜に咲き誇る色とりどりの花畑の向こう側には点々と家が建ち、向こう側には綺麗な湖が見える。
突き抜けるような青空に近いいくつもの山々がひしめくその麓に広がる街は決して大都市とは言えない様相で、だからこそ大都市にもない、辺境の田舎とも違った雄大さがあった。
「ようこそ。北部大都市に一番近い山麓の街、それからうちの大好きな故郷 ――― フラトゥスへ」
彩豊かな花びらがひらりと風に煽られて舞い上がる景色を、この上なく嬉しそうに眺めながらアーリャはそう言って、最後に少しだけ恥ずかしそうに笑ってみせたのだった。
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