第126話 家族
1553年(豊新7年)4月中旬 春日山城
春風が雪解けの匂いを運び、春日山城は再び、淡い桜色の衣をまとう。
城を取り巻く山肌は、一斉に目覚めた桜で覆われ、まるで白い雲がたなびくかのようだ。天守へと続く石段、そして堅牢な石垣を彩る桜の花々は、力強い城の姿に優美さを添える。
城下を見下ろす楼台に立てば、眼下には桜の絨毯がどこまでも広がり、運河の水面に映り込む花筏が、春の陽光をきらきらと反射している。
ひとたび風が吹けば、桜の花びらがはらはらと舞い散り、まるで薄紅の雪のように城郭を、そして城下を流れる水面を染め上げていく。その儚くも美しい光景は、この城に暮らす者、訪れる者の心を捉えて離さない。
厳しい冬を乗り越え、今年もまた春日山城は今、一年で最も美しく華やかな季節を迎えている。
「父上~~!此処が良いです!この場所で休憩と致しましょう。」
先を進んでいた、嫡男・六郎が言うこの場所とは、春日山城の本丸近く、大きな桜の古木有る場所である。此処からは、春日山城下から上越平野、日本海を行き交う船や、その先に遠く佐渡島の眺望まで楽しむ事が出来る、絶景スポットだった。
「よし。此処で昼餉とするか。」
「はい。父ウェッツベシッツ…………!!」
「「「「「若様~~~~!!」」」」」
「ふふふふ。この場所は、私が占拠致しましたわ!」
「兄の分際で、一番乗りとか生意気です。」
六郎をプロレスラー顔負けの、華麗なダブルドロップキックにて吹き飛ばしたのは
美雪の生んだ双子の娘、雪野と吹雪、六郎より1歳年下の御年4歳のじゃじゃ馬盛りの姉妹だ。
それにしても、父親としては女の子にしては、やんちゃ過ぎる気がするが、まぁ誰かさんの幼い時にそっくりだし、致し方ないと諦めている。
「あらあら、相変わらず仲良しですわね。」
「これ。今の蹴りには、些か華麗さがたりませんわ。」
「あ姉さま方……流石に、六郎ちゃんが不憫では有りませんか?」
「千代母~~雪母~~諏訪ちゃん~~♪」
「父も早く♪特別に私達の間に座る事をお許し致しますぞぅ。」
それぞれ、幼い子供をの手を引いて千代、美雪、諏訪ちゃん3人の嫁が少し遅れてやって来た。
千代の手に引かれている幼女が3女の千里御年2歳、美雪に抱かれているの甘えん坊が次男の雪之丞2歳、諏訪ちゃんの前を危なっかしい足取りで走ってくるのが、4女美咲2歳、諏訪ちゃんに抱かれてスヤスヤと熟睡中なのが、去年生まれたばかりの三男の咲矢、そして俺の腕に抱かれて「きゃきゃ」と嬉しそうにしているのが、去年の夏に生まれた、末っ子の5女千夏だ。
日本の統一を成し遂げてから、気が付けば間もなく4年となる。
俺も23歳と成って、今や3男5女の可愛いチビ共の父親だ。
言っておくが、この4年子作りばかりに励んでいた訳では決して無いぞ。
荒廃した畿内を始めとした新領の復興対策、各軍団、官僚組織の再編から去年発行された新憲法の立案から発布、新たな新産業の立ち上げに、未だ数々の火種を抱える海外との外交、言い出したらきりが無い程の仕事に追われ、日本中を飛び回る日々を過ごしてきたのだ。
そんな日々を乗り越えて、やっとこうして家族揃って、近場のピクニックに繰り出せる位の余裕は出てきたのだ。
「イテテテで、雪野ぅ吹雪ぃ〜。不意討ちとは卑怯だぞ!」
「ふん。不意を突かれる方が悪いわ。」
「負け犬の遠吠えは、見苦しい。」
「ぐぬぅ〜〜〜。」
「若様、怪我は有りませぬか?」
泥だらけに成った六郎の服の泥を払いながら、怪我を気遣っているのは、今年で12歳と成った竹千代君、今では俺の近習として、毎日うちの子供達に振り回されている。
「あ〜竹千代が、兄様の味方した〜」
「ズルいですわ〜」
「ご安心ください。姫様方、この元親が姫様方に、お味方致します。」
「「わ〜い♪」」
この色白で優しげな美少年は、土佐の出来人君こと、長宗我部弥三郎、今年15歳になって俺が烏帽子親と成って元服、元親と名を改めた。要領も良く人好きする性格の上に美少年、白龍隊の若い女性隊員の中にも、元親のファンが多いと美雪が言っていた。
「まったく、弥三郎は何時も調子の良い事ばかり言って。姫様方、余りお痛が過ぎると…………。」
「その『…………。』が怖いわ。」
「むぅ~。こばやんからの、菓子補給を止められるのは、マズイわ。」
てくてくと危なっかしく此方に向かって走って来ていた、4女の美咲の手を転ばぬ様に手を繋ぎながら、元親とお転婆娘達に小言を言っている、生徒会長系イケメンは今年で21歳と立派な若武者に成長した小早川隆景君、とても、あの謀神の息子とは思えぬ程に真面目で誠実、うちの子達の面倒も良く見てくれる優しい若者だ。
「ははははははは。姫様方、戦略的撤退は大事な事ですぞ。」
「「キャ~。将ちゃんまで撤退~~♪」」
娘達に『将ちゃん。』と呼ばれ、足元に纏わり付かれているのは、元室町幕府将軍・足利義輝、19歳と為った彼は毎日の剣の修行は決して手を抜かず、その腕前は青龍隊隊長の剣聖・上泉信綱と互角、剣聖を唸らせるまでに成長している。出会った当初は、追い詰められた悲壮な面持ちであったが、今ではすっかりと、よく笑う朗らかで落ち着いた青年に成長を遂げた。
「弘〜〜!早く〜こっちこっち!」
「了解したで、御座りますよ。」
空腹に耐えきれず、六郎が呼んでいるのは、大量の弁当を抱えた大柄の若者、19歳と成った【鬼島津】こと島津義弘君、寡黙な性格で有るが、今日の様に一人で大荷物を抱えるなど、人が嫌がる仕事でも率先してこなす、人格者でうちの子供達も義弘に良く懐いている。その武芸の腕前も然ることながら、用兵、軍略から情報戦略、最近では舞ちゃんに師事して、医学の習得まで目指すそのストイックな姿には感心させられる。
雲一つない青空の元、満開の桜の古木の下にゴザを敷き花見パーティーが始まった。
俺監修の弁当メニューは、ハンバーグにウインナー、エビフライ、卵焼き、焼そば、子供達の大好物のオンパレードだ。
大人達は甲斐産の高級葡萄酒、子供達は奥州産の100%林檎ジュースで乾杯だ。
「隙あり~~♪」
「あ~~!俺のハンバーグ!」
「隙ありあり~~♪」
「あ~~!!エビフライは、我の好物と知っての狼藉か!」
「仕方がない。兄には私のピーマンを進呈。」
「断腸の想いにて、私のトマトも贈呈。」
「………お前等、いい加減自分の嫌いな物を兄に押し付けるの止めろ!」
子供達のじゃれ合い、笑い声を聞きながら、嫁達は仲良く談笑し、近習達は最近この日本で爆発的人気を誇る、俺と義兄である長尾晴景が共同プロデュースしたアイドルユニットの曲を歌ったり、踊ったりと普段より羽目を外している。
暫しの、平和な時が流れる。
同じ釜の飯を食って、笑い合い語り合った、この5人の近習も、既に卒業し各地で活躍している近習達も、今や俺にとっては兄弟、子供も同然な大事な家族の一員だ。
出来る事なら、まだ幼いうちの子達や、この前途ある若者達が相争ったり、非業の死を遂げる事の無く、その努力がちゃんと報われ、何時までも今日の様に明るく笑い合える日本を造っていきたいものだ。
はしゃぎ疲れた子供達が、スヤスヤと膝の上で微睡み始めた頃合いとなって
「気を遣わせて、しまった様ですわね。もう、よろしいですわ。」
誰も居ないはずの林に向かって、美雪が声を掛けた。
「………ご家族で、お寛ぎの所を、お邪魔して申し訳ありません。」
林から気まずい表情で現れたには、段蔵の部下の見知った顔の情報局員だった。
どうやら、俺に何かしら伝えねばならぬ事が有った様だが、家族の団欒を邪魔してはと、側で待機していた様だ。
「急用であれば、気兼ねなく伝えてください。」
「はっ。申し訳ありません。南方軍より報告が有り、マニラ王国がスペインによって滅ぼされたとの事で御座います。」
マニラ王国、呂宋の最大の島である、ルソン島の北西部に在る、うちと通商関係を持つイスラム系の独立国家だ。
マニラ王国をスペインが滅ぼしルソン島にてスペインが勢力を拡大するというなら、ルソン島東部と南部を中心に権益を持つ長尾家との衝突は必至となる。
はぁ~。束の間の平和は終わった様だ。
「明後日、評定を開く。近場に居る幹部を呼び集めてくれ。」
また、忙しくなりそうだな。




