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小さくて、不思議で、とても愛しい

短いです。

 翌日。フィンヴィールの番は、期待に満ちた目で紙片を差し出してきた。


(これは……)


 自分が書いたものよりも、ずいぶんと小さくなった魔法陣。だがそこに書かれた文様は、正しいものに思える。


(図のバランス、呪言……)


 細い線で書き写されたこれは、正しく発動するのではないだろうか。


(……やってみましょう)


 この程度の魔法陣であれば、暴発しても大したことにはならないだろう。したとしても、多少魔力を失う程度で済む。そう思い、手のひらに乗せた紙片にもう片方の指先で触れ、そっと魔力を流してみた。


「……!」


 果たして、魔法陣は正しく作用し、青い燐光がフィンヴィールを取り巻く。肌の不快感が消え、術によって生まれた風が髪をなびかせた。効果としても、申し分ないだろう。


(彼女は……とても素晴らしい……!)


 どうやってこの魔法陣を正確に描けたのかは分からない。だが、魔法陣を知らなかったであろう彼女が再現できた事は、素晴らしい才能だ。『正確に書き写す』――それの難しさ故に、魔法陣は廃れているのだから。


(私の番は、可愛らしく、才能に溢れているのですね……)


 いつか話ができたなら、魔術の事も話が弾みそうで嬉しくなる。何も知らないのなら、フィンヴィールが教えたって良い。きっと興味を持って話を聴いてくれるのではないかと思う。初めて魔法陣を見た時のような、輝いた眼をして。それを考えるだけで、胸が弾むようだった。


(そんな日が、来れば良いのですが……)


 それでも今、この魔法陣をフィンヴィールのために描いてくれたのだろうということは理解できる。フィンヴィールが使えないかと、心を向けてくれたことも。


(……貴女に、感謝を)


 そっと小さな手を取り、感謝を表す。言葉が無くとも伝わったのか、番は弾けるような笑顔を見せた。


「…………!」


 その笑顔の眩しさに、痛くなるほど胸が締め付けられる。こんな手枷など無ければ。鉄格子が無ければ。すぐ側に番が居るのに、自由に触れ合うことさえできない。


(どうにか、ここから逃げ出さなければ……最悪、彼女だけでも……)


 ここに居る限り、未来は見えている。番を餌に戦力として使い潰されるだけだ。だが自分が先に潰されてしまえば、番はもっと酷い目に遭わされるだろう。


「―――、―――――――」


 こんな地下牢でも、彼女の笑顔が眩しい。少しでも長く、彼女と過ごす時間を――そんなささやかな希望は、すぐに破られる事になる。



「おい、出ろ!」


 夜明けまでもう少し。塔の扉が開かれる音で、フィンヴィールは目を覚ました。何人もの兵士が無遠慮にやってきては、地下牢の鍵を開ける。


(ついに、来たのか……)


「喜べトカゲ、お前の出番だ!」


 下卑た笑いと共に手枷の鎖が牢の床から外される。


「……っ……」


 いきなり鎖を引っ張られ、フィンヴィールは思わずたたらを踏んだ。


「解ってるよな? お前が余計なことをすれば……」


 兵士が歪んだ唇のまま上階を見上げる。フィンヴィールは何も言い返せないまま、奥歯を噛み締めた。


(彼女にだけは、手を出させる訳にはいかない……!)


 自分が使われることで、どんな被害が起きるのかは目に見えている。だがフィンヴィールにとって、多数の人間よりも番1人の方が大切だった。


「歩け」

「…………」


 鎖を引かれ、牢から出る。


(どうか、無事で……)


 前後を兵士に囲まれ、フィンヴィールが拘引されていく。名残惜しく番がいるであろう塔を振り返ろうとしたが、無理に鎖を引かれてそれも叶わなかった。


(どうか、どうか……)


 祈り続けたまま、フィンヴィールはその場を後にした。

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