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76.契約の強制解除。

やらかしはしてない、はず。

「そろそろ時間的に限界だ、何か聞きたいことはあるか?」

 黒鳥が表情は変えないままそう発言して、あたしたちを見回す。


「特にないかな?」

 ランディ様は簡単な返答、イードさんは無言で首を横に振る。麒麟の子は首を傾げたけど、無言。


「契約、今解除させて貰っていいかしら?あんた自身が思ってるほど、その身体の状態が良くないの」

 予想以上に、黒鳥の意思をその身に押し込められている負荷が大きい。確認無しでさっさと切り捨ててもいいくらいだけど、一応自重する。


「そうか、流石にこいつを害したいわけじゃないし、致し方ない。じゃあ、できればあんたにゃ会いたくないが、そのうち、本体でな」

 そう鋭い目で告げると、黒鳥は目を閉じる。

 自分でやる気はない、というより、恐らくもう自分で解除できないくらい、契約が絡まることによる歪みが酷い状態なんだろう。

 仕方ないので、ひっそり練っていた魔力を無詠唱で開放する。この〈消去〉の魔法そのものの情報はまだ与えてないはずだから、渡さない。契約がもつれすぎて、いちいち順番に解いてられる状態でもないから、使わない訳にはいかないけど。


 ぱちん!


 呪詛の解除とは違う、軽い音がして、契約の全てが解放され、それと同時に黒鳥の気配が消え、属性がカルセスト王子のそれ――光と風と水――に戻る。

 思えば、双方ともに風が目立って大きいとはいえ、よくこの相性の悪い組み合わせでこんな契約に持ち込めたわね?カルセスト王子の状態が悪いの、絶対これも原因よ?あの馬鹿鳥、今度会ったら絶対とっちめよう。相手に対する配慮が無さすぎるわ。

 強制解除だったせいか、黒鳥が居座っていた負荷が大きかったせいか、カルセスト王子の身体がぐらりと傾ぐ。ランディ様がすっと近寄ってそれを受け止めてくれる。いい絵面だわ、いやそうじゃない。


「成程、属性力が消耗させられているのか、解除を急いだのはそれだね?」

 ランディ様も問題にはすぐ気づいたようで、眉を寄せる。


「ええ、これ以上弱らされたら、回復に時間が掛かるどころじゃないですし」

 属性力の消耗は、極端な場合、回復できないこともある重大な異常だという。まあ滅多に発生するものではないんだけど。

 今の状態は、減ってはいるけど、ランクが動く程じゃないから、回復自体は可能だ。もっとも、それでも心身への負担は大きくて、現にカルセスト王子は完全に気を失ってしまっている。

 というか、こんな時にこんなことを思うのもなんだけど、目を開けてないカルセスト王子、初めて見たわ、あたし。

 うん、思った以上に寝顔が可愛い。イードさんのほうはちょいちょい研究室で寝落ちてるから、寝顔も見慣れてるけど。なおイードさんの寝顔もぶっちゃけ目元の険が消えるせいか、可愛い系だ。


「それで、セスト兄は大丈夫なのですか?」

 流石にイードさんも心配そうに覗き込んでくる。そりゃまあ、兄弟だものね。仲も悪くないんだし。


「命に別状はない。属性力が一部減少しているが、この程度なら自然に回復するだろう。ただ契約中の悪影響がどの程度残ったかは、本人が目覚めねば判らんな」

 ランディ様が手短に解説する。


「身体的には特に異常はないですね。ちょっと消耗があるんで軽い治癒だけかけときますね」

 宣言してから、初級の〈治癒〉を発動。素通りはしないので、やっぱり消耗はしてたかな。上級試すほどじゃないはずだけど。


「つる、どっかいっちゃった?」

 麒麟の子が心配そうに尋ねて来る。ああ、この子あの鳥を認識していて、カルセスト王子に懐いてるように見えたのか。坊ちゃん呼びして、それなりに大事にはしてたようだしな、鳥も。


「本体に戻ったわ。でも、そのうち会えるでしょう」

 取り合えずそれだけ答えておく。まあ間違ってはいないはずだ。

 会った時にどうするか、どうなるかは、また別の話ですがね、今この子に教える事でもない。

 カルセスト王子は起きたらすぐ判るよう、一旦イードさんが良く仮眠に使っている長椅子に寝かせておいて。


「取り合えずまずはアスガイア、なんですかね。少人数で行って、下手人二名を拉致ってアスガイアから連れ出す、までが確定路線かな?」

 お茶と茶菓子のお代わりを貰ってから、遮音結界と魔力結界を張りなおし、ランディ様に確認する。イードさんにはカルセスト王子を見て貰ってる。流石にイードさんをアスガイアに連れてくのはダメだと思う。正直スタンピードの被害者になりかけた可能性があるとはいえ、それ以外には全く関係ないというか、その分はサンファン海軍ひっくり返した件でおあいこだろうし。

 まあそれを言うならあたしだって本来なら関係なかったんだけどね。生憎、今はお仕事モードだ。メリエン様の巫女としては見習いのままのはずだから、正規の仕事じゃないけどね。


「そうさのう。そなたは自分で乗り込む気のようだが?」

 やや懐疑的な口調のランディ様。まあ気持ちは判る。


「まあ一番動きやすいのはあたしかな、とは。問題は流石にソロで二人確保は不可能なところでしょうか。女が一人旅していい世界でもないようですし?」

 旅ではひとりになるな、はヘッセン行きの道中でも口を酸っぱくして言われた。まあそうですわね。くらいの気持ちで聞いてたけど。


「ああ、女が、ではないよ。基本的にこの世界で一人旅はあまりいい目で見られんのだ、男でもな。召喚獣を複数連れているとかなら、話は別だけども」

 そういうランディ様は一人で此処に来ましたよね?


「この国くらいだよ、一人でほっつき歩いてても何も言われないのは」

 ハルマナート国が例外だった!まあそうだね何時もの事ね!


「国によって対応は違うが、いきなり投獄してくる国もあるというからね、気を付けなさい」

 イードさんも何か実例を知っているようで、そんな風に言いだした。流石に投獄はライゼルくらいしかやらなくね?なんとなくだけど、根拠はないけど、そんな気がするわ。


「投獄なんてライゼルじゃあるまいし。あの国以外の話をしているんだよ。あんな国に近づくわけないだろう?」

 そもそもライゼルはランディ様的には論外だった。デスヨネー。というかマジで投獄の話はライゼルか、ほんと毎度ろくでもないな!


 基本的に一人で旅している人間は、無頼者か仲間のいないぼっちか、カモとみなされる、まあだいたい反応はこの三つだそうだ。でも、召喚獣を沢山連れてると、ああ人間嫌い、もしくは研究熱心な人なんだな、で済まされるようになるんだとか。

 というのも、召喚獣と契約を複数結ぶ、だけでなく複数呼び出せる、というのは、人間の知り合いを作るより難しいというのが定説だからだそうだ。

 この世界、召喚術を使える人が多い割に、本業召喚師はあまり多くなく、本業にする人はだいたいの場合召喚師として優秀なので、そういう人材を怒らせるのは得策でない、というのも理由なんだ、と言われたので納得した。そりゃあ喧嘩売るほうが馬鹿だわ、うん。

 で、ハルマナート国でそういうトラブルが起こらないのは、そもそも経済的に程々に豊かで治安がいいのと、召喚師が他国より多くて、一人旅してる人の何割かが確実に召喚師だから、喧嘩を売る人がそもそもあんまいない、そうだ。


「この国は旅したり住んだりするには、本当にいい場所だろうな。この城塞界隈まで来ると流石に魔物が物騒だから、住める人は限られてくるだろうがね」

 ライゼル以外の全ての国を訪問したことがあるというランディ様はそう言ってその話を終えた。


「まあそれは置いておいて、アスガイア行きの件だな。まあ我が付き合うのもアリといえばアリであろうが、どちらかというと、麒麟の子を保護する側に回りたいかな?正直、孫弟子だけでは些か頼りない」

 ランディ様がなんか辛辣だ。まあ実際召喚師には突然の襲撃に対する即応性が足りないっていう弱点もありますしね。今はこの城塞には召喚契約を持ってない幻獣聖獣が複数詰めてるから問題ないはずではあるんだけど。


「そうですねえ、ランディ様とあたしが一緒だと、多分確実に悪目立ちしますよね……」

 どっちか一人でもそれなりに目立つはずだ。そこだけは間違いないのが困ったところ。

 かといって龍の王族の誰か、というのも難しい。百年前とはいえ、かつての交戦国だ。

 というか、アスガイアに関しては、龍の王族の皆さんもあまり足を踏み入れる気にならない、という話を、以前あの国の話が出たときにちらっと聞いたんですよね。

 なんか神罰絡みの緩和条件で、龍の王族の入国がトリガーになっているとかで、入るのはちょっと時期尚早、ということらしい。


 むう、知り合いがほぼ無理になったぞ、どうするこれ?

むしろこれやらかしたのは黒鳥だね?

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