68.もふもふ用ブラシと超級召喚師の噂。
前パートのもふもふ成分が少なすぎたのでちょっと反省しつつ新章です。
まあ最初の数回はいつもの国境城塞からお送りするんですけど。
ああ、やっと帰ってきました。現状であたしにとって最も安住の地と言える場所、ハルマナート国国境城塞。
そういやこの城塞、まんま国境城塞、って固有名だそうです。実利オンリー名称。
朝ご飯のあとで一旦送還していたジャッキーとミモザともさっくり再会。
王城からの帰りはハイウィンさんに乗せてもらったから、兎を湯たんぽ代わりにはしなくてよかったんですよね。
もとはサクシュカさんが乗せてあげるって言ってたんですけど、まあちょっと予定が合いませんで、ね。
ヘッセン国からの解呪の礼金、割と結構な金額頂いちゃいましたので、もふもふ用のブラシを新調しに街に出ちゃったりしたせいで、ちょっと時間が合わなくなっちゃったのよね。
野衾がひっそりペットとして人気があるおかげで、シルマック君サイズのブラシもあっさり入手できました。人間用より小さいサイズのものは、人間用より割高だったりする罠はありましたけど、まあ今のあたしはお金関連は特に問題はない!ので!
余談ですが、王都での買い物中に、コボルト族用のブラシ専門店というのも見つけました。
彼らは手の構造がほぼ犬の肉球で、物を握って持つのが得意ではないので、マイブラシをお店にキープして、ブラッシングしてもらいに通うんだそうだ。店先に行儀よく並んでるコボルトさんたちが、めっちゃ眼福だった。世界の癒し系とか言われてたのも、納得。
彼ら、服も着てるんだけど、異世界人が開発した、コボルトでもひとりで着られる構造の服、なんだって。マジックテープでも作った人がいるのかな?いやあれは毛皮があると絡むよね、きっと別の何かだろう。
動物用ブラシは、獣用ブラシ専門店があるくらいこの国では一般的。ちょっと意外だったんだけど、ハルマナート国って、他国より職業召喚師が多いらしいのよ。当然使役されたりもふもふされたりする召喚獣も多いので、専門用品店が成立するというね。
異世界召喚禁止国なのになんでまた?と思ったら、イードさんもなんだけど、もう一人、あたしは当然知らないんだけど、めちゃくちゃ有名な超級召喚師がいるので、師事したいとかあやかりたいとかでこの国に来ちゃう召喚師さんが結構いるんだって。
これは王城に居る時にカラドリウスのサリム先生が教えてくれました。
《あー、超級ということなら、『緑洋の』フェアネスシュリーク様ですね。種族的に圧倒的に魔法師が多いエルフ族では珍しい超級召喚師で、確かこの間砲撃事件があった港町、レメレに住んでらっしゃる方ですよ》
おお、シエラが知ってた!メリサイトでも有名なのね?
《ええ、超級召喚師なんて世界中合わせても片手の指で足りる人数しかおりませんし、うちお一方は真龍族ですからね。そもそも、フェアネスシュリーク様って、モンテイード様のお師匠にあたる方だったと思いますよ。エルフ族だけあって結構な御長命ですし》
ほうほう!そうか、あんまり考えたことなかったけど、イードさんにもお師匠様、いるのねえ。そういやあの人一応、まだ成人してあんまり経ってない程度に若いんだったわ。イケメンの癖に老け気味の顔と口調だからすっかり頭からすっぽ抜けてたけど。
でもあの口調は雰囲気として作ってるわよねえ。焦ったりすると妙に丁寧語になるから、そっちが素のような気がするわ。
あ、ブラシはついつい沢山買ったけど、残りのお金は貯金してますハイ。ハルマナート国だと国立商工会という組織が金融取り扱いもしてるので、そこに褒賞の時に口座を作ってもらってたので、今回もそこに預けました。他国でも一部提携国ならお金を下ろせるという話だけど、まあ当分提携国に行く予定はないかな……
自分の服?以前貰ったサーラメイア様達のお下がりで、十二分に間に合ってるのよね、贅沢な事です我ながら。下着と寝間着もヘッセン国に行く前に買ったばかりだしね。
荷ほどきして、新しく買いそろえた動物用ブラシを戸棚の予定の場所に、大きさ順に並べる。
自分用のブラシも新調して、こちらはドレッサー代わりにしている小机に。鏡は最近になってガラスベースの品がそれなりのお値段で買えるようになってきたそうだけど、こんな田舎に三面鏡はないので、ここに最初に来た日に借りた、そこそこ大きな姿見をイードさんが譲ってくれたので、それを小机の横に置いている。まあぶっちゃけあたしはお化粧も一人ではまだ全然できないから、今はこれで十分。
そして、ベッドのサイドテーブルの上に小さな巣箱を置いて、中にはふかふかの綿と布を敷いて、ポケットの中で丸まって眠っていたシルマック君を取り出して移す。
夜行性だから、時間的にはまだおねむよね。ちょっとだけ目を開けたシルマック君だけど、ふかふかの寝床に気付いたのか、もそもそ、と位置を整えてから、本格的に寝に入った。
……うまくこれを気に入って、塒に指定してくれるといいんだけど。
野衾用の巣箱とか普通に売ってたのは有難いけど、たまに気に入らない子もいるそうだし。
流石に召喚でも送還でもあたしの肩の上、なんて愉快な一発芸状態は、万一の緊急退避とかできなくなっちゃって、危ないからねえ。
いやまあ、あたしも好き好んで危ない場所に行きたいとか、そんなことは思ってませんけどね。
でも、この世界は、ちゃんとそういう備えをしておかないといけない場所だ。
暗殺者なんて職業の人たちもいるし、魔物もいるし、なんならスタンピードだって起こるわけで。いや暗殺者に名指しで狙われる心当たりとか、あんまりないですけど。ないですったら。
《ああいうのは、こちらの心当たりの有無とか関係ないですからねえ……》
シエラさん、そういうフラグっぽい発言は御遠慮いただけますでしょうか!?
(マースター!荷物の整理、おわったー?)
念話と共に、ぴょこんと掃き出し窓から、白い二角兎の顔。
アルミラージ達の塒は、この城塞の中にあるから、彼らと同居しているジャッキーやミモザは、召喚しなくても、時々こうやって徒歩で遊びに来るのよね。
「終わったおわった、新しいブラシでも試してみる?」
ほんと言うと、まだ洗濯する予定の物の荷ほどきが終わってないけど、時間はもうお茶の時間を過ぎていて、どのみち今日は洗えないからね、寝る前に今着ているものと一緒に纏めればいいだろう。
「あらあら、お洗濯ものがまだ出ておりませんわよ、カーラさん」
うわ、背後から呆れたような、でもなんだかおっとりした声が。
「う、すみませんジェニアさん、今出しますねえ。ごめんジャッキーもうちょっと待ってて」
(なんだまだだったんじゃん!じゃあ庭で待ってるよ)
ジャッキーに謝りつつ、あまり大きくない旅行用の鞄から、使用済みの着替えを取り出す。
今回は神殿だ王宮だと移動が多くて、出先で洗濯を頼む機会自体がなかったのよね。
まああの初期状態で頼む気になれたかというと、話は別だけど。
「うふふ。確かに洗うの自体は明日になりますけど、汚れのチェックは今やっておくほうがいいですからねえ」
おっとり微笑むジェニアさんは、ベッケンスさんの奥様で、明るい茶色の髪と瞳の人族。ベッケンスさんと同い年、幼馴染だったんだそうで。
今は庭の修繕で泊まり込み中の旦那様の身の回りの世話のついでで、あたしやイードさんの分の洗濯やお掃除もしてくれているのよ。
ちなみに人族と獣人族の間の子供は、どっちになるか基本ランダムだそうですよ。ベッケンスさんの子供は二人とも獣人だそうだけど。
この世界の人類に、なんとかハーフ、は存在しないんだそうだ。そもそもエルフやドワーフと人族は交雑できないそうだしねえ。
そういやエルフもドワーフも見た覚えがないな?
《あら、王城のお針子さんはエルフ族の方でしたよ。まああの種族にしては背の低い方でしたけれど》
あ、あの若草色の髪の人、そうだったんだ。全然気づかなかったわ。
《貴方のアーカイブにある物語の挿絵と違って、この世界のエルフ族の耳は、ちょっと尖ってるかな?くらいですからね、あの人の髪型だと判らないかもしれませんね》
慣れれば、髪色の癖や、瞳の僅かな違いで見分けられるようになるそうな。
そんなにしょっちゅうエルフさんに会う機会とか、なさそうだけどなあ。
あ、当分出てこないけどこの世界のドワーフは女性も髭もじゃですハイ。髭にリボン付けてたらだいたい女性で間違いない、あと声。




