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63.戦い終わって日が暮れる、前に。

はいややこしい戦闘後処理のターン開始。

 後宮部分から、表向きのエリアに戻り、王太子殿下に戦闘になった事とその結果を報告する。

 今回も面会まではサクシュカさんの顔パスであっさりさっくりですハイ。


「そうか、デーモン……如何程に、呪詛を、瘴気を溜めこんでいたものなのか」

 王太子殿下が深い溜息をつく。


 確かに、デーモン化するほどの呪詛だか瘴気だかを、こんな国の中枢でばれないように溜め込むって、そう簡単な話じゃない。


 たとえ王宮という場所が物語にあるような魑魅魍魎染みた陰謀の巣であったとしても、だ。


「それについて関連付けられるかもしれない報告がある。

 オラルディ国から足繫くイーライア妃の元に出入りしていた商人の行方が知れん。

 そして、オラルディの側から、その商人の存在自体を否定してきた。

 出国記録どころか、その商人の名での戸籍も、商業登記もない、そうだ」


 正規の謁見の間とかではない場所で、役人勢も宰相とその秘書だけ、という少人数での会見だったせいか、ゲンティウスさんが単刀直入に報告をあげてきた。


「なんだと?あの男は第二妃が母国に居た頃から重用していた御用商人だと聞いているが」

 王太子殿下が目を見張る。

 あの男、ということは、王太子殿下ご自身も会ったことがあるのね。


「殿下、お気を付けください。

 オラルディ側は、第二妃自身の存在を無かったことにしようとするやも知れません。

 そうなれば、殿下の正当性を問う愚か者が現れる可能性が出て参ります」

 宰相閣下が眉根を寄せてそう忠告する。

 恐らく、それに近い何かの流れを掴んでいるんだろう。


「ああ、そう言うことか。ここ半月ばかり、私に妙にきな臭い、胡散臭い輩が近付いてきていたのは……」

 センティノス殿下が嫌そうな顔で吐き捨てる。

 暫定、の意味をはき違えるにもほどがある、という呟き。


 つまり、既にそういう動きがあるという訳だ。


「そういう訳なので、やはり正式にエメルディア王妃の葬儀は出さねばならないようです。イーライア王妃に関しては……さて、どうしましょうね」

 マリーアンジュさんがそう言って考え込む。


 何せデーモン化してしまったせいで、遺体がない。

 かといって一国の王妃がデーモン化なんて、他国には絶対漏らせない。

 無論国内にもだ。不安を煽るようなことは、よろしくない。


 あたしとハルマナート国勢も、これに関しては沈黙の誓いを立てることになっている。

 誓わなくても別に漏らす気はないけど、万全を期すべきだし、それが相手への信頼と理解を現す行為でもあるそうなので。


「いや、むしろイーライア妃の葬儀を出して、エメルディア妃は存命のままのほうが都合がよくはないかね?事実ではあるのだし」

 カルホウンさんはそんな風に言う。


 そういえば、エメルディア妃が亡くなっていた、ことになっている件も、まだ公にはされていないんだったっけ。


「えー、それはわたしが困るんですよ。なにせもう正規の上級神官なので、後宮には戻れませんもの」

 即マリーアンジュさんがダメ出しをする。


 影武者さんはもう一人いるといえばいるけど、そこまで似てないので長期間はごまかせないそうな。


「オラルディ国、そんなあっさりイーライア妃の存在を消せるんです?

 妾腹の方、というのは聞いたようには思うのですけど」

 ちょっと疑問に思っていたことを、思い切って聞いてみる。


 それが成立可能な状況が、流石に思いつかない。

 国同士の交渉の末に正規の婚姻を結んで送り込んだ相手ですよ仮にも。


「そういえばそうよね。こちら側の公文書とかある以上そこはどうにも動かせないはずよね?」

 サクシュカさんも首を傾げる。


 ハルマナート国はそういう婚姻政策に絡まる事案が少なくて、あたしと同じく実感がないんだろうなという感じがする。


「そういう風に考える輩ばかりではないのが世の難しい所でしてな。

 そもイーライア妃の父はオラルディ国の先王殿に間違いはないそうなのですが、母の出自が謎らしいのですよ。

 本人はアスガイアの亡命貴族の娘だと名乗っていたそうですが、神罰の事を考えると、その線はまずありませんからなあ」

 宰相閣下が慎重な姿勢で答えてくれる。


 神罰を受けた国の一般国民は、国への帰属意識が弱い場合は出国できる。

 だけど貴族や王族は、たとえそんな意識がないとしたところで、管理連帯責任で出国不可能になる、というのは以前教えてもらったので、それは知っている。


「神罰を受ける前に出国していて、そのまま帰れなくなった者、またはその縁者とか……?」

 そして、出国していたものは、国に帰ることができなくなる。これはサンファンの海軍が実際にそうなったという報告をヘッセンへの出発直前に受けたので、実話として、知っている。


「む、その可能性は、否定できませんか……イーライア妃御自身は父の血が強く出ておられて、見た目は確かにオラルディ王族としか見えませなんだからな……

 ただ、それだと亡命貴族とわざわざ名乗る必要もないように思われますな」

 そして、アスガイアの時も、そういった例は実際にあったようで、宰相閣下が難しい顔になる。


「アスガイアの時はやらかしから神罰まで結構時間が空いたという話ですから、出国するものもある程度はいたと考えたほうがよろしいのでは?」

 マリーアンジュさんがそう補足してくれる。


 そういやサンファンの時は神罰ちょっぱやね、とかシエラも言っていたわね。神殿関係は神罰の情報も割としっかり持っていそう。



 そして、結論は出ないまま、イーライア妃の部屋に逆戻りするあたしたち。

 ええ、今度は部屋自体の調査を依頼されました。


 今回はアデライード様と、末娘のジョアナ殿下も一緒です。


「お母様が大事なものを隠す場所、ですよね」

 真面目な顔で一生懸命考えてくださるジョアナ殿下。健気だなあ。

 そして彼女が出した結論は、寝室に置かれた、ドレッサー、だったのだけど。


「触っちゃだめな臭いがしてるわねえ」

 サクシュカさんが眉を寄せる。


 うん、あたしの中でも検索ベース君がシエラを飛び越して警告を出してくれている。トラップに仕込まれているのは、麻痺薬と媚薬と、推定毒薬、だそうだ。


「罠か何かがあるのですね?ということは、ここにはないのでしょう」

 あっさりと自説を翻すジョアナ殿下。

 成程、自分が触れる場所に罠は置かないだろうという考え方なのね。


「お母様の性格なら、わざとらしく罠を置いた場所に本物を置くことはないと思うのです。

 自分以外の一切を信じていない方でしたから」

 わあ予想外の続きが来た。


 我が子にまでこんなこと言われるなんて、ほんとにどういう人だったんだ、イーライア妃。

 ジョアナ殿下は、髪の色こそ紫系だけど、イーライア妃や、アリエノール殿下にはあまり似ていない。王太子殿下によく似ているから、多分国王陛下に似た顔立ちといえるんだろう。


 属性力は水中土中、王侯貴族としては、ごく普通の属性力といえる……あれ、この方、極小の氷も持ってるわね。


「これがアリエノールお姉さまなら話は早いのですが……隠すことに関してはとても素直でしたもの」

 お待ちくださいジョアナ殿下、それちょっと問題発言では?というか貴方精神年齢高くないですかね微妙に?


 あたしの疑惑の視線に気付いたのか、ジョアナ殿下がこちらを見てにこりと微笑む。


「ああそうでした、他所の方には公開していない情報ですわね。わたくし転生者で、少しだけ他所の世界の記憶がありますの」

 はいぃ?転生者が、ここにも?いやでもなんだか、そうじゃない気がするんだけど?


「と申しますか、多分わたしのこれは、母が持っていた記憶のようなんですの。

 この世界をゲームと思い込んで、ただ自分の好きなように遊ぼうとだけしている、極めてタチの悪い女の記憶なのですけれどね」

 うわ、なんか爆弾発言キタコレ。


 ゲームとか言い出す辺り、確かに異世界の記憶っぽいけど……


 でもこの世界は色んなものを呼び込み過ぎて、ついでにある程度豊かだから、娯楽小説文化も結構盛んだ。


 だからそういう単語も、今までの異世界召喚者たちを主題にした娯楽小説を読む人たちなら大抵知ってるから、それだけじゃ判断できないのよねえ。


「丁度いい機会ですから、全部ぶちまけてしまうことにしましょうか」

 穏やかに微笑みながらそう告げるジョアナ殿下。


 顔を見合わせ、頷くあたしたち。


 取り合えず彼女自身にも、ドレッサー以外のこの部屋の中にも、悪意や悪いものの気配は、一切ないから、そこは大丈夫だと思うのだけれど。

あれえジョアナ殿下そんなキャラの予定じゃなかったのに!

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