表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/644

55.朝が、来るまでに。

主人公、久々にやらかす。

 まあどう頑張っても聞く耳持たない狂った悪霊のような存在は、浄化するしか、ないので。


 ゆっくりと光属性の魔力を練り上げる。聖女様の解呪の時より、濃く、小さく。

 小さくするのは、可能な限りアリエノール殿下の魂に傷を付けたくないからだけど、多分これ無理だろうなあ。呪詛に関わって、呪詛の行く先を力技で捻じ曲げた結果、本人の魂も絡まりきっていて、無傷で解放はもう不可能な雰囲気。普通に解呪したら、呪い返しで魂まで吹き飛びかねないレベルで。

 直接目にしたことで判ったけど、アリエノール殿下を供物に呪詛を発動しようとしたのは案の定仮称邪悪な魂、なんだけど、自分の身に起こったそれを捻じ曲げ、術式を乗っ取り、本来呪詛の主として保護されていなくちゃいけないはずの呪詛者本人の魂に標的を挿げ替えたのはアリエノール殿下だ。

 元から呪詛の主というラベルを無理やりアリエノール殿下から剥ぎ取るように自分に挿げ替え、保護されるべき呪詛の主であるはずのものを供物にするという不自然さがあったにしても、咄嗟に死の淵でその再逆転ができるとか、いやはや、とんでもない才能の持ち主だった。過去形にしなくちゃいけないのが、そしてその才能が呪詛に対してなのが残念なくらいに。


 ああでも親子の属性を見るに、イーライア王妃もやっぱり取り憑かれていたクチだなこれは?

 あたしが会った時のイーライア王妃の属性は風中火小闇極小、だった。ぶっちゃけこの王家の血筋とは、最悪に相性が宜しくない部類だ。現に、アリエノール殿下の土属性を風属性が消してしまっているとしか見えない。

 自分の属性力を人々が大っぴらにする理由は、ここにもあるんだそうだ。属性力の相性が悪い同士の子供の属性力は、基本的に下がってしまう。王太子殿下が水大土中を維持できているのは奇跡的。いえ、双子だというから、多分全部のとばっちりがアリエノール殿下のほうに回った感じがする。

《あー。殿下方の属性力、もしかすると〈コンバート〉の、人族が使える唯一の悪用例、ですね……生まれる前で、なおかつ同胎じゃないと使えないから、こんなの活用できそうなのは龍の王族くらいだし、禁呪にするまでもないって話だったそうなのですけど》

 なんであたしが聞いてない話を知ってるんですかねえシエラさん?


《ああ、結論が出たと聞いた日から〈書庫〉にしれっと追加されてます。あなたもこの仕様で使えますよ、現状意味ないですけど》

 はい???またヘンテコなチートが増えてる???


 まああたしの使い道絶無なチートは置いといて。

 そんなわけで、基本的に存在自体がレアな闇属性との相殺が滅多に発生しない光属性中以上持ちは、治癒取得の可能性も含めてではあるけど、結婚相手としては大人気なんですってよ。

 そして、イードさんがいまだに独身な理由も、どうやらそれの可能性が高い。あの人全属性持ち、だけでも大概なのに、その属性力が全部大とかいう、チートが地味に盛りもりのあたしですらびっくりするレベルのトンデモだから、結婚相手の属性、殆どの場合全消ししてしまうっていうね。正直にいうと、あのひと、この世界で生まれたくせに、致命的レベルでこの世界そのものに、向いてない。

 初めて会った頃にあたしが言われた、魔力が多くても召喚師に向いてるわけでは、って言葉は、実の所、まるっとあの人にも当てはまるのよね、今思うと。多分あれ、本人が言われたことあるんだろうなあ。

 うん、イードさん、龍の王族の出じゃなかったら、とっくにこの世から消えて存在してないイメージになってきたわ……。


《あなたなら光は相殺されませんね。極大を相殺できる闇属性とか人族では無理ですし》

 シエラさん?なんでそういう心にもない事言うかな?

 イードさんはそれなりにいい人だけど、残念ながらいい人から先に進む目は個人的にありません!

 あたしが第一印象悪かっただけではなく、あの人自身が、あたしを含む自分以外の他人に研究以上の興味を一切持っていないのが丸わかりな以上、進む要素がどこにもないですよねって。


 脳裡で余計な茶々入れを含む雑な会話を繰り広げつつも、属性力は練りあがっていく。

 光の属性力に気付いた邪悪な魂さんは、こちらに向けて攻撃魔法を放つ気配だけれど、当然の事ながら結界がそんなものを通すはずもなく。


 さあ、魔力ちゃんやっておしまいなさい!邪悪も呪詛も纏めて消去しちゃいましょう!


「〈消去〉」

 なんか勝手に口が魔力キーワードを発した。そして結界の外側に展開された小さな魔法陣。あれこれ魔法なのか。


《……〈書庫〉に魔法が追加されました。あなた、神でも滅多な事ではやらない魔法創造やらかしましたよ、たった今》

 ……はぃ?

 いやでも所謂イレースとか普通に先人が考え付いてそうなものでしょう?


《確かに、考え付いた人はたくさんいたと思います。実行できる魔力と属性の持ち主がいなかっただけで》

 アッハイ。今回もあたしの馬鹿魔力と、そして光極大さんの仕業ですね。

 あと言われてみれば確かに、あたしですら光魔力を使えるレベルに練るのに、結構時間がかかった。これ、大前提として、光極大持ってないと使えない魔法になってますね?

 展開された魔法陣は覚えたから、後で読み返しましょう、そうしましょう。

 いきなり作られたやつだから、ブラッシュアップとか、できるかもしれないし。


《いやいやいやいや、ブラッシュアップとか怖い事言わないで。いやでも聖女様辺りが使えるようになれば、呪詛の対応とかに有用……?》

 シエラが一瞬慌てたあと、光大辺りまでに条件を抑えられれば、有用な魔法なのに気付いてしまったようで考え込んでしまった。

 そうなのよ、呪詛の裏表考えずに消せる魔法になった上に、闇特攻で他のものには原則効果がないから、使える人がもう一人二人いてもいい気がするのよね。

 なお他属性で似たようなことができるかというと、恐らくできない。魔法による消去という要素そのものに光属性条件が付いているようで、属性部分の書き換えは今のこの、魔法陣を見ただけの段階でも不可能だと判っている。

 あ、いや違うな、多分だけど、火や水で溶解、風または雷で分解が作れるなこれ。消去じゃなくて状態変化になっちゃうから、別物になっちゃうけど。


《あー!〈分解〉〈溶解〉系列の魔法なんですねこれ。なるほど火水風では〈書庫〉にもありますね。そうか、光に実装されてなかっただけなのね……いや待って、雷で〈分解〉も理論上は可能ですけど〈書庫〉未登録ですよ?》

 なるほど、他属性のそれ系は既にあるのか。なら今回のは創造じゃなくて応用では?

 雷は自分で扱えないから、作れるかどうかは未知数だなあ。使える人が稀なんだっけ。


《でもそもそも、光に消去属性があること自体が初発見だと思うんですよ》

 アッハイ。闇にもなんかありそうだけど、流石に判んないな。溶解からの発展で腐食かなあ、って思うのは魔物の浸食の見た目に影響されてますねあたしの発想。


《ん-、多分その、魔物の浸食行為自体がそれかもしれません。たとえ闇適性がそれなりにあったとしても、人類には使用不可ですね》

 ああ、そう言うことなのか。それなら光魔力で消せるのも納得だわ。なんか余波で謎が一個解けた気分。



 仮称邪悪な魂の背後に音もなくふわりと展開された小さな魔法陣は、一瞬光を増すと、ぶわりと面積を増し、光の布のような形態に変化して、仮称邪悪な魂をアリエノール殿下の魂ごと包み込む。

 あ、アリエノール殿下の魂のほうがスルーされてぽいっと中から弾きだされた。明らかに困惑している殿下の魂が、なんだかかわいい。


 仮称邪悪な魂さんのほうは随分と抵抗しているけど、呪詛ごとどんどんその存在を削り取られ、光に相殺され、相殺に対抗しようと収縮していき、最終的に小さな黒い粒となり――


 それすらも相殺され、ぱりんと砕け散って、光に呑まれた。

 あれ光がちょっと余ったな、と思ったら、残りの光がアリエノール殿下の魂を包む。


 あ。


 アリエノール殿下の魂は、あたしに向かって無言で大層綺麗なカーテシーを披露すると、そのまま光と一緒に、夜明けの近い、白み始める直前くらいの天に昇って消えていった。


「……逝っちゃったねえ。まさかあの子が天に昇れるとは、思ってもみなかったけど」

 サクシュカさんが地味に酷いことを言う。


「あれだけ邪悪なものに抵抗し対抗してくださったんですから、天も認めたのでしょう、彼女の努力と真の願いを」

 巫女としての能力なのか、勝手に口がそんなことを言う。まあでも多分そんなところ、なんだろう。


 結界はもうすぐ効果が切れるけど、第二妃の行方がはっきりしないのが、気になるなあ。

全部知ってる何者かを消しちゃったようですが大丈夫でしょうかね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ