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56.王宮に戻る。

衝撃の事実、発覚。

 アリエノール殿下の魂を見送ったあと。一旦結界は解除した。

 いやどうせ、もう時間切れなんでね。


 今度はこっそりと、聖女様個人に持ってもらった別の仕込みを起動しておく。

 シエラがちょうどいい術式を知ってたので教えてもらいました。


《貴方の魔力で作ると流石に高威力ですわね……大抵の悪意は弾き飛ばしそうです》

 渡したのは比較的簡単な材料で作れる破魔の呪符。


 神殿には材料がいっぱいあったので、夕飯前後から、仮称邪悪な魂さんが来るまでの待ち時間で作って、聖女様とアデライード様に持ってもらったの。


 あたし?属性力自体が同じ役割の上位互換なんで、要らないですね。


 ああ、シエラが縫物も得意で助かった。

 刺繍で作るから、あたし本来の身体だと、多分作るのに半月くらいかかるんでは?やったことないし。


《刺繍は貴族としても、神官や巫女としても必須技能ですからねえ、子供の時から沢山練習したんですよ》

 シエラが自慢げだ。うんうん、思う存分自慢するといい。

 出来上がった護符、すごく綺麗だったし。


 そのままサクシュカさんと部屋に戻って、事態の報告。

 一同びっくり顔だったけど、最後はみんなでアリエノール殿下の為に祈った。


「あの子は、最後まで私たち家族の事を、愛してくれていたのですね」

 そう呟いたアデライード様の表情が、とても悲しそうだったのが、つらい。


〈かの魂は、試練を乗り越え、善へと至った。自らの行いにより天に昇る資格を得たのだ〉

 国神様もそう仰ったので、天上に昇ったのは確定であるらしい。


 この世界の死後ってどんなんだろうと思ったら、善き魂は天に昇り輪廻の輪に入る、悪しきものは地の底に封じられ、混沌に塗れいずれ消失する、という割と怖いやつだった。


 消失した場合は混沌から純粋なエネルギーか何かに抽出変換され、この世界を構成する魔力や物質になるとかなんとかどこかから聞こえたけど、この部分は他言無用ですって。


 で、実はその混沌界から処理しきれなかった悪意や邪心やなんやかんやが圧縮された、どす黒い何かが漏れ出したものが瘴気だという。これもオフレコ。


(実は、原因は教えられぬが、諸般の事情で、世界全体の瘴気の量が増えておる。今後も気を付けるが良い)

 そっと念話で教えてくださるフォルヘッセナーレ神。有難うございます気を付けます。こないだも痛い目にあったばかりだしね。


 しかし、原因が教えられない、ってことは、人の営みがやらかしてるわけじゃなさそうね。ちょっと気になるけど、まあ今考えることではなさそうね。



 朝になったので、簡素な朝食を皆で頂いてから神殿を辞して、一旦王宮のほうに戻ることになりました。


 但し今回は聖女様とアデライード様、あとマリーアンジュさんも一緒だ。


 国王陛下の治療ができるかどうか、試さないといけないよねという話になりまして。

 第二妃の行方が判っていない現状だとちょっと危ない気もしたけど、魔法的なあれこれに対してはあたしの護符があるし、物理の襲撃のほうはサクシュカさんとカルホウンさんが何とかしてくれるよねってことで。



 王城まではさっくり戻れたし、そこから王宮までも特になんの問題もなく入れた。


 ぶっちゃけ、初日に訪問した時のほうが足止めだなんだされていた気がする。

 サクシュカさんによれば、これが龍の王族的には普通だそうだ。流石世界の警備員。


 ちなみにこの世界の警備員って表現、ハルマナート国の女王様にめっちゃウケた。

 御子息御一行は概ねウケる女王様の様子に呆れてたけども。

 まあ事実ではあるな、とはさらっと聞き流していたマグナスレイン様談。


 あたしたちだけではなく、聖女様がたもご一緒だったんで、先触れだなんだが大騒動していたけど、まあそれは直接あたしたちに声かけしてくるわけじゃないし。


 そして、王子様らしくもなく猛ダッシュで駆け付けてきたのがセンティノス殿下でして。

 どうしたのかしらね、らしくもない。


「は、母上!?何故今そのような姿で?!」

 ……はい?


 センティノス殿下の指さす先にいたのは、アデライード様、じゃなくその隣の、マリーアンジュさん……はい???第一妃殿下は亡くなられたって言っちゃあいませんでしたか???


「あー、そっか、カーラちゃんは知らないわよねー、うっかりうっかり」

 特に驚きもしないでそういうのはサクシュカさん。

 え、サクシュカさん最初から知ってたのもしかして?


「……てへ」

 マリーアンジュさんがぺろっと舌出して自分の頭を軽く叩く。

 はい?お茶目か?お茶目が過ぎんか?


《えー、マリーアンジュという名は本名のようなんですけれど、これは?》

 シエラもついていけない様子というか、彼女も、つまり他国勢はだいたい知らないことなのか。


 サクシュカさんはまあ神殿ですら顔パスだったところを見ると、この国には何度か訪れてるっぽいし、それで知ってたんだろうと思う。

 カルホウンさんの顔を見たら、やっぱり鳩豆顔だったから、こちらは知らなかったっぽい。

 仲間だ!


「えっホウ君も知らなかったの?あれ?君この国初だっけ?」

 あたしの視線でカルホウンさんのほうに目を向けたサクシュカさんが酷いことを言っている。


 教えてないんですか?というかカルホウンさん、確か道中でこの国は初だって言ってた!


「僕は外回りはあんまり出てませんから。ですので説明をして頂けるとありがたいですね」

 落ち着いた様子で返すカルホウンさん。びっくり顔だったのはほんとに一瞬だった。冷静だなあ?



「いや実は、エメルディア第一妃として活動してたほうが、ここ十年ほど、ずっと影武者でして」

 と、告白するマリーアンジュさん。

 で、第二妃の手の者に殺されたのはその影武者さんだそうだ。


 取り合えず立ち話でする内容じゃないですよね、ということで、奥向きの第一妃の居住エリアの貴賓室を借りているあたしたちです。


「わたし、十年ほど前に魔法実験の事故で、変な風に若返っちゃいまして。ほら、原因不明の若返りってトラブルの元でしょう?第三者に漏れる前に影武者に全部任せて神殿に引きこもっていたんですよ。

 マリーアンジュはサードネームで、あまり世間に知られてはいないので、ばれないだろうと使っていまして、ですから名を偽っているわけでもありません」

 はい、エメルディア・レニア・マリーアンジュ・レッゲストというのが第一妃の正式名だそうです。


 あ、この世界の人は結婚しても姓は変わりません。

 まあ姓を持つのは基本的に貴族以上だけのようだけど。名乗るのはあくまでも家の姓なので、当主の性別は関係なし。


「まあ正式に上級神官になってしまったので、今はただのマリーアンジュ、なのも確かなのですけどね」

 ただ、国の第一妃が神官に、というのは国王陛下が存命かつ在位中にはまずありえないので、影武者にお願いして隠蔽していた所で今回の事件が起こった、ということらしい。


 ああうん、神官なのに光中はさておき、風大って激しいなあとは思わなくもなかったんだけどさあ。


 そう言われてみれば、アデライード様にも風小があって土がないのか。センティノス殿下の土中が奇跡に見える。元は土大以上だった可能性?


 真相を聞かされたセンティノス殿下ががっくりしている。

 どうやら彼も影武者の事に気付いていなかったらしい。どんだけ?


「影武者といっても、彼女もレッゲスト公爵家の者ですからね、気性はともかく、顔と属性はそっくりでしたでしょう?」

 わたしより余程家庭的な子でしたけどもね、と残念そうに付け加えるマリーアンジュさん。


 亡くなった影武者さんというのは、マリーアンジュさんが実家にいるころから一緒に、そうなるべく育てられた子で、血筋的にも妾腹の又従妹くらいにあたる人だったそうで。


 ヘッセン国王(当時は王太子)に嫁ぐと決まった段階から、是非影武者として付いていきたい、と志願した人だったのだそうだ。


 なので実は事故が起こる前からも、ちょいちょい入れ替わって違和感がないように示し合わせて行動していたのだという。


「そんな前から、だったのですか」

 驚いた顔のアデライード様。彼女もそこまでとは知らなかった様子。


「ええ、陛下の閨以外の全て、彼女にも体験してもらったのです。

 わたしと、わたしが生きる世界を、ちゃんと全部、知ってほしくて。

 流石に夜のお供だけは禁じましたけどもね」

 マリーアンジュさんはそう言って微笑む。


 あ、これ彼女も影武者だった人に、結構重い感情持ってるやつだわ。

 その内容は、あたしじゃ判らない、いえ、計り知れないけど。

ここにも若返りとかばれたらコワイ勢がいたよ!

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