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52.長い夜のはじまり。

答え合わせ回スタート。

 関係者にも関わらず、あたしたちから見えない範囲にいるのがちょっと気になったので、神官長様とマリーアンジュさんにお願いしてアデライード様も呼んで貰った。

 聖女様の御部屋に来て、ちょっと畏れ多い、といった顔で神官長様に挨拶をするアデライード様。

 王城の離宮で会った時には結っていた髪を今は背に流していて、ちょっと雰囲気が違って見える。でもまあ状態は健全、問題なし。離宮で会った時同様の属性力。


「アデライード様も光属性がお強いのですね」

 離宮で会った時からちょっと気になっていたんだけど、彼女の属性は光中、水小、土小だ。

 ここの王族未成年組の方で唯一の、光属性持ち。なお王子様は二人とも水大土中、第二王女はあたしが見た彼女に関して言えば、火中闇中、だ。うん、多分あたしが会ったのは、本来の王女じゃないね……属性って普通の人族の家族だとそこそこ似るらしいし。


「あら、カーラ様は属性も見えるのですか。そうなんです。私だけ何故か光が強くて。ただ、残念ながら治癒は才がございませんでしたの。でもそうね、いつかこんなしっかりした結界が作れるように、なりたいですね」

 アデライード様がそのように言ってくれる。はは、強度に関しては魔力ごり押しですごめんなさい。言わないけど。


 結界の効力は当面朝までだ。魂による乗っ取りは、日中行うことは不可能であるらしい。

 まあそうよね、他者の身体を乗っ取るのみならず、乗り移りながら生きるって、魂というより、挙動がもはや一種のアンデッドモンスターじゃないかしらね。

 それでも、この魂だけであるらしい存在は、世界から死者として判定されてはいない。判定意外とガバだな?と思わなくはないけど、どうも、憑いている身体が死ぬ寸前に逃亡して次に乗り移る挙動らしくて、死亡判定をかいくぐり続けている、らしい。

 実際直接遭遇した時も、死者だとは一切感じなかったしなあ。

 多分本人も自分を死者だなんて微塵も思ってないんじゃあるまいか。まあ死んだことを認めないで彷徨う死者ってのも、物語的には定番ではあるんですがね。



 待機することしばし。

 がごん、と結界に何かがぶち当たって弾き飛ばされた感覚。実際の音ではなく感覚だけが伝わってきたということは、ぶつかったのは、実体のないものだ。


「なんか来ましたね。弾かれてるけど」

 取り合えず他の人が感知したかどうか判らないので口に出す。


「早いですね」

「もう来たんだ」

「む、結界に触れましたかの」

 聖女様、サクシュカさん、神官長様がそれぞれ反応する。カルホウンさんは実体のないものには役に立たないからと部屋の隅で仮眠中だし、マリーアンジュさんとアデライード様は無言で二人で身を寄せ合っている。服の貸し借りもしているし、仲がいいんですね。そしてよく似ている。うん、かわいい。


 ごりり、とまた妙な感覚。うわあ、闇魔法で結界削ろうとしてる?今の所効果ないけど。

 がっこんがっこんごつんごりっがつん、と、ぶつかる感覚が絶え間なく届くけど、結界は小動ぎもしない。まあそうよね、あたしの馬鹿魔力ふんだんに籠めてますからね。真龍が破壊ワンチャンあるかな?くらいのシロモノに仕上がってるとはシエラ談。


 それから暫く、まだ結界にぶつかる魔法は続いているけれど。

 今度は神官さんの数人が、部屋にやってきた。


「神官長様、聖女様、軍が神殿を囲んでおります」

 あー、聖女様の呼び出し、神様が断っちゃったけど、あれ、侍従さんには聞こえてなかった?


「軍を出すとはまた乱暴な事を。少なくとも、一番初めの拒否の御神託は侍従殿にも聞こえておったはずじゃがのう」

 よもや、国神様に逆らうおつもりではあるまいな?と神官長様が眉を寄せる。

 基本的にこの世界は王より国の守護神のほうが地位が高い。神様が人の世に近く、接触が多いし実際に恩恵も神罰も体感できる世界だからね。

 易姓革命、という用語が実際に生きているのよ。神が王権を取り上げ、他の者に移すの。

 百年前のアスガイアでは、それが実際に起こった。王族だったものは平民にされ、そのまま新しい王家と神殿に、罪人として裁かれたという。


 流石に神殿を囲んだ軍隊は、それ以上の事はしてこなかった。

 結界を破ろうとするのかと思っていたけど、ただ囲むだけで一切の手出しをしてこない。

 流石に国神への反逆と確定されてしまう行動は取りかねているようだ。


 と思っていたら指揮官としてやってきたというゲンティウスさんがひとりで乗り込んできました。

 うわあガチで害意のない人だから結界が反応しない!想定外!


「おおう、仕様の穴を突かれた……」

 頭を抱えるあたし。でもこれ以上厳密にするとあたしの魔力でも朝まで維持できる気がしないしなあ。条件を増やすと倍々ゲームで消費魔力が増えるのよね。


「ゲンティウスなら話は通じますし、何より害意はないのでしょう?」

 聖女様たちはあまり心配していない様子。


「いや、ああいう害意はないけど仕事としてはあれこれきっちりやれるってタイプのほうがタチが悪いのよ?」

 サクシュカさんは警戒の顔で、カルホウンさんを起こした。


「……お褒めにあずかり光栄至極?」

 サクシュカさんの言葉が聞こえていたようで、軽口を叩きながら部屋の入口に現れたゲンティウスさん。成程、サクシュカさんの言うように、油断ならない雰囲気ではあるけれど、全く害意は感じない。そして、入り口を塞ぐように立ったものの、室内に踏み込もうとはしない。


「夜分恐れ入りますが、神官長様を含め、皆さま揃っておいでなのは丁度良い」

 ”遮音結界は出せるか?”

 軽口めいた口上に続け、口の動きだけでそんなことを告げるゲンティウスさん。

 あ、これ命令者と別で王太子殿下からのメッセージか何か持ってるやつだ。


〈ふむ、造作もない〉

 誰にどうやって振ろうかと考えかけたところで、神力発動。


「……なんと、守護神様自ら。有難いことです」

 ゲンティウスさんはそう言うと一礼して部屋に入ってきた。

 まあそうね、国神様が拒まないどころか助力するなら、彼に問題はないし、彼自身はこちら側なんだろう。

 そして、国神様を前にした彼は、粗野そうなところなど微塵も感じさせない、完璧な所作で動いている。成程これなら近衛に見えるわ、なんつー演技派だ。魔法属性が風小のみなのが勿体ないな。


《この方、魔力もあまりないので、属性が大きくても邪魔なだけですよきっと》

 なるほど。相変わらずあたしは他人の魔力量を測れないから、こればっかりはシエラや他の人にお任せするしかないのよね。


「随分と雰囲気がお変わりですこと」

 サクシュカさんの物言いにはまだ険がある。まあしょうがないか、最初に乱入してきたときの態度は、とてもいいとは言い難かったからね、あたしたちには。


「こちらが素に近いのでしょう?第二妃を警戒するなら、そのくらい徹底しませんと」

 一応助け舟出しましょうか、今、変なところで軋轢は要らない。

 春の夜は長いかもしれないけど、有限なんだから。いつかは、朝が来る。

 そして朝が来た段階で、軍が神殿に展開されたままだと、恐らく完全に国神様のジャッジがアウトになるんじゃないですかね?


(如何にも。巫女よ、故にさっさと話を纏めてしまうが良い)

 国神様からの念話。あたしが仕切るのかー。まあそれでもいいけれど。



 ゲンティウスさんの話は以下の通りだ。

 まず、国王陛下はあたしたちに挨拶をした直後から、第二妃の手の者がこっそり離宮に隔離している。あたしたちが滞在していたのとは逆方向の、後宮にほど近い場所だ。

 どうやら何か怪しい薬を使ったようで、まだそこまでの年齢でもないのにすっかり認知症のような症状になってしまっているらしい。復帰は聖女様かあたしが治癒できるかどうか、ぎりぎりのところ、とは国神様がこっそり教えてくれた。

  第二妃自身も、軍に出動を命じたものの、どうもそれに近い良くない薬か何かの影響で、物事を深く考慮できない状態としか見えないそうだ。状況的に命令自体は正式なものが出されてしまい、断れないのでやむなく包囲だけはした、というのが軍側の現状だそうだ。

 どうも、第二妃も一応被害者枠のようだ。まあ高慢な性格は第二王女ともども、元々だそうだけど。

 第二王女は亡くなった。火傷が胸から下全てを覆っていたそうなので、火事に巻き込まれた時点で、あたしでも助けられるかどうか怪しい容体だったようだ。

 で、火事の原因はといえば、彼女が呪詛と共に自ら火を放ったのだという。あー、邪悪な魂さんの仕業ですね……第二王女の身体を供物にしやがったよあの悪霊。

 第一妃様の話が出てこないな、と思ったら、とうにこの世の人でなくなっていた。

 第二妃勢が国王陛下に手を伸ばした頃に殺されて、影武者が立てられていたそうだ。


 うわあ、この国ちょっと詰みかけてない?王太子殿下たちは常時一緒に行動することで今の所難を逃れているそうだけど、大丈夫かな?

やだなあ本当に粗雑なら近衛に居る訳ないじゃないですかー。

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