44.王妃殿下との対面。
早速暗雲というか胡散臭い感じ漂いますよ。
「いやはや、我が拙女が、迷惑をおかけしたという。真に相すまぬ」
公的な謁見ではなく、私的なそれではあるのだけれど、ようやっと対面した相手に、真っ先に謝られてしまいました。
とはいえそれは通り一遍な言葉だけで、頭を下げる気はないようだけど。
到着の御挨拶の時にはおいでだったという国王陛下は、多忙でこの非公式な顔合わせには不在で、一応の謝罪をしてくださったのは、二人おられる王妃の片方、イーライア王妃殿下。
成程、アリエノール王女と似た、紫色の髪。
事前の資料では、ヘッセン国の北東隣りのオラルディ国の王家の方だったっけな。
「いえ、知らぬ事とはいえ、無視するような言動をしてしまいました。わたくしこそ不作法でございましたので」
何時もよりちょっと畏まった口調で返事をする。
この国はハルマナートほど礼法は緩くない。
「構わぬ、今回は公的な場ではない、そこまで堅苦しゅうせずともよい。
そもそもそなたは我が国に臣従する者でもないうえに、異世界の民と聞く。
被召喚者には、慣習的にではあるが、年限を区切っての、公的な場以外での無礼講が認められておる故な」
王妃殿下は鷹揚そうに頷く。
異世界召喚者の非公式の場での無礼講、という話はあたしも聞いて一応知っている。
まあそうじゃないと呼び出しておいて無礼討ち、なんて事態が頻発しそうだもんね。
ちなみにこれは王妃殿下も言うように、期限付き。その期間は三年だ。
三年経ってもやらかすようでは、この世界に適応できるとはとても言えない、という主張自体には、まあ同意できなくはない。
異世界から拉致してきてる時点で、やられた側的にはアウトだけどね?
で、つまり三年間は公式行事や招待状各種でのお呼び出しに出る事を断る権利が、異世界召喚者にはあるんだそうだ。
まあ所詮慣習法なので、ライゼルとかは余裕でシカトしてそうだけど。
実のところ、ヘッセン側は、この権利を盾にされることを予想していたようで、行くと返事を出したら慌てたように丁寧な文言で、これが非公式の招致である、との案内が改めて届いたという。
あれ、割とハルマナート、もしくはあたし、ナメられてね?と思ってしまったのは許して欲しい。
なお女王陛下とサクシュカさんは一件目の召喚状に関しては割とぷんすこしておられたことを明記しておく。
聖女を太子の婚約者に出来て調子こいてんじゃねえか、とは、言い方からしてカルセスト王子の台詞だったろうか。
サクシュカさんは、目が笑ってない系笑顔であたしの横に座っている。内心で、こういうしでかしは誰の仕業かなあ、とか思ってそう。
いや、内心が読めるわけではなく、ヘッセンへの道中でそういう話をしたというだけなのだけど。
ヘッセンはハルマナートからだと、陸路ではフラマリアを挟むことになるので、空路を恐怖のドラゴン便で運ばれました。
今回はサクシュカさんに載せられたんだけど、ふっさふさの鬣に埋まれたので、思ったよりは楽だった。スピードには注意して貰ったし……
なので恐怖の、はちょっと言い過ぎかもしれない。でもこれはちゃんと伝えないと、またトンデモスピードで振り落とされかけるからね、しょうがないね。
いかに龍で王族といえども、相手国の王城に直接乗り込むのは不作法だということで、海を飛び越え、ヘッセン国に入ったところで降りて、そこからはヘッセン国の国内沿岸航路での船旅でした。
途中中継地の港町で一泊で、二日弱ほどの行程。
ヘッセンの王都は、海に面したところにあって、海から行くと結構近い。
もう少し時間に余裕があって、船の空きがあったら、最初から海路も良かったかもね、とはカルホウンさんの言葉。
年中温暖なハルマナートにいたんで判りづらかったんだけど、世界的に季節は春で、交易開始の季節のため、漁船以外の船は出払っている。
空から見下ろしたら、なるほど、結構な数の帆船や魔導船に遭遇した。
魔導船は魔力を動力に動く船の総称ね。スクリュー式だったり、水魔法や風魔法で直接船を動かしたり、システムは様々だそうだけど。
この間攻めてきた挙句に、彷徨える呪われた艦隊になっちゃったサンファンの船は水風併用の高速魔導船だったんだって。
せっかくの技術があのざまか、勿体ないなあ。
ヘッセン国はくの字に曲がったこの大陸の西の端っこに張り出したような場所にある国。
この国から海路を北に進むと、トゥーレという人口の少ない島がある。
トゥーレは少ない国民が全員で寄り集まって立法会議をしたりする、王のいない国だそうだ。
その辺から来る海流の温度が低いので、ヘッセン国の北側は夏涼しく冬は寒いのだそうだけど、大陸の突端部をぐるりと回りこんだ南部あたりだと冬もそこそこ暖かい。
で、その暖かい側の西端に近い海岸に面した場所に、王都メッサニアがあるという次第。
ちなみに今回あたしがお呼び出しされた理由は、治癒の力。
なんか海のスタンピードの時に、初級治癒に魔力込め過ぎて生命賦活になっちゃったあれが、ヘッセン国の聖女様に感知されてしまっていたらしい。
そういやサンファンの連中が治癒持ちの存在に気付いた理由、なんだったっけ、聞いてない気がするな?後で誰かに確認しておこう。
ともかく、強大な治癒の力を検知したので、使った人と使われた人、セットで会いに来て欲しい、という話だった次第。
なので護衛のようにふるまって遊んでたサクシュカさんも実は客人です。
護衛はカルホウンさんだけだよ。
一応滞在が伸びそうなら、サクシュカさんの侍女さんたちと、その侍女さんたち用の護衛の人族の人たちが来るみたいだけど。
ええ、普通の国民は龍の背に乗るなんて畏れ多いから無理、ですって。
あたし問答無用で二回も乗ってるんですが?!
っていうかこれあれよね、畏れ多いんじゃなくて普通に怖いからってやつですよね!?
ああ、思考が大分逸れた。
王妃殿下の発言には、軽く頭を下げておくことで返す。
無礼を働くつもりはないけど、不作法ものの烙印を押されるのは、なんていうか、作法を教えてくれた先生や、シエラの為にも、避けたい。
まあ今回の所作は基本的にサクシュカさん監修、シエラの微補正付きだ。
相手の初撃が無礼側に寄っていたので、あんま歩み寄らなくていいわよ、とは作法勉強中にサクシュカさんがイイ笑顔で言い放った言葉です。
やっぱこの人怒らせちゃいかんな。そんなことする気はないけど。
「いやはや、非公式だからまあいいかで済ます気でいましたけど、イーライア殿、その背後の人員はちょっとアウトですわね」
突然サクシュカさんが怖い顔でそんなことを言い出した。
あー、なんかいるなと思ってたけど、これ、通常の護衛じゃないんだ。
「む?誰ぞあるのか」
ところが、振り向いてそう誰何する王妃様。あれ、王妃様手配の人員じゃないのか。
「失礼致しました。王太子殿下より護衛を申し付かりましたが、よもやご不要で御座いましょうか」
跪拝してそう宣うのは、まあまあいいガタイの、でも近衛兵とかとは雰囲気の違う、良く日焼けして野生的な感じの、ごく短く金髪を刈り上げた、いかにも軍人さんらしい男性。
あと二人ほど、地味な服装だけど軽装の装備を身に着けた、見るからに訓練された女性兵士といった感じの人たちを連れている。
「わらわはそもそもこの部屋に男を入れるなと申したはず、下がるがよい、ゲンティウスよ」
明らかに不快を声に乗せる王妃様。但し表情は完全な無表情だ。
聖女様の潔斎に障りがあるといけないからという理由で、今回顔を合わせるのは国王陛下やカルホウンさんを除いた、女性だけの予定だ、というのは確かにあたしたちも聞いているけど、王太子殿下が、それを聞いていない?
ゲンティウスと呼ばれた男は、小さく承りました、と返すと、裏通路らしきところから出て行った。
女性兵士らしき人はそのまま残っているけど、こちらには王妃様も文句はないようで、そのまま待機を命しる。
「ふーん。兵士。」
ああ、サクシュカさんの機嫌が急降下している。
もう言われなくても判る。いくら女性でも武装した人をこういった場に置くのは、もしかしなくても、ド失礼なのね?
この王妃様そういうとこに気が回らないタイプ?それとも普通にナメられてる?どっち?
無礼に無礼が、それとも?




