24話 婚約者
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今回は少し長くなりました。とはいっても、1000文字くらい増えただけですけど。
≪メディア視点≫
私は、メディア。小さい町で母と二人で暮らしていた。幼馴染は、町長の息子のマシュー、もう一人は、町長より偉い貴族の息子エルヴァン。
マシューは、昔っから悪さをしては、エルヴァンのせいにしていた。大人しいエルヴァンは、それを抗議する事もなく、ただ受け入れていた。
最初は抗議する勇気がないと思っていたけど、エルヴァンは、普段から誰に何を言っても、聞き入れてもらえない事を知っていたから、何も言わなかっただけだった。ただ、エルヴァンの本来の性格なのか、悪さをして怪我をしそうなマシューを、怪我をしないように守っていた。
そんな中、私との婚約が決まった。エルヴァンはいい奴だったし、何より、あの家族から守ってやっているという優越感に浸れた。
だけど、その頃から、マシューが私を誘うようになっていた。
マシューが勇者に選ばれたときに、エルヴァンの父親が、厄介者(家族内のみ)を追い出すのにいいと思ったのか、マシューのお供として、勇者パーティに選ばれた。それだけならよかったのだが、勇者であるマシューが私をパーティへと誘って来た。
母は、私とエルヴァンの婚約に否定的だったから、勇者になったマシューと結婚して欲しかったんだと思う。私もどんどんマシューの方が価値があると思い、エルヴァンを邪魔だと思うようになっていた。
結果、私はエルヴァンを裏切り、マシューを取った。それなのに……。そのマシューが私に剣を向けている。
「ま、マシュー!? ど、どうして……?」
マシューは、私を斬ろうとするが、私は必死になって避ける。避けた私を睨みつけて、「お前みたいな役立たずは、勇者である俺が逃げる為の捨て駒になればいいんだよ!!」
「そ、そんな……。私は、貴方に必要とされるために、エルヴァンを裏切ったのに!?」
「誰がそんな事を頼んだ!? お前が勝手に、俺に股を開いただけだろうが!? 俺は幼い頃からエルヴァンが疎ましくて仕方なかった。だからこそ、あいつからお前を奪ってやろうと思っていた。それを達成できた今、お前はもう必要ない!! そこで死んでいろ!!」
そう言って、マシューは斬りかかってくる。
「止めて!! 私達、愛し合ったじゃない!! シリ!! 助けて!!」
私はマシューの剣を避けながら、私達のやり取りを見ているシリに懇願するが……、シリは冷たい目で私を見下す。
「私は聖女。それなのに貴女に偉そうにされるのが、嫌で仕方なかったんです。僧侶である貴女は、本来聖女である私を敬わなければいけなかった。それなのに勇者様の寵愛を受けたと勘違いして、全く汚らわしい……。勇者様。私の魔法でその女の動きを止めます。早く殺してください」
「おぅ。麻痺させてくれ!! さっさと殺さねぇと魔王が追いかけてくる!!」
シリが魔法を唱えると、身体が動かなくなる。そ、そんな……。私はただ……エルヴァン……助けて……。
私は動けないながらも、逃げようと振り返った時、エルヴァンとクリス、それに魔族の女が追いかけてきた事に気付いた……。
あぁ……。助か……。
その瞬間、肩に激痛を感じる……。マシューの剣が私に届いてしまった。深く食い込む刃……痛い!! 助けて……。そのまま、マシューの剣は振り下ろされる……。い、いたい……エル……。たすけて……。
える………ごめ……さい……。
≪エルヴァン視点≫
マシューはメディアを斬った後、逃げるように走り去る。俺達は切られたメディアの元まで駆け寄る。
傷口を見ればわかるが……かなり深い。これは恐らくダメだろうな。ただ、クリスならと思い聞いてみる。
「クリス。治してやれるか?」
クリスは黙って首を振る。そうか……。マシューの攻撃は命中率が低いので、急所に当たるとは思えなかったのだが、珍しく急所に当たってしまっていたようだ。
メディアの眼は虚ろになり、ぼそぼそと何か呟いている。
「私は……に……たかった……」
声はだんだんと小さくなって、息もだんだん弱くなっていく。俺は死んでいくメディアを、ただ見る事しかできなかった。
「エル……。何も言わなくていいの?」
クリスは、俺の腕を引っ張って、メディアの前に連れてくる。とはいえ、何を言えばいいのか分からない。目の前で、死にゆくのは裏切ったとはいえ、元婚約者。町にいた頃は、楽しかった事があったのは事実だ。
「メディア……」
「…………」
メディアは俺の言葉に反応しない。もう何も聞こえていないのだろう。ただ、何かを呟いている。
ファムはメディアの言葉に耳を傾ける。
「エルヴァン……ごめんなさい……」
ファムが呟くようにそう話す。俺は、何を謝られているのかと思ってファムの顔を見たが、ファムはメディアをジッと見て「彼女の最期の言葉です」と言った。
メディは静かに目を閉じていき、息が止まった。クリスが魔法を唱えたようで、メディアの遺体が光の炎に包まれる。
「神聖魔法《浄化の炎》。これならば、メディアの汚れた魂でも、ちゃんと死界に送る事が出来る。後は冥福を祈ってあげて……」とクリスも俯く。
俺は、クリスの魔法による炎が消えるまで、ただメディアの姿を見る事しかできなかった。
メディアの魂を死界に送った後、マシューを追おうとしたら、クリスに止められた。
「なんだ? マシューを逃がすことになるぞ」
「あのエロ勇者は後でいい。それよりも、エルに聞きたい事がある」
「なんだ?」
クリスの顔が、今までにない程に真剣な顔になっている。
「真面目に聞いて。ここから先は、本格的なこの国対魔族の戦いになる。当然、失ってはならない命が散る事になる。エル。貴方は魔王として、どこまで戦える?」
「どこまで?」
「うん。あえて言うならば、この国を滅ぼす事が出来る? と聞いているの……」
クリスの言葉が重くのしかかる。この国を滅ぼす。それに関しては、何の問題もない。ただ……気になる事があった。
「クリス……。一つだけはっきりしておきたい事がある」
「何?」
……。
「クリス……。お前は……何者なんだ? 本当に人間か?」
クリスは最初は何も反応しなかったが、俺が真剣に聞いていると分かると、自分の事を話し始めた……。
これで婚約者は退場です。
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