第9話 親分?オヤビン?
1週間ぶりの更新です。
遅ればせながら評価頂きました!ありがとうございます!!
書き溜めた文章を削除してしまった精神的ダメージにも負けず、どんどん盛り上げていきますのでよろしくお願いします!
「こ、これ、間違いないよな!?黒コゲだけどそうだよな!?」
「黒コゲだから間違いないんですよ!
サイズだって、ほら!」
「やったー!ゴールは近いぞ!」
思わぬ発見に取り乱し、現在の状況を忘れて2人で手を取り合って喜んでしまう。
ここに右脚が落ちているということは、あの時僕がこの場所で襲われたという動かぬ証拠になり、『白い部屋』もそう遠くない位置にあるかも知れないという事になるからだ。
『はいはいはいはい、そこまでっスよ〜。
"眼球潰しのスプラッター女子"と
"ムラサキヒトデヘアーの少年"。
大人しく投降しなさ〜い』
「「!?」」
突然の声に驚き、急いで後ろを振り返る。
と同時に、大通りはいくつものライトで明るく照らされ、道路の脇に設置されていたスピーカーからその声は響く。
『いやぁ、念のため見張りを多めに配置しておいて正解っスよ!
さしずめ、"飛んで火に入る脚の主"ってとこっスかね〜。
それとも"放火魔は現場に戻る"かな?うぷぷ』
後方、僕達が逃走を図っていた路地裏からも篝火や懐中電灯を持った異形達が近づいてくる。
「後者はともかく、前者は聞いた事もない言葉だなぁ?」
逃げられないと悟ったのか、サイコさんは大通りに進んでライトに照らされる。
一呼吸置き、僕もサイコさんに続く。
大通りには大勢の異形が通路を埋めるようにこちらを取り囲んでおり、ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべている。ざっと見渡しても30人はいるだろうか。
「さっきはよくも踏み潰してくれやしたね!」
「ん?……あっ!」
大通りの集団から一際小さいサイズの異形が目に入る。
突出した眼球、痩せ細った身体。
間違いない。こいつはあの時、カボチャ男の傍にいたガリガリ男だ。
飛び出た方の眼からまるで数珠状にいくつも眼球が飛び出し、それらを手のひらに乗せて全ての眼でこちらを睨みつけてくる。
僕は憎しみを込めてそれを一瞥し、前へ向き直る。
サイコさんは前を向いたままだ。
自分に向けられた言葉だと思っていないのか、あるいは前方の『それ』に目を奪われて耳に入っていないのか。
大通りに面した交差点、その中央には瓦礫や鉄骨で組み上げられた巨大な移動式の物体が設置されており、ところどころにカラフルな電飾や派手な装飾が施されてキラキラと輝いている。
その形はまるで不恰好な物見櫓のようだ。
そしてその頂上に、声の主はいた。
物見櫓と同じく派手な装飾の拡声器を片手に、こちらに向かって高らかに叫ぶ。
『得体の知れないお二方、遠路はるばるようこそおいで下さいました!久々のお客様とあって区民一同、このとおり喜びを隠しきれません!
わたくし、ここ大凶区の区長を務めさせて頂いております"オヤピン"と申します!!』
「うぉぉぉぉ!!親分、万歳!!」
「オヤビ〜〜〜〜ン!!」
周りの異形達が一斉に喝采を送る。
『いや、"ピン"!"ピン"ね!?
濁音は可愛くないんスよ!半濁音が可愛いんスよ!!全く、何回言ったら分かるんスか!』
声の主の言っていることが本当ならば、カボチャ男の言っていた『親分』とはこの人物だという事になる。が、僕にはとても信じられなかった。
なぜなら。
「あんたがここの親分!?あっはははは!!
そのナリでか!」
異形の歓声に混じってサイコさんは吹き出し、笑い出す。
声の主は、ビビッドカラーのカラフルなパーカーを着込み、くすんだ色の金髪を乱暴に結んだ姿の少女だった。
見たところ10代半ば。『親分』という言葉からは想像もつかないような姿に、僕と同じくサイコさんも何かの冗談だと思っているようだ。
『むむむむ、だからオヤピンだってば!!
ケタケタと笑ってられるのも今のうちっスからね!
さぁ、下らない潜入ゲームは終わり!野郎ども!!
バトルステージ、セットアップっス!!』
「「へい!!」」
オヤピンという少女の合図と共に、異形達が一斉に巨大なバリケードを並べ立てる。
大通りの真ん中、僕達を取り囲むようにまるでボクシングのリングのようなものがあっという間に作り出された。
バリケードの上に乗り出し、興奮した複数の異形が下品な野次を飛ばしだす。
『人生を楽しむ上で大事なのは、なによりも娯楽っスからね〜。
しかしここは退屈な大凶区、今からあんたたちには区民のために楽しい楽しいゲームに参加してもらうっスよ!!
ルールは単純明快。ここにいる大凶区民達と闘って、無事でいられたらあんたらの勝ち。2人とも戦闘不能になった時点でオヤピン達の勝ち!身ぐるみ全部置いてってもらうっスよ!』
「ゲーム、だぁ!?
生憎あたし達はそんなもんに付き合ってられるほど暇じゃないんでね。そんなに楽しみたかったら、あんたが1番最初にかかってきなよ」
『分かってないっスね〜。ボスは1番最後に登場するのがセオリーってもんでしょうが。オヤピンと闘いたかったら、まずは勝ち残る事っスね!』
少女は余裕たっぷりにそう言うと、傍に設置されていたソファに腰掛け、足を組む。
「サイコさん、僕も闘います!足手まといにはもう、なりたくないんです!」
「やめとけ、と言いたいところだがこの状況、どうやらそうもいかないか。
そうだな……まずはあたしが相手をする。そしたらあんたは隙を見て、このリングの角に移動するんだ。あたしも闘いつつなんとかそこへ向かう。これならあんたを守りながら闘えるからね」
「それじゃ僕が闘ってる事にならない!」
「待て待て、早とちりすんな。まず相手を見極めて、あんたでも太刀打ちできそうなヤツだったら迷わず交代するさ。
さすがにこの人数、あたし1人じゃ体力がもたないからね。
さすがにパンチ、キックくらいはできるよな?」
「任せてください!」
正直に言うと、戦闘の心得など何1つ分からない。勝ち目がない事も分かっている。
だが退路を断たれ敵に囲まれたこの状況で、なにもせずにいられる訳がない。
『はいは〜い、作戦タイムは終了っスよ!
ロードの長いゲームは気分がダレちゃうんでね、とっとと始めちゃいましょ〜』
物見櫓をよじ登り、1人の異形が少女の側に立つ。腹部が金属製の丸い鉄板のようになっており、大きな銅鑼に手足の生えたような奇妙な体型をしている。
『ラウンド1……
ファイッ!!!!』
少女が銅鑼人間の腹に勢いよくハンマーを打ち付けると、大きな鈍い音が辺りに響き渡る。
「「うおぉぉぉぉ!!!!」」
その音を合図に、周囲の異形達がバリケードを飛び越えて一斉に僕達に向かって襲いかかってきた。
「な……!?ふざっけんな、コラァァ!!」
サイコさんは怒りの咆哮をぶちまけ、飛びかかって来た異形の攻撃をすんでのところで躱す。
『きゃはははは!!誰も1対1のガチンコ勝負だなんて言ってないもんね〜!!
おいキングゴング、あんたも行ってきていいっスよ!』
「いやっほう!」
銅鑼人間は物見櫓から飛び降り、リングに向かって走り出す。
「ルカ!作戦変更だ!!でけぇヤツはあたしが相手をする!あんたはチビ共を頼む!」
「はい!!」
大小様々な敵が入り乱れる中を、足を止めずに注意深く観察する。感染者の厄介なところは、外見だけではどのような能力を繰り出してくるか分からないという点だ。
バリケードの外側にも未だ相当数の異形がおり、混乱に乗じて逃走するのも難しい。
あの夜、カボチャ男に踏み潰された痛みと恐怖がフラッシュバックする。
殺意剥き出しの化け物共を丸腰で相手しなければならないと思うと、足がすくむ。
しかし、闘わなければならない!
生き残らなければならない!
アドレナリンが噴出し、冷静な判断が出来なくなるのを僕は必死で堪える。
全身に炎を纏わせ、火柱を上げてサイコさんは吠える。
「かかって来いやァ!!!!」