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第11話 "興ざめ返し"

会話の多いパートが続くので2日連続での更新となります。次回も22時ごろの更新を予定しております。

身体が動かない。意識が朦朧とする。


視線は屋上のディエゴさんを捉えているが、僕には理解が出来なかった。

なぜ周りの敵ではなく、僕を撃ったのか?2発もの銃弾を心臓に命中させたのだ、打ち損じとは思えない。

消火器の薬剤や生ゴミ、異形の返り血でかなり汚れてはいるが、この服はディエゴさんから貰ったものだ。僕を敵と勘違いして撃ったとも考えにくい。


では、なぜ……?



『遅くなって申し訳ありません、2区を出るのに少々手間取ってしまいましてー!』


「あ?……そ、そうだよ!あんたどうやって2区から出てきたの?まさか無断で!?へタしたらあの街から"永久追放"だぞ!!」


『その点はご心配なく!まずはこの窮地を脱してから後ほど説明しますのでー!』


ディエゴさんは拡声器を置くと、続けざまにサイコさんの周囲にいる異形を撃ち抜く。


「それもそうだな……よっしゃ、もう一踏ん張り!!」


サイコさんもそれを合図に、残りの異形に攻撃を仕掛ける。


「「うわあぁぁぁぁ!!!!」」


突然の援軍にリング内は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。バリケードを崩して逃げ惑う者を銃弾が貫く。ディエゴさんに向けて攻撃を図ろうとする者をサイコさんの火柱が襲う。異形達は二人の見事な連携攻撃に、なす術もなく次々と撃退されていった。


そして僕は、地面に這いつくばったままその光景を眺めているしかなかった。




「テメーで最後だ、チャーシュー野郎!!」


「ブヒィィィィ!!!!」


サイコさんの火柱を噴き上げるアッパーに豚人間は勢いよく吹っ飛ばされる。その先にいた気絶している銅鑼人間の腹に頭部が激突し、ゲーム終了の合図と言わんばかりに大きな銅鑼の音が鳴り響く。




「ふぅ、ステージクリアってやつだな。後はあんただけだよ?"ボス"」


サイコさんは白衣についた汚れを手で軽く払い落とし、仁王立ちで構える。

後方の廃ビルのドアが開き、地上に降りてきたディエゴさんはこちらに歩み寄って来る。そして僕の側にしゃがみ込むと、そっと耳打ちをしてくる。


「いやはや、手荒な真似をして申し訳ない。しかし安心なさい。たとえ心臓が傷ついても"ここ"をやられなければ平気ですから」


ディエゴさんはトン、トン、とこめかみの辺りをつつきながら囁き、持っていたガンケースを開いた。スナイパーライフルは既に分解されて綺麗に収納されており、二つあるマガジンの収納部分、その片方から注射器を取り出して僕の腕に刺す。


「しばらくしたら動けるようになります。今は私達に任せておきなさい」


倒れて動けぬままの僕の肩に手を置き、ディエゴさんはにっこりと微笑む。




『あぁーーッ!!やっぱり!

ヘイ!そこのジジイ!!それ、オヤピンのスペシャルメガホンじゃないっスか!!どうやって手に入れたんスか!?』


「そこかよ……」


少女は倒れている異形達に目もくれず、ディエゴさんに向かって怒鳴る。


「え?ああ、これですか。ここに向かう途中で見かけた方が持っていたのを拝借させていただきました。岩だらけで手こずりましたが……今もどこかで気絶しているかもしれませんねー!』


ディエゴさんは例の拡声器を手に取り、からかうように振る舞う。


『気絶ゥ!?そ、それは幹部クラスの部下にしか支給しないオヤピン特製のメガホンなのに!!』


「その幹部クラスをここに連れてこなかったのが運の尽きだったな。ほら、かかって来ねーならこっちから行くぞ?」


サイコさんは崩れたバリケードや戦闘不能になった異形達の間を抜けて、少女のいる物見櫓に歩み寄る。

それを見た少女は少し焦った様子で物見櫓から飛び降りて地上に着地し、サイコさんと向かい合う。



「ふん、何も知らない浮浪者かと思ったら、どうやらとんでもねー強者揃いだったみたいっスね。

"画面外からのカットイン"には興ざめっスけど」


少女は憎らしげにディエゴさんを一瞥するが、当のディエゴさんは相変わらずニコニコ微笑んでいる。


「もう一度言うが、あたしらにはあんたの考えたルールに従う筋合いは無い。むしろここまで付き合ってやったんだから……もう満足したろッ!!」


サイコさんは少女に向けて炎の拳を振り抜く。その瞬間、少女は弧を描くように後ろ向きに跳躍し、サイコさんの攻撃を躱した。


「避けやがった!?」


静かに着地した少女の、二つに結ばれた後ろ髪が左右にワサワサと揺れている。

首にかけた拡声器を再び持ち、こちらに向ける。



『ひ〜!熱そう!オヤピン、熱いのは苦手なんスよね〜!

しかし炎使いにナイフ使い、おまけにガンマン。なんともバランスのとれたパーティじゃないっスか!

正直、一度に三人相手する事になるとは思ってもみなかったっスよ。と、いう事で……




各自、撤退っス!!』


少女は踵を返し、物凄いスピードで一直線に走り出す。

意識のある異形達は少女の命令に従い、よろよろとその場を離れて廃墟の闇に消えてゆく。


「な……逃げんな!このヤロー!!」


「きゃはははは!!

興ざめには"興ざめ返し"っスよ〜!!」


少女は笑いながら、物見櫓の鉄骨の間を器用にすり抜けて逃走する。


「やれやれ、どこかで曲がれば良いものを」


ディエゴさんは素早い動きでベストのホルスターに手をかけて拳銃を取り出し、引き金を引く。

大きな銃声の後、物見櫓の向こう側、その先のアスファルトに小さく火花が散る。


「あらら、避けられてしまいましたね」


「きゃはははは…………」


笑い声を残して、少女は姿を消してしまった。その声を聞きながら、ディエゴさんは少し悔しがるように苦笑いを浮かべる。


「あらら、じゃねーよクソジジイ!カッコつけてたくせに、外してんじゃねーか」


「私の銃撃を避けるとはまさしく想定外、と言ったところですかね。まぁ、目的はあの子にあるわけじゃないですし、結果的には余計な戦闘にならずに済んで良かったと思わないと」


「そりゃそうだけどさー!

あの人を小馬鹿にした態度、今度会ったらタダじゃ済まさねーぞ、あのチビ!」


サイコさんは悔しそうに唇を噛み締め、道路の片隅にあるドラム缶を蹴りつける。


「ぎゃあ!!」


「「!!?」」





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