はじめての闘い その23 ―花占いをする時、だれもが「きらい」からはじめる1―
"ジュネス"邸・母屋を出て
――<離れ>に、"摂"氏は入ります
――鍵は開いていました。
入るや否や、ドアノブのツマミを捻りました
――続いて"摂"氏は、捻りを解除してからまた閉めて
――ドアノブさえ廻して
<閉まっている事>をしつこく、確認しました。
初めて<離れ>のベッドルームを訪れた時に嗅いだ
――<あの匂い>
――どこかで嗅いだことのあるニオイ
は、薄れていました。
しかし、代わりに少し、厭な臭いに転じていました。
それは腐敗した<海>ニオイでした
――海が腐ることはないのでしょうが…
――水死体ゾンビが、ワカメを全身、包帯の様に纏いながら
――そして富士壺のピアス…
――からっぽな内臓……
――が、浜辺に上がる時に巻き散らす、あの臭い
――嗅いだことはありませんけど……
――亀毛兎角、そういうことで。
それが何であれ
――薄れれば薄れる程、"摂"氏の<デジャ・サンティ>の意識が強まっていき
――未解決のまま棄却していた問題を再び取り上げることになるのです。
<<これは、どこで嗅いだのだろう…?>>
そして、そんな腐臭の中で、前日に感じた、スパイス程度の効果しかなかった、明らかに脇役だった<柑橘>要素が、強まっていることに気付きます
――そしてそれは、人工的なニオイだった筈なのに、<自然>に近づいているのです
[言い換えると、
人工的に作られた<部屋>の中にある人工的な<香り>が、時の経過と共に
――そこに、既に内在していた<自然>
――それは、上から被さった<人工>という層によって隠されていた
――その上辺の<層>がいま、両極から引っ張られ
――千切れて
――穴となり、
下にあるモノが、徐々に顔を出しているかの様です]
そして自然を知れば知る程、
"摂"氏はその日一日を通じて付帯した<汚れ>
――皮膚だけでなく服の上からも積もり、しがみ付く
――垢
――朝、洗浄した筈なのに…
に対する意識が比例して、高まっていることに気付きます。
そして、汗をかいていました。
"摂"氏は、<離れ>のベッドルームの窓を開けます。
風があります
――湿気た、愁いを帯びた風が。
しかし、汗を乾かすには十分ではありません。
<<明日の朝じゃ、シャワーは浴びることが出来ないだろうし、風呂に入る時間も取れない気が……>>
したので、"摂"氏は奥へと向かいました。
そして、その時になって、
<<ああ、明日はもう学校なんだ>>
と気付きました
――当たり前の事であるし、忘れていた訳ではないのですが、そう意識するまで、「そうである」と、確固とした形で、眼前に現れないのでしょう。
――玉葱ではないスライムの様な、現実的未来
――そこに在るし、ガイドブックは「在る」と云うにも関わらず、遭遇して場面が切り替わるまで、本当かどうか、わからない流動的なモノ。
<ポルト デュ ボァ>を開け
――真っ暗
――壁に指を這わせ…
――点灯
――そして、<バスルーム>があります。
奇妙な点はありません。
バスタブの上、二つ、宙に浮いている<デカペ>な銀色蛇口の栓
――青と赤のボタンがそれそれ点いている
両方を捻り
――水の奔出
手で確認しながら、温めを設定して、鎖に繋がれたバスタブの、黒ゴム栓で蓋をすると
――紫のボトルが見えました。




