『実力』と、それを包む邸宅 その11 ―びあん―
そして、勉強が再開されます。
しかし、<オーディオ・プレーヤー>の中に詰め込まれている
――CDアルバムの中に詰め込まれている、
――曲の中に詰め込まれている、
浮かれた、軽薄な雰囲気がスピーカーを通じて花開き、音の粒が漏れてダイニング・ルームに満ちて
――キューに突かれたビリヤードの玉の様
次々
――互いに衝突しても音は消えない
一杯になると、玄関スペースへと
――さらに先へと
感染していくと、
"ジュネス"邸は、<パーティー会場>の様でした
――踊るひとなど、誰もいないのに。
[まぁ、音とHIPHOPERのライムが踊っていることは、間違いありません]
そして音楽は、二人の気づかない内に、その後の勉強のペースとモチベーション(動機)に影響を与えるのです
――それも、悪い方に。
それは、音楽が悪いのでは、ない
――言うまでもない
――どこの誰ですか? 音楽性悪説を唱えるのは?
[その時に使われるキーワード:「モラル」]
「うーん」
と、テーブルに肘をついてペンの尻を噛む"ジュネス"が唸りました。
「どうかした?」
と"摂"氏が尋ねると、"ジュネス"は
自分の力で取り組んで、はじき出した<試答>に自信が持てない
と告白してきました。
その、"ジュネス"が自分なりに出した答えは、教科書に載っている参考の答えに、そぐったものでした。
「でも、なんか、ホントにこれでいいのか、わかんないんだよな」
「わたしもです」
「そう?」
「そうですよ――そういうものですから」
"摂"氏は、達観していました。
そして、テキストに目を戻しました。
何かを書きつけました。
この姿勢を見た時、"ジュネス"は
――多くの同級生や先輩、教師たちが"摂"氏の達観に面した時にいつも思う様に、
「偉そうに!」
「生意気だ!」
とその時、
――思ったのでしょうか?
――はっきりと言えることは、"ジュネス"は先輩至上主義者ではなかったということです。
実際、不安そうに"ジュネス"が、"摂"氏を見つめていました
――テーブル越し。
ミートパイの乗っていた白い皿は二枚とも、屑を残して、空
――ドリンクさえ、氷を残して、そう。
次の言葉と目の動きを待っているにも関わらず、それが与えられない為、
「でも、もしも、もしも他に、正しい答えがあったら…」と"ジュネス"は切り出します。
「では、そこに載っている答えを丸暗記すれば、良いではないですか」と、本に視線を落としたまま。
「でも、テストに出る問題が、この練習問題と同じとは限らない…」
「そうですよ」
「だから――応用問題…」
「どうしようもないですよ――テストとは、そういうものだから。丸暗記しても、どうしようもない時は、どうしようもないのです。出来ることは、最悪を避けるための努力をするだけ。違いますか?」
[これは、"摂"氏が<ある体験>をしてから、理解したことでした]
「違いますか?」の最後三文字が、
「ねすぱ?」
として――ダイニング・ルームに――響きました。
それは、HIPHOPのパーティーチューン
――まるで、自分の尻尾を飲み込む蛇の様に絡まって
――まるで、プレッツェルの入った大入り袋
その、メヴィウシックな輪の穴からでも、はっきりと聞こえます。
そのまま、その夜は更けていきます。
夜食なのか夕食なのか分かりませんが、途中で中華料理を食べました。
<春巻き>を食べた時、"摂"氏は
<<食べなければ良かった>>
と後悔しました
――あのミートパイを食べた後では、すべてが劣るのです
――特に、似たものであると、差異が際立つのです。
日が変わって大分経った頃――と言っても、まだ夜は明けていません
――眠くなった”摂"氏は、伸びをして、己の状態を告げました。
“ジュネス”は
「オレは、もう少しやる。おやすみ」
とのコトです。
そして、欠伸を噛み殺しました。
だから、別れの挨拶をして、"摂"氏は玄関から裏庭へ出て、<離れ>に行きました。
「また明日」




