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温度  作者: 折鋸倫太郎
『実力』と、それを包む邸宅
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31/395

『実力』と、それを包む邸宅 その11 ―びあん―

 そして、勉強が再開されます。

 しかし、<オーディオ・プレーヤー>の中に詰め込まれている

 ――CDアルバムの中に詰め込まれている、

 ――曲の中に詰め込まれている、

 浮かれた、軽薄な雰囲気がスピーカーを通じて花開き、音の粒が漏れてダイニング・ルームに満ちて

 ――キューに突かれたビリヤードの玉の様

 次々

 ――互いに衝突しても音は消えない

 一杯になると、玄関スペースへと

 ――さらに先へと

 感染していくと、


 "ジュネス"邸は、<パーティー会場>の様でした


 ――踊るひとなど、誰もいないのに。


 [まぁ、音とHIPHOPERのライムが踊っていることは、間違いありません]


 そして音楽は、二人の気づかない内に、その後の勉強のペースとモチベーション(動機)に影響を与えるのです

 ――それも、悪い方に。

 それは、音楽が悪いのでは、ない

 ――言うまでもない

 ――どこの誰ですか? 音楽性悪説を唱えるのは?


 [その時に使われるキーワード:「モラル」]

 


 「うーん」


 と、テーブルに肘をついてペンの尻を噛む"ジュネス"が唸りました。


 「どうかした?」


 と"摂"氏が尋ねると、"ジュネス"は


 自分の力で取り組んで、はじき出した<試答>に自信が持てない


 と告白してきました。

 その、"ジュネス"が自分なりに出した答えは、教科書に載っている参考の答えに、そぐったものでした。


 「でも、なんか、ホントにこれでいいのか、わかんないんだよな」


 「わたしもです」


 「そう?」


 「そうですよ――そういうものですから」


 "摂"氏は、達観していました。

 そして、テキストに目を戻しました。

 何かを書きつけました。

 この姿勢を見た時、"ジュネス"は

 ――多くの同級生や先輩、教師たちが"摂"氏の達観に面した時にいつも思う様に、

 

 「偉そうに!」


 「生意気だ!」


 とその時、

 ――思ったのでしょうか?

 ――はっきりと言えることは、"ジュネス"は先輩至上主義者ではなかったということです。

 実際、不安そうに"ジュネス"が、"摂"氏を見つめていました

 ――テーブル越し。

 ミートパイの乗っていた白い皿は二枚とも、屑を残して、から

 ――ドリンクさえ、氷を残して、そう。


 次の言葉と目の動きを待っているにも関わらず、それが与えられない為、


 「でも、もしも、もしも他に、正しい答えがあったら…」と"ジュネス"は切り出します。


 「では、そこに載っている答えを丸暗記すれば、良いではないですか」と、本に視線を落としたまま。


 「でも、テストに出る問題が、この練習問題と同じとは限らない…」


 「そうですよ」


 「だから――応用問題…」


 「どうしようもないですよ――テストとは、そういうものだから。丸暗記しても、どうしようもない時は、どうしようもないのです。出来ることは、最悪を避けるための努力をするだけ。違いますか?」


 [これは、"摂"氏が<ある体験>をしてから、理解したことでした]


 「違いますか?」の最後三文字が、


 「ねすぱ?」


 として――ダイニング・ルームに――響きました。

 それは、HIPHOPのパーティーチューン

 ――まるで、自分の尻尾を飲み込む蛇の様に絡まって

 ――まるで、プレッツェルの入った大入り袋

 その、メヴィウシックな輪の穴からでも、はっきりと聞こえます。

 そのまま、その夜は更けていきます。



 夜食なのか夕食なのか分かりませんが、途中で中華料理を食べました。

 <春巻き>を食べた時、"摂"氏は

 <<食べなければ良かった>>

 と後悔しました

 ――あのミートパイを食べた後では、すべてが劣るのです

 ――特に、似たものであると、差異が際立つのです。



 日が変わって大分経った頃――と言っても、まだ夜は明けていません

 ――眠くなった”摂"氏は、伸びをして、己の状態を告げました。

 “ジュネス”は


 「オレは、もう少しやる。おやすみ」


 とのコトです。

 そして、欠伸を噛み殺しました。

 だから、別れの挨拶をして、"摂"氏は玄関から裏庭へ出て、<離れ>に行きました。


 「また明日」



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