もびりえ ふゅねれーる その18
二人は公道で、向きあいました。
隣の車道にて――行き交う
自動車
は、在りません。
"摂"氏はノートの表紙を相手に見せて、
「では、帰って、<何か>を調べてみますね」
「そんなに急がなくていいから」
「急ぐべきなら急ぎますし、急ぐべきでないなら、そうしません」
「――ただ……」
と、"ドレ"
――"摂"氏はそれを耳にしてから
――語尾を質問形に変えて
――鸚鵡返し。
「――ずっと在る訳じゃないからな」
と、"ドレ"は濁した語尾を、<クレークマン>に補完しました。
"摂"氏:「在る?」
と詳細を問うと、
"ドレ":「<ノート>とか<フロッピー>とか……色々なモノ――ずっと、とっとける(保存する事が出来る)訳じゃないからな」
「何故?――どういう事ですか?」
「オレの父親は、そろそろ……あの……あの部屋("蜘蛛宇宙人"の部屋)を片づけようとしてるから――」
「そうですか」
「他のヤツも、もう忘れようとしているし………」
「そうですか」
「<全部>は、とって、おけないから」
「そうですか…」
「早い目に、<どの程度まで、とっとくのか>、教えてくれないと……」
「その為には<ノート>だけでなく、あの部屋の全てを一度、軽くでも調べないと……」
「じゃあそうして」
「<いつ>が良いですか?」
「いつでも」
「では――」
「あ、今日
――これから
は、もう、ちょっと……」
そして"ジュネス"邸を見返ります。
"摂"氏:「では明日」
「――明日」
「明日また参ります」
「――明日は困る」
「では<いつ>なら?」
「今度の休み」
「わかりました――ではその時に」
そして、
「その前に――」
と前置きをして、
「それから、データも勿論なのですが……」
と続ける"摂"氏。
"ドレ"は、無言で先を促します。
"摂"氏:「データ以外に、特に、<あの手袋>をとっておいてもらえますか?」
「どの手袋?」
「入口から入ったところにあるテーブルの上に乗った――」
「ああ、あの黒の……」
「ええ」
「アイツがいっつも着けてた…」
「ええ」
「家の中でも外さなかった…」
「知りませんけど、そうです
――捨てないでください」
[手袋の中身はもう、無いのに――
"摂"氏も結局、ヒトの子ですね]
諒解した事を告げられてから、別れを告げます。
そして、二人は互いに背を向けるのです。
バス停まで歩いていく途中、"摂"氏は口ずさんでいる自分に気付きます。
誰でも知っている
――誰でも暗唱の出来る
――有名すぎて陳腐な
あの
<シェイクスピアのソネット、第18番>
――その時、季節は"夏"でもないのに………。
それまで"摂"氏は
<18番>が<恋愛詩>だ
と、ずっと思っていました
――偉いセンセイ方がそう解説してきた様に……
――しかし、"摂"氏には違うのです
――違う<意味>なのです
――<恋愛>とは、何も関係が無いのです。
その内容――「思い出」。
14行目の最後
「あなた」
を
「しー」
と発音した後、"摂"氏は
「ふ」
と、空を見上げます。
星ひとつ
月ひとつ
在りません
――でも、何も問題はありません
――電柱の上、電気が
「明々」
――点っているのですから。




