↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
再考編(合宿)
PR
95/207

第95話   ターニングポイント

数時間で1試合という事実。

現国巻の選手たちからは、落胆の色が隠せない。

必死に戦った80分が、実は1試合の内の一部でしか無かったという事実にどう向き合うべきか考え込んでいる。


「ど・・・どうする?これから何時間も戦うってことだろ?」

「・・・・・・。」

久保の問いかけにも、だれも応答しない。

5人のキャプテン中、一番冷静な木村が面接のために戦列を離れたのは痛手だった。

しかし、木村のつぶやきを耳にしていた大下だけは、困惑した表情を見せていない。

「・・・・・・。」


「な、なに見つめてるんだ、大下?」


「・・・・・・いや・・・。」


「??」


「・・・・・・そうだ!!」


「???」


「まず、スポドリを薄めよう!」


「はぁ!!!??」


「あのスポドリの量じゃ、途中で全部尽きちまう。でも、後半から水道水だけで水分補給したら、ミネラル不足でみんな足が痙る!今の内にスポドリを薄めて、長期戦に備えるんだ。」


皆が驚いていた。普段静観な態度ばかりとっている大下が実利的な見解を述べたからである。


それが木村のつぶやきをヒントにしたものと周囲は知らないから、尚更だった。


「いや、でもスポドリ薄めたら効果も半減するんじゃねぇの?」

驚きの余り黙り込むメンバーたちの中で、竹下が意見を出す。これも珍しい光景だった。


「そうかもな。でも、聞いたことがあるぞ。市販のスポドリとかは、味を重視するから本来必要な栄養分よりも多めに糖分も塩分も入ってるって。」

怯まずに主張する大下の姿に、一部の下級生は感心している。


「そうなの!?じゃあ、手分けしてそうすっか!」


「いや、時間がない。休憩時間はあと3分くらいだろ。今から出場しないメンバーにやっといてもらって、その間に若宮に追加のスポドリを作ってもらっておこう。」


「そ・・・そうだな。」


6人目の3年生である副キャプテン望月は、この間に一切喋っていなかった。


それは昨日の竹下との口論が理由である。


一度部活に顔を出さなくなった自分がチームをまとめようとすることに、温厚な竹下すら抵抗を見せるという事実を視認して、まずはチームが戸惑いを見せた時には静観するように心に決めたからである。

これは正解だったと言える。

木村がいなくてもチームを牽引しようと大下が奮闘している姿を見つめながら、どのような声掛けで援護するかだけに脳細胞を活用していた。


「じゃあ、俺は何すればいい?」

そう問うた望月は本当は違う聞き方を選択肢に織り交ぜていた。

『俺は出場メンバーに入っておくか、スポドリを作り直す班をまとめあげる役になるか。』と。

だが、大下の垣間見せるキャプテンシーを更に引き出させようと、わざと質問の中に案を持ち出さなかった。

これも正解といえる。

「望月はスタミナの問題も有るし、控えに回って他のメンバーとスポドリを薄めていくのを仕切ってくれ。」

大下が導き出した答えは、望月が一番に考えた役回りと同じものだった。

この瞬間、ただスポーツドリンクの取り扱い方という、部外者なら『どうでもいい』と考えるであろう議論において、望月明那は実感する。


『自分の国巻での生きる道はこれだろう』と。

つまりはサポート意識。メンバーを牽引するのでなく、パイプ役となり、キャプテンたちの能力を引き出しつつ、下級生をまとめる橋渡し的な存在になる。それが自分に課せられた立ち位置であり、責務なのだと実感していた。


『これからは、こうやって生きていこう。それが一番だ。』

時間にして数分間でしかない対話の中で、望月は副キャプテンの在り方を知った。




10分という短い休憩時間が終わり、試合が再開される。

面接をしていた鈴木や高井が出場する代りに、望月ら控えになったメンバーたちは急いでスポーツドリンクを薄める作業に取り掛かった。

「・・・何か、ベンチが慌ただしいな。」

OBチームの滝沢は望月たちを見ながら、そうつぶやく。


それを気にも止めず、望月たちは必死にボトルの持ち運んで行くのであった。






時を同じくし、面接室に呼ばれた木村は、美津田監督と1対1で話をしている。


「で、監督、どんな面接なんです?」

「そう気構える必要は無いさ。なんせ【進路面接】だからな。」

「しんろ?」

「あぁそうだ。確認したいんだが、お前は今も県立大学を受験するって考えは変わってないんだな?」

「そうですね。第一希望はそこです。」

「このまま全国選手権を目指しながら?」

「えぇ、そうです。」


「言っとくけど・・・大変だぞ。」


「まぁ、そうですけど、受験勉強してない訳じゃないですから。練習後も、帰宅してから欠かさずちゃんと勉強はしてますし。毎日。」

「で、県立大学への手応えはどれくらいだ?」

「うーん・・・確実じゃないですけど、戦い切る自信はありますよ。」

「そっか・・・素晴らしいな。」

「てか、この話・・・教頭のさしがねです?」

「ハハ!いいや、違うよ。」

「じゃあ、海原先生です?」

「大正解!!」

「普通・・・担任に確認させるもんでしょ。」

「まぁな、でも、お前は担任相手にも(かたく)なな態度をとってるって言うのはバレバレだし、俺なら何か引き出せるって思ったんだろ。」

「無茶苦茶ですよ。そんなの。」

「大人には大人の事情があるのさ。大体、海原先生はお前がもっと上を目指せるって思ってるしな。」

「それも、知ってます。」

「国立大学には、行く気が無いのか?」

「行く気が無い・・・ていうのとは違いますね。」

「というと?」

「このまま国立を目指しても、不可能じゃないとは思いますよ。」

「凄いねぇ。大した自信だ!」

「ただ、そういう発想って・・・。」

「???」


「そういう発想って、フォワード向きじゃないですか?」

「?????」


「国立を狙って、そのためだけに全力を尽くそうとする。それも良いですけど、俺ってそういう全力の出し方、出来ないんですよね。」

「できない?」

「俺って、昔からディフェンダー一筋だったし、ディフェンダーって目の前の仕事に常に全力を尽くすのが真骨頂でしょ?国立っていうゴール一つの目標にひた走るってやり方、俺は多分出来ないと思うんですよね。」

「なるほどな。」

木村と同じくディフェンダー一筋であり、その精神で県立大学を受験した美津田には、木村の持論に何故かしっくりくるものがあった。しかし納得している監督に対して、木村は意外な発想を打ち出す。


「だから・・・ですかね?」

「ん?」

「こういう考え方だから、俺は【劣る】んですかね?」

「・・・何にだ?」

「何にかじゃ有りません。誰にかです。」

「??????」

「監督、教えて欲しいことがあります。」

「何だ突然??」

「俺があなたに劣っている点ですよ!」

「俺に!?」

「レオは・・・レオ・ポンシオは、いっつも俺に言ってました!」

大剛戦の時にも記したが、木村は少年時代の恩師であり元Jリーガーであったレオ・ポンシオに、よくこう言われていた。

「キムラ、オマエハモウジュウブンニツヨイ。デモ、イマノオマエデハ、ミツダニハカナワナイ。」と。


木村はその言葉の真意を、自分と引き合いに出された美津田本人から聞き出そうとしていたのである。

プライドの高い木村にとってそれは、白旗を挙げるのに等しいものだった。


「・・・なるほどな。レオにそう言われていたのか。」

「えぇ・・・でも、未だにあなたと俺の違いがわかりません!もしかして、受験にこういう向き合い方なのが、劣る点だってことなんでしょうか!?」



「いや・・・違うと思うぞ。」

「???」


「木村、お前はな。単純な守備力だけで言うなら、もうお俺を凌駕(りょうが)している。」

「え!!?だって、レオはいっつも・・・。」

「レオがそう言ったのはな。奴が責任を感じてたのも有るんだろうな。」

「??????」

「お前は常にアタッカーのレオと1対1の勝負をして、その駆け引きにおける重要な事全てを学んできたんだろ?」

「えぇ・・・そうです。」

「俺は逆なんだよ。」

「はぃ?????」

「俺はレオの兄貴のガブリエルからあらゆる守備の知識を体と頭に叩き込まれた。その結果、俺はお前よりもサッカーにおける対人能力は低いと思う。」

「じゃあ・・・何が劣ってるって言うんです!???」


「【諦めの良さ】・・・だろうな。」


「あきらめ!?」


「いい機会だ。昨日伝えてやろうと思ってたことを、この場で伝えてやる。」

「???」

「ここで相手に絶対に抜かれちゃいけないって考えが、お前は先行し過ぎてるんだと思うんだ。」

「それは・・・いけないことですか?」

「概ねはそれでいいんだよ。だが、時には違う。」

「???」

「あえて相手のドリブルを許すことで、周囲のカバーリングで包囲するって方法もサッカーにおいて一つの戦略だ。でもな、木村。お前のサッカーには、その選択肢が全く無いんだよ。」

美津田の指摘は正解だった。常に目の前の相手からボールを奪おうとする木村の守備は狡猾で素晴らしいが、その際には決して味方のフォローを求め無いのが事実である。

木村はショックのあまり黙り込んでしまう。

「恐らく、お前がそういう戦い方になったのは、あの負けず嫌いのレオと昼夜問わずにマッチアップし続けたからだろう。お陰で対人能力は抜きん出たが、周りを使う守備が全く出来なくなってしまったんだよ。お前をそういう選手にしてしまった罪悪感から、レオはそんな言い方をしたんだと思う。」


「・・・ど・・・ば・・・すか?」


「ん?」


「俺は・・・どう・・・すれば・・・いいんですか?」


「簡単だ。意識を変えればいい。周りに頼ればいいんだよ。」

「それ・・・だけ?」

「そうだ。お前には幸運なことが2つある。」

「??????」

「一つ目は、意識さえ変えられれば、簡単に俺を超えられるという事実。二つ目は・・・。」

「ふたつめは?」

「頼れるだけの選手が周りにいるってことだ。」

「!!!」


「後で全員に言うが、鈴木が国体の代表に選ばれた。」

「え!!!!!!!!!」


「いい相棒がいるんだ。もっと伸び伸びとサッカーしろや。」


予想では、もっと厳しく叱責されたり、罵倒されるだろうと考えていた。だが美津田からのアドバイスが、予想と大きく違っていたことで、木村は脱力感に打ちのめされている。そんな彼に待った無しの問いを、美津田はぶつける。


「ところで木村?」

「なん・・・です?」

「受験は、結局どうする?」

「いや・・・やっぱり、っていうか尚更、県立一本に決まりましたね。」

「そうか。じゃあ、頑張れよ。模試。」

「模試?」

「そうだ。お前が部活続けながら県立を志望し続けるなら、次の模試の成績がターニングポイントになるらしいからな。」

「ターニング・・・ポイント?」

「あぁ、模試で良い成績出せなかったら、俺も海原先生からお前を守りきれないから。」

「・・・決めた。」

「??何をだ??」

「家での勉強時間、増やします!」

「そうか。でも、出来れば6時間は睡眠取れよ。」

「それは経験者としての意見ですか?」

「まさしく!」


木村は間髪入れず即答した美津田に、思わず吹き出し笑いをする。

考えてみればこれは、彼が監督の前で初めて笑顔を見せた瞬間でもあった。





『次は中林を呼んでくれ。』

そう美津田に頼まれてグランドに戻った木村は驚きを隠せない。

現国巻対OBチームの戦いで、スコアボードが大きく変化していたからである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。