第79話 おねがいジャーナル
インターハイ予選を終えた国巻の戦士たちは、監督を含めてミーティングをしていた。
「ベスト4を目指すなら、これから更に頑張らねぇとな。」
「確かに。でも・・・具体的にどうする?」
「やっぱりオレらってまだ技術も体力も伴ってないだろ?ベスト4入には。」
「そうだな。」
「でも・・・どうやる?」
「どうやるって・・・何のことだ?竹下。」
「体力も技術も簡単には身に付かないだろ?体力と技術の両方をバランスよく付けるのと、どっちかを極端に身につけるのと、どっちがいいだろうな?」
「・・・難しいな。監督・・・どう思います?」
「俺に意見を求めるのかよ。」
「だって・・・難しい決断ですし・・・。」
「だからこそ、お前たちが決めるべきだろ。」
「・・・。」
「技術だけじゃ・・・無理だ。」
「どういうことだ?木村。」
訊ねたのは美津田。
「この前の大剛戦、あれが初めてでした。俺達がリードしても同点にされていったケースは。」
「そうだな。」
「試合が終わってから考えたんです。何が足りなくて負けたのか。」
「それで?」
「俺たちに足りなかったのは・・・【メンタル】です。」
「言えてるな。」
「勝ちきれなかった。それは勿論オレが一番ダメだったっていうのも有るし、他にも理由はあります。でも、誰か個人の問題ってだけじゃない気がするんです。」
「確かに。」
賛同したのは久保だった。木村は更に話す。
「技術と体力、そのどちらかを優先させるなら、俺はメンタルも培える体力を強化すべきだと思う。」
皆も納得の結論だった。
かくして国巻は、この夏の間に体力とメンタルの強化を図るプランを立てたのである。
それから数週間後、一人の青年が国巻に訪れる。
「美津田さんですか?お久しぶりです。この前連絡した【エル・プリメーラ】の澤野内です。本日はよろしくお願いします。」
「いやいや、わざわざどうも。確か5年前に里崎さんのアシスタントだった方ですよね?こんな中途半端な敗戦に終わったチームの特集をして下さるなんて、お恥ずかしい。しかも、サッカー専門誌の方に来て頂けるなんて。」
「元々はやっぱり桜台東戦の後に来たかったんですが、新聞記者さんと一緒に取材すると専門誌の記者は煙たがられますので・・・。」
「ジャーナリストさんも色々大変なんですね。」
「いやいや。」頭をポリポリと澤野内は掻いた。
澤野内は早速グランドに行く。
国巻では最早十八番のボールを使わないミニゲームが行われていた。
「話には聞いてたけど・・・。本当にやってるんだ。」
「こんにちは!今日取材にいらっしゃった澤野内さんですよね?マネージャーの若宮です!今日は案内係を任されたんでよろしくお願いします!」
「あ、君だね。県内美人マネージャーランキング1位って子は。」
「うーん・・・。実感ないんですけど・・・らしいんですよね。まぁ、こちらへどうぞ。部室とかは向こうですので。」
「いや、この練習を見たい。」
「え?」
「サッキ以来だろう。この練習方法を使って成功した監督なんて。」
「さっき?」
「君は知らないのかい?アリゴ・サッキを。」
「・・・全く知りません。」
「そっ・・・か。」
澤野内はそう言うと、練習に見入っていく。
すると練習中ながら、この青年記者に走り寄る選手がいた。大下である。
「あなたが澤野内さんですか?」
「あぁ。そうだけど。・・・君は?」
「あなたに・・・どうしても頼みたいことが有ります!」
大下がそう頼み込んだ瞬間、別の場所ではインターハイ県予選決勝の時間終了の笛が鳴る。
花野江高校対大剛高校の決勝は、3-0で花野江が勝利したのだった。




