第73話 しゃべくり〇〇
「うぉー!デバじゃん!こんな所でコッソリ観てたのかよ。国巻に負けるとかマジでダッセーよな!まーけ犬!まーけ犬!」
「来てたのか・・・てか殺すぞ。高橋。」
「うわぁ!キレてんの!?さらにダッセェな!」
国巻が2点目を取った瞬間、観客席にて花野江高校の高橋が、同じUー15日本代表メンバーである桜台東の出羽を見つける。
共に【天才】と呼ばれる2人の関係ほど、表現しづらいものは中々存在しない。彼らは時には同胞であり、時にはライバルであり、時には宿敵にもなり得る。ただ、唯一共通していることと言えば、二人共【選ばれし者】だということ。天性のドリブルスキルと加速力を持つ高橋と、極めて高いボールコントロールと他人の意識するスペースを可視化できる出羽は、甲乙付けがたい傑作同士である。それは互いが極めて高い技量を持っていることで、容易に相手を認める要素にもなった。
高橋の憎まれ口はいつものことである。普段なら聞き流す出羽も、悔しいと感じた国巻からの敗戦をつつかれたことで、今回ばかりは珍しく怒りを露わにした。
「お前があの試合に出てないから!んなことが簡単に言えるんだよ!」
「いやいや、俺らはお前らが戦う前に、国巻に勝ってるし。余裕で。」
「は?余裕?」
「なんだよ。」
「お前俺にあの日、プレ大会の日の夜、『ビビった!』ってメール送ってきただろうが!」
「そうだっけ?」
「ざせんなよ!見してやろっか!?履歴!!」
「うわー!天下の天才、クールが売りのデバさんがこんなにキレたの初めて見たわ。寒~~~!」
「この野郎!大体、お前がいっつも俺のこと出羽で無くて『デバ!デバ!』って言うから、知らない間に『ディーヴァ』ってニックネーム付けられたんだぞ!いい加減にしろよ!」
「え?あれ、オレが発祥なの?」
「当たり前だろ?他にデバなんて言う奴いねーに決まってんだろ!」
「マジで?・・・ところでさぁ?」
「はぁ?」
「ディーヴァって・・・何?」
試合はその後互いに決め手を欠き、国巻の1点リードで前半が終了する。
終了の笛が鳴ったと同時に、2点目を演出した竹下は、猛ダッシュでピッチから去っていった。
「なぁデバ?あの2点目作った国巻の奴、何慌ててんだろうな?」
「知らねー。まぁ、上手かったけどな。」
「はぁ?あんなん大したこと無いし。仲間を吊りに使ってとか小狡い方法やるから上手くいったんだろ?」
「でも、大剛のディフェンダー2人は結構やり手じゃん。」それはラファエルと秦原のこと。
「足したらな。」
「え?たしたら?」
「そう。あの5番は確かに上手いよ。スキルは高い。でも体格は並じゃん。」背番号5番は秦原のこと。
「んで、もう一人の3番は、クソデカいし速い。でも、そんなに守りのスキルは無いと思う。」背番号3番はラファエルのこと。
「2人のいいとこ取りなら、お前も認めるほどになるってことか?」
「別に認める訳じゃねぇよ。ただ、【面倒臭いって思うディフェンダー】には必ずなるな。」
「そんなこと言ったら、国巻の3番はどうだったよ?」
「どうって?」
「あの3番はチョットは面倒くさかったんじゃねぇの?」
「いいや。違う。」
「え?」
「ちょっとじゃない。クソ面倒臭かった!!」
国巻の背番号3番とは、木村のことだった。
「マジで!?お前がそこまで??」
「いや、お前もやってみてわかっただろ?アイツは本気でムカつくよ。何でか全部フェイント読まれるかんな。最後はビューン連発したし。」
「ビューンって・・・まさか。お前が・・・全力ダッシュ使ったのか!?」
「国巻戦はほとんどそうした。」
「え!?お前がマジで走るのって滅多にないじゃん!」
「負けたお前ならわかるだろ!?あの国巻の3番がどんだけ止めるか!」
それは出羽も同意できた。それだけ木村の守備能力は高かったのだ。
しかし出羽は語る。
「でもさぁ。凄いよな。」
「あぁ?なんだよ?」
「あの3番よりすごい奴がいたって所が国巻の凄い所だよな。」
「な!!オレがメールした通りだったろ!?」
「だな。完璧にやられたよ。大したこと無いって思ってたんだけどな。」
「俺も俺も!!てか並みの奴より弱いって思ってたのに、完璧アイツにやられたからな!」
「一緒だわ。ナメてたら逆に噛み殺されたし。」
「マジで凄かったよ!アイツの【セービング】!!!」
「ん!!??」
「・・・どした?」
「せーびんぐぅ!?」
「だから・・・なんだよ??」
「高橋・・・お前・・・誰のこと言ってんの!?今、国巻の話ししてんだぞ!?」
「わかってるよ!だから!あの国巻の坂田ってゴールキーパーの話をしてんだろうが!」
「・・・お前が・・・。」
「はぁ?」
「お前がメールで凄いって言ってた選手って・・・【キーパー】なの??」
「当たり前じゃん。」
「トップ下じゃ無くて???」
「はぁ!?トップ下!??」
高橋から送られたメールには、「国巻には本気で凄い選手がいた」とだけ記されていた。出羽は国巻との試合後、高橋が言ってる選手は、トップ下で怪我をしてまで得点した須賀のことだと確信していた。
しかしそうでは無く、高橋の目に留まったのはキーパーだと言う事で、出羽は国巻の選手層の底知れないポテンシャルに驚愕してしまう。
そしてそれは、出羽が認める程の存在がフィールドプレーヤーにいたことを知った高橋も同じだった。
観客席にて天才同士が国巻談義をする最中、須賀の代りにトップ下で奮闘していた竹下が、大急ぎで会場内のトイレに駆け込もうとしている。
「やばい!オナラをメチャクチャしたい!でも・・・今オナラしたら・・・他のも出る!!!!!」
そんな竹下は個室トイレが満員になっているのを確認し、泣きそうになるのであった。




