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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
応答編(インターハイ)
69/207

第69話   ゾーン×ゾーン

須賀と小鳥遊は、それから部活での思い出話を楽しそうに話していた。

席を立ちたいが、未だにその言い訳を作りきれない坂田は、時々話に入ったり相槌を打つことでその場を乗り切るようにしていく。


「そう言やぁさ、須賀。お前なんでこんな大怪我したのにあんな無茶したわけ?」

「え?」

「だって全治2ヶ月の大怪我だろ?よく痛いの我慢して普通にプレーしたな。」

「いやぁ・・・その・・・。」

「何かしたのか?薬とかドーピング的な。」

「そういうんじゃねぇよ。ただ・・・。」

「ん?」

「何て言えばいいのかな?」

「は?」


2人の会話を聞いて、坂田は感付いた。怪我をした時、須賀には【何かが起こった】んだと。

そして、恐らくそれは自分も経験をしたことがあるものなのだと。

彼は須賀が答えやすいように、そしてわかりやすく質問するように考えた結果、短いながらも確信を衝いた言葉で質問する。



「須賀・・・お前、何か【した】んじゃなくて・・・何か【見た】のか?」


「え?」

坂田の問いに、小鳥遊は訳がわからないといった表情だが、須賀は違う。


「何で・・・わかったんだ?」

と、彼は聞き返したのである。



「やっぱり・・・。」坂田はタメ息をつく。


「どういうことだよ。お前ら、説明しろ。」

小鳥遊は突然置いてきぼりを食らった感じがし、少しイライラして質問する。



しばし間を置いて、坂田は口を開いた。

「花野江戦の時、俺はゾーン状態になったって美津田は言ってただろ?」


「あぁ。」


「あの時、見えたんだ。【白】が。」


「しろ?」


「そう。あの時、ピッチの中はちゃんと見えてんだけどな。ピッチの外側はボンヤリ白かったんだよ。」


「なんだそれ?」初耳の小鳥遊は開いた口が塞がらない。


「俺もよくわからない。でもゾーン状態の時って、そうなることが有るらしい。」





須賀は下を向きながら坂田の話を聞いていた。しかし、話が終わったのに気付くと、顔を上げて桜台東での出来事を告白する。


「俺は・・・【赤】だった。」


「え?」


「坂田の言う通り、俺も見たんだよ。色を。でもあれが・・・そうか・・・アレがゾーンだったのか・・・。」彼は自分で話しながら納得するという珍しい行為を、淡々と噛み締めていく。


「お前も・・・禁止って言われた?」

「え?」

「『そのゾーンは禁止する』って、美津田に言われた?」

「坂田も・・・言われたのか。」


「ちょっと待てや!だって折角ゾーン出せたんだろ?何で美津田が禁止させるんだよ!あいつが一番ゾーンに興味あるはずじゃん!」


「花野江戦でオレがゾーンを出せたのは、精神を追い込んだから。・・・なんだって。」

「せいしんを?」

「そう。」


「坂田は・・・精神を追い込んだのか。」

「須賀・・・お前は何を追い込んだからって美津田に言われた?」


「・・・肉体だってさ。」


「肉体か・・・。」


「今朝、美津田が見舞いに来た時に言ってた。『お前があの時怪我しても平気で走れたのはゾーンのお陰だ』って。そんで『肉体を300%くらい追い込んだから出せたんだ』とも言ってた。」


「300%!?どういう計算から出た数字だよ!」小鳥遊が突っ込むが、もうそれに構う余裕は残りの二人には無い。


「俺たち・・・相当無茶したってことかな。」

「そうだね。」少し悲しげに呟く須賀に、坂田は優しく同意した。




「でもね・・・須賀。他に方法はあるらしいよ。」

「他に?」

「そう。美津田に禁止って言われた後、俺は言われたんだ。『他の方法でもゾーンは引き出せる』って。」

「そうなの!?」

「聞いてないの?」

「あぁ。」

「ゾーンっていうのはね、幾つも引き出しが・・・」




小鳥遊はこの2人の談義を聞きながら理解した。昼間の美津田の言葉の意味を。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「監督。」

「どうした?小鳥遊。」

「お願いがあるんです。」

「ん?」

「須賀の見舞い、行ってやりたいんですけど。」

「あぁ。いいよ。」


あまりにあっさり承諾されたので、小鳥遊はいささか拍子抜けする。


「ありがとうございます!じゃあ、夕方にでも行ってきます!」


「待ちなさい。」


「はい?」


「すでに坂田と柿崎に頼んである。行きたいんだったら柿崎と替わって見舞いに行け。」


「・・・柿崎と替わって?」


「そう。柿崎は行かなくても大丈夫だが、絶対に【坂田は連れて行く】ように。それが絶対条件。」


「坂田を?なんで?」


「オレが全部話すより、坂田から話を聞く方が、須賀は受け止められる。」


「?????」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





坂田を見舞いに行かせたのは、この話をさせるためだったんだ!ゾーンの経験した者同士で意見交換させるために!





小鳥遊は須賀達のゾーン体験という異次元の話以上に、美津田の明晰すぎる頭脳に感服していた。





「そうか・・・ゾーンっていうのは色んな入口があるのか。」

「そ。だから無理に追い込み型のゾーンばっかり出さないようにして、もっと負担のないゾーンを見つけるのが良いらしんだ。」

「そっかぁ。」



数秒間3人が黙ったあと、須賀は告白する。


「夢・・・見るんだ。」

「ゆめ?」

「うん。中学の時から見てる夢。」

「・・・どんなの?」

「三川ユナイテッドにいた時の夢でさ。シュートも他の奴が打ったほうが入るし、ドリブルも他の奴の方が上手いから、とにかくボールとったらアシストしようとするって夢。」

「それって・・・。」

「そう。半分正夢。でもそれ、沼の中でやるんだよ。」

「・・・。」

「すんごいドロドロの泥の中で。」

「そっか・・・。」

「ああいう日々に戻らないようにって、夢が教えてくれてるのかもなぁ。」



「見なくなったらいいな。」

「え?」

小鳥遊の言葉に、二人は唖然とする。


「そんなつまらない夢。イチイチ見なくなる位のサッカー・・・していきたいな。」


「・・・かな。」










坂田達が病室を出て、須賀はまた夜、夢を見た。


やはり沼地の中でサッカーをしているが、今までと少し違う。

沼が浅くなり、聞き覚えのある声が至る所から響いてくる。

「打て!」「シュートだ!」「自分で決めちまえ!」

それらの言葉に従い、彼はシュートを放つと、見事にゴールネットを揺らす。

彼は国巻の仲間たちに激励されながら足元を見ると、そこには緑のピッチが広がっていた。

続いて彼は空を見上げる。そこには一筋の光がさしているが、須賀の伸ばした手は上空では無く、仲間の手に向かっていた。

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