第64話 最高点とは何だろう・・・天才、憤りの授業
「何で・・・負けたの?」
天才出羽の口から出た言葉は、憤りや不満の類いではなかった。
それは純粋な疑問。
純粋な敗因を探すため。
誰に勧められた訳でもなく、誰に咎められた訳でもなく、彼は無意識の内にその答えを敵の指導者に求めていった。
「出羽くん。君は今日の最高点は誰だと思う?」
「最高点?」
「そう。イタリアやドイツでは新聞で選手の採点をよくするだろ?今日の最高点は誰だったと思う?」
「・・・。」
「わからないんだろ?」
「・・・。」
「もしくは自分だと思ってるんだろ?」
「・・・はい。」
「私が新聞記者なら、今日の最高点は須賀って子にする。今日点を取った選手さ。」
「彼が?・・・点を取ったからですか?」
「いいや。点を取ったのが他の選手でも、私は須賀を最高点にする。」
「???」
「話を少し変えてみよう。君がとても高かった点数のジャンルってなんだと思う?」
「ジャンル?」
「出羽くん、君の優秀なプレーっていうのはね。【芸術点】なんだよ。」
「!?」
「冬季オリンピックの競技なんかでは多いね。芸術点を競う競技は。」
「・・・。」
「でも残念ながら、きみがどんなにミスのないプレーをしようと、君がどんなに正確にパスをしようと、サッカーに芸術点は必要ないんだよ。」
「・・・そん・・・な。」
「厳しいかもしれないけど、ごめんね。その点、須賀は最高点をあげたいのさ。」
「何で・・・ですか?」
「アイツは個人を美化することを捨てたから。」
「???」
「芸術点では、彼は最低点だろう。あのゴールシーンを除けば。ただ、彼がピッチを去った後も、残りの10人が走りきって守りきれたのは、それまで彼が他の選手の分まで走ってたからだと私は思う。」
「・・・。」
「どんなに上手く確実にプレーするかじゃない。『彼がいなければこの結果にはなっていなかった』っていう選手が最高点になれるんだ。」
「・・・・・・。」
「実際君も、最後の10分間は、それまでの1時間に比べたらもの凄いいいプレーをしてたよ。」
「・・・初めて見えたんです。」
「見えた?」
「はい。・・・赤が。」
「あか?」
「あの・・・須賀って人から赤色が見えたんです。一瞬。その後から・・・オレンジも見え出して・・・。」
出羽はここまで話すと【シナスタジア】の能力や自分の奥義を明るみにしてはいけないと口を閉じる。
「そうか・・・君は【見る】力があるのか。」
「はい。・・・詳しくは言えないですけど。」
「羨ましい。」
「え?」
「私は【見る】力は持っていない。」
「そう・・・ですか。」
「【出した】ことしかないんだ。」
「色を?」
「あぁ。一度。」
「何色だったんです?」
「それが・・・思い出せないんだ。」
「??」
「俺が監督になったのは、その色を思い出すためなのかも知れん。」
「・・・そうですか。」
「とにかく、出羽くん。」
「はい?」
「チームを動かすだけの選手になるな。君は試合も動かす選手になれ。」
「・・・。」
「・・・納得いかないかい?」
「逆です。」
「ん?」
「オレ、こんなに大人からの説教をマトモに聞いたの初めてかも知れません。」
「ほうほう。」
「今日からオレ、めちゃめちゃ変えます。自分を。」
「なんで?」
「今日の負けは、今までで一番悔しいくらいですから。」
「そんなに?」
「はい。去年代表戦で韓国に負けた時よりも悔しかったですから。っていうか。本気で悔しいの初めてかも知れませんから。」
「そうか。」
「はい。すんげー上手くいってて、それでオレがなめてた選手にやられて、散々説教されて・・・ここまで悔しいのは・・・。」
はじめは疑問だけだった天才は、話せば話すほど悔しさがこみ上げてきて終いには話しながら唇を噛み締めていた。
「大丈夫さ。出羽くん。まずその悔しさを糧にすれば今後はだいぶ変わるはず。」
「今度戦う時は・・・。」
「ん?」
「今度国巻と戦う時は・・・絶対にボコボコにして勝ってやります!」
「うけて立つよ。」
淡々と返事した美津田の目を見つめると、出羽は軽くお辞儀をしてチームメイトの下へ走っていく。
彼はうな垂れる仲間たちの下へ向かいながらこう呟いた。
「あの監督・・・。美津田だっけ。あの男がウチの監・・・いや。いまさら。」
「是非、変わって欲しいものだ。」美津田の言葉に若宮が食いついた。
「出羽くんのことです?」
「そう。勿体無いよ。」
「え?」
「彼なら・・・世界レベルのフォワードにもなれるだろうに。」
「そこまでなんですか!?」
「彼は・・・【見える】らしいからな。」
「え?」
「せめて世界最高のレジスタになってもらいたいな。」
「れじすた?」
「・・・。」
激戦を指示し続けた監督に、もはやサッカー用語の講義を行う気力は残っていなかった。




