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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
応答編(インターハイ)
59/207

第59話   赤の覚醒

激痛に襲われる息子の姿を見て、母の梓は「元気!!」と叫んだ。


元気とは須賀の下の名前のことである。



ピッチ上は未だ両陣営が入り乱れ、抗議と反論の応酬合戦となってしまっていた。


しかし、桜台東のホームグラウンドというアドバンテージのせいなのか、ワンマンの審判だったからなのかは判らないが、判定が覆ることは無い。


逆に猛抗議した久保にイエローカードが出されてしまう。


「ふざけんなよ!なんだよそれ!!」久保がさらに激高しようとした所で、望月と大下が抑えに入った。



「抗議は終わってからも出来るんだ!!わざわざ今これ以上はするな!!」

「でも!!!」

「みんなで作ったチャンスが本当に無駄になるぞ!!!まずは須賀の心配をしろよ!!!!」


この大下の言葉で久保は冷静さを取り戻すことが出来た。



「・・・そうだな。須賀は・・・大丈夫か?」


久保たちも須賀のそばに駆け寄っていく。







「監督!?交代誰かさせないんですか?オレだとしても、出るなら頑張りますから!」

今年からサッカーを始めた園崎に、監督美津田は表情を抑えつつも、少し大きめの声で言い放つ。


「園崎って・・・本当にサッカー知らないんだな。」


「え?」


「もう交代枠、使い切ってんだよ!!」


美津田の言う通り、中林と柿崎をチェンジしたことにより、交代枠の3人は使い切っていた。



「それじゃあ・・・。」

「須賀はもうダメだ。あからさまに足首をやられた。残りを・・・10人で戦うしか・・・。」


それ以上、美津田も口にすることが出来ないでいる。






「まずい!本当にまずい!!動かなくても痛い!!ムチャクチャ痛い!!!完璧にやられた!!足が!!!足が!!!!!」


左足首を押さえながら、須賀は絶望的な現状を認めたくないために無理に起き上がろうとするが、激痛と疲れでそれすら出来ないでいる。



「無理すんな!須賀!!ここは俺らがなんとかするから!!」望月がそう声をかけるものの、目は泳いでいる。



「不安なんだ!望月先輩でも。この状況で点が決まらなかったら絶望的だ!」

須賀は表情からそう読み取ると、歯を食いしばって再び起き上がろうとした。









「終わってもいい。この試合で。それでもいい!それでもいいから!あと10分だけ!!あと少しだけ!!!!!!動け!!!!!!!!!!!左足!!!!!!!!!!!!!!!!」







須賀が心の中でそう念じた瞬間。視界全体が少しだけ赤みの色に染まる。




さらに今まで経験したことの無い、強めながら不快感の少ない耳鳴りが始まった。





「なんだ?こ・・・れ。」





「キーン」という耳鳴りは止むことなく続き、どうしたらいいのかわからない須賀は


「なんなんだよ。この目と耳。」


と言いながら苛立ちを感じていた。しかし、先ほどまで息を切らしていた自分が、再びじょう舌に話せているのに気付く。




「あれ?普通に・・・喋れてる。



須賀は驚いた。



「ん?・・・しんどくない。」




突然疲労感の無くなった須賀はさらに気付いた。




「え?・・・・・・痛く・・・無い!」





先ほどまで襲っていた激痛が突然無くなり、1時間以上走り続けて空っぽになっていた体力も、何故か回復している。






「なんだ?これ。」



須賀は試しにゆっくりと立ち上がってみた。やはり痛みが無い。




「おい!須賀!!無茶すんな!!!」大下にそう注意されると、須賀は




「え?今、何て言いました?」と答えた。



「は?」大下を開いた口が塞がらない状態にした器用貧乏は続けて



「何か、耳鳴りが始まっちゃって。全然聞こえないんですよ。もうちょっと、大きな声で言ってくれますか?」



「は?大丈夫か!!!!お前!!!!!」



大下の大声を少しながら聞き取った須賀は、「あぁ。何か痛みが消えたんですよ。何でか判らないんですけど。」と言ってさらに「大丈夫です。」と口にした。



一番驚いていたのはスライディングをした張本人の木浦である。



「なんでだ?骨まではいかないまでも、確実にスジにダメージはあったはず。」須賀の足首の捻り具合をスパイク越しに確認したディフェンダーは、平然と歩き始めたこの青年に絶句していた。





「よかった。須賀君、大丈夫ですね。」

若宮の言葉に、美津田は少し口を開かせて


「そんなはずはない。」と言い放った。



「え?だって、普通に歩けてますよ。」



「ありえない。あの捻り方は、下手すると靱帯にも傷がついたはずだ。」



「じゃあ・・・なんで歩けてるんです?」



「まさか・・・いや。まさかそんな。」



「え?」


二人の会話に南部が入ってくる。


「監督、まさかこれも・・・【ZONE】なんですか?」


「いやまさか・・・だが・・・それ以外は、有り・・・得ない。」


「え!?すごい!!ゾーンの力で足を治したってこと!??」


「いや・・・そんなはずは・・・。」


美津田はそれ以上の言葉が見つけられない。






「大丈夫か!?須賀!!何か手ぇ!震えてるぞ!!!」


「え?なんです?手?あ、これですか。なんかさっきから震えてるんですけど。何でしょうね。大丈夫ですよ。なんか痛みも消えたし。」







【アドレナリン】という神経伝達物質が存在する。これは生物が何らかの状況で追い込まれた際に分泌されることがある。作用されるものとしては、急な血液の循環や瞳孔散大、そして痛覚の麻痺が確認されている。




すなわち、須賀はゾーン状態によって足を回復させたのではなく。ゾーン状態によってただ全身の感覚を麻痺させただけなのである。足首の怪我は存在したままなのだ。




望月がフリーキックを蹴ろうとする最中、美津田は「まさか!」と気付いて須賀を呼び寄せようとする。



しかし、ゾーン状態の副作用で耳鳴りの止まない彼に、監督の怒号が聞こえることは無かった。

ZONEについて詳しくは、34話にて説明してありますので、今話からご覧になった方は、そちらも読んでください。

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