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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
応答編(インターハイ)
50/207

第49話   秘密の大半って知らないほうがいいよね

「やはりちゃんと来ていたな。」

「今日は6月13日なんでね。」

「だよな。・・・そう言えば、鉢合わせたのは初めてだな。」

「ですね。」

大下は淡々と話す木村と美津田の姿に混乱していた。


「なに?どゆこと?美津田監督も、この人が師匠だったってこと?じゃあ、二人って知り合いだったんじゃん!」


「いや、違う。」


美津田ははっきりと切り捨てて話し出した。



「俺はレオから教わったことはない。・・・兄の方から教わった。」

「兄さんから?」

木村が割って入る。

「レオには兄さんがいたって言ったろ?Jリーガーの。」

「うん。」

「俺は小さい頃から、弟のレオから教わった。そして監督は兄貴から教わってたんだ。」

「木村の言うとおりだ。俺は兄のガブリエルから教わったんだよ。」

「・・・。」

大下はぐうの音も出ない。


「弟のレオは木村の家の近所に住んでいた。そして兄のガブリエルは私の近所に住んでいたんだ。私は幼い頃からディフェンダーだったガブリエルに守備のいろはを体と頭で教わった。同じ頃、木村はフォワードだった弟のレオと幾度と無くマッチアップし、体で尋常でないほどの守備スキルを培ったって訳だ。」

「そうだったんだ・・・。なんで2人とも今まで黙ってたんです?こんなことを・・・。」

「確信が持てなかったからさ。」

「確信?」木村の言葉の真意を理解できない大下は聞き返した。

「この兄弟が消えるまで、俺らはお互いに会ったことは無かった。」

「そう。だが話には聞いていた。ガブリエルは言ってたよ。『弟の近所に面白い奴が住んでるらしい』と。」

「俺も嫌と言うほどレオから聞かされました。『兄貴の弟子の美津田って奴は天才だった』って。」

「そう言うことだ。面識は無かったが、お互いに話は聞いていた。師匠伝いにね。」


「だから俺は、お前と一緒に国巻戦を観に行っただろ?」

確かに、大下は木村に誘われて黄金時代の国巻を観戦したことがある。


「あれは国巻を観に行ったんじゃなかったんだ。レオから美津田監督が国巻に入学したって聞いてたから行ったんだ。」

「そう・・・だったんだ。」

大下が驚いていると、

「ほう・・・。そうだったのか。」と美津田も驚いた。


「私の方は確信が持てるまでに、少し時間が掛かったよ。初めてお前に会った時も半信半疑だった。『レオの弟子は5つ年下の木村』って言うのしか聞いてなかったから偶然の一致かもしれないってな。木村って苗字は多いし。だが、プレーを通してすぐに気付いた。お前の南米流の守備を観て。」


先日大下は、マネージャーの若宮から『木村先輩の守備は、南米向きらしいと監督が言ってた』と聞かされていたので合点がいった。






その後大下と木村は美津田と軽く話をすると、教会を後にしていく。


「大下、驚いたか?これが俺の秘密だ。ちょうど今日なら監督と鉢合わせ出来ると思ってたけど、予想通りになったぜ。」

「だな。」

「・・・なんで鉢合わせると思ったの?」

二人の同意に、大下はついていけず質問する。


「今日なんだよ、レオとガブリエルが消えたのは。5年前の6月13日。だから監督もここに来ると思ってた。」

「そうだったんだ・・・。」



しばしの沈黙の後、木村がつぶやいた。




「俺はレオみたいにはなりたくない。」



「え!?」


「死んだらサッカーが出来ない。勝つことも負けることも出来ないんだ。そんなのつまんねぇよ。」

「・・・かな?」

「俺はガブリエルに会ったことは無い。でも、レオは美津田に会ったことがある。何度か。」

「そうなんだ。」

「いっつもベタ褒めだったよ。美津田のこと。でもお前と一緒に5年前に観戦した時、そこまで凄いって感じなかった。」

「へぇー。」


「絶対俺は美津田より上だ。」


「そっ・・・か。」


「美津田が勝ったんだ。俺も勝てる。」


「え?」


「感謝してんだよ、大下。お前のクジ運のお陰で、5年前の美津田のように桜台東戦が視野に入ってきた。俺がアイツより上だって証明するチャンスをくれた。だから感謝してる。」


「そうか・・・なら・・・何よりだよ。」


そう口で言いながら大下は、心の中で「それはオレのための言葉ではなくて・・・。」とつぶやくしか無かった。


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