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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
集合編
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24/207

第23話   その男等、規格外につき

今回長いです。すいません。

追いついた国巻サッカー部の士気は急上昇している。


圧倒的ポゼッションを誇った大剛に対し、カウンターでない得点は大きな要因だった。ヘタクソだった大下の個人技と連携による繋いだ1点は、地道な成長を感じさせるものだった。


「竹下!交代だ!!」スタミナに余力のある竹下だったが、アシストを決めたことで交代させられても満足気な表情をみせていた。


「あそこで頭でアシストか。」

高井と交代しながら控え組の元へ向かう少年に対して、美津田は軽くボヤいた。


「点も決められたかもしれませんけどね。」非難されていると感じて言い訳すると、

「いや、渋い!」

と評価が返ってきたので安心する。


「お前はまだ使えるが、流れを変えたい。すまんがアシストを決めたイメージだけ頭に残しておいてくれ。」


ワンマンの監督から「すまん」という言葉を聴けただけで、竹下は満足そうだった。




高井は意気揚々とピッチに入った。

「このチームって、本当に凄いのかも。」

そう思いながら右WGで入ると、執拗にボールを追いかけていく。


高井を避わして鵜飼にボールが渡ると、彼はゴールに向かってドリブルを始めた。


「パスだけじゃないさ」


そう思いながらドリブルでゴールエリアに向かおうとすると、横から木村の足が出てきた。

故意を感じさせないスマートなプレスだった。


つまずいて転んだ鵜飼はFKを得るが距離はまだ遠く、ゴールマウスを狙ったセットプレーはGKの坂井にキャッチされてしまう。



「あの3番・・・本当に高校生?」岡山は少し困惑しながらつぶやく。

国巻の3番は、木村のことである。






この頃、校舎側から一人の男性がグランドに向かっていた。


30代半ばのひげ面の男は、スタスタと訪れると、岡山の隣に現れて「どうも」と言った。



「あれ?どこからかぎつけたんです?」

「僕の情報網は中々のものですよ。」そう岡山の問いに答えながら、男は隣に座った。




「ん?監督?なんか岡山監督の隣にオジさんがやってきたんですけど。」

マネージャー若宮の言葉に岡山の方を見ると、美津田は苦笑いを浮かべた。



「お前、今の言葉聞かれてたらヤバいぞ。」

「なんでです?」

「あの人は新聞屋だぞ。」



岡山のもとに駆け寄ったのは地元新聞記者の里崎だった。


彼は5年前の国巻高校の可能性を見出し「奇跡のイレブン」という当時のネーミングを生み出した張本人である。


岡山の采配に興味を示し、国巻を退職した後も彼を追いかけていた。インタビューされたことは無かったが、美津田も彼の顔は当時よく見ていた。




「因縁の師弟対決ってタイトルだけでヨダレが出そうですよ。」

「やめてくださいよ。それに、向こうの方が原石だらけですよ。」

「え!?本当に?」

「はい。現に同点にされて押されそうですから。」

「まさか・・・。」


岡山から指摘された里崎は、1-1というスコアと強引なまでのゾーンプレスを敢行する国巻高校をみながら

「へぇ~。美津田君って地味だったけど、大胆なことしますね。」

とだけ口にした。


「地味かどうかじゃないですよ。彼は中々の武道派ですから。」


そう言いながら美津田を見つめるが、美津田は岡山の視線を気にせず、ピッチ上の11人に指示を送っていた。


「なるほどね!真の守備派VS真の攻撃派・・・これもネタになるな~。」

「やめてくださいってば。」



岡山たちが対談する中、若宮は屈託の無い質問を美津田にぶつけた。


「サッカーって不思議ですね。」

「何がだ?」

「だって向こうの方が人数かけて攻撃してるしほとんどボールを持ってるのに、攻めてるのはウチの気がしますよ。」

「そりゃ、間違ってないよ。」

「なんでです?」

「攻撃は最大の防御っていうだろ?岡山監督はボールを高い率で保持することで、失点する可能性を下げてるんだ。サッカーには制限時間があるからな。自分らがボールを持ってりゃ攻められない。対してこっちは防御は最大の攻撃っていうのがポリシーだ。激しいプレスでボールを奪ったらすぐにチャンスに繋げようとする。うちの選手達はただ守ってるんじゃない。攻撃するために守ってるんだ。攻めているように見えるのは、闘志の違いさ。」


「へぇ~。じゃあ、なんか損ですね。」

「何がだ?」

「いや、大剛のサッカーが・・・。」



「お前も少しはわかるようになってきたな。」


その言葉を始めは皮肉だと思った若宮だが、美津田の感心した表情をみて素直な感想なんだと気付いた。




鵜飼は再びボールを持つと、鈴木の裏を狙った味方MFの杉本にスルーパスを送る。

見事に裏を衝いたが、これはカバーリングに入っていた小鳥遊がクリアした。


「すいません!」

「いいから、集中しとけ。」

つい最近まで幽霊部員とは思えない小鳥遊の覇気は、鈴木にとって尊敬すら感じさせるものだった。



素早いスローイングを受けた大剛FW田口は間髪入れず、低い弾道のクロスを上げた。しかし、味方に渡る手前で木村はカットした。そばにいる松田にパスを出す。松田は簡単に秦原にボールを奪われてしまうが、木村が素早く奪い返した。



「あの3番・・・高校レベルじゃないですよ。」

少し呆れ気味に岡山は里崎に言った。

「今のは上手かったけど、そこまで褒める必要あります?」

「いや、試合中終始あのクオリティなんですよ。熟練のCB並の判断力ですよ。何シーン先までイメージしてるかわかんないですって。」


「気になるんです?」

「えぇ。」

「欲しいんですか?」

「・・・いや、それとは違います。むしろ・・・」

「思い出してるんです?」

「まぁ・・・その・・・」


「かつての教え子と重ねてるって訳ですね。岡山さんはずっと言ってましたもんね。『うちの柱は滝沢でなくて美津田だ』って。」


「あれだけ言って、一度も記事にしてくれませんでしたけどね。」

「あなたがそれを言い始めた時には、もう滝沢フィーバーが過熱してましたから。」

「都合のいい人だ。」

そこまで言うと、岡山はタメ息をついた。






木村はすかさず望月にパスする。


ラファエル佐々岡を引き付けるために左サイドに寄っていた久保を確認すると、一度久保にパスを出すふりをしてから右の高井にロングパスを放る。


必死に練習し続けたトップスピードでのトラップは及第点をつけられることも出来ないほどの出来だったが、1バックシステムの大剛守備陣には効果的だった。

キーパーはギリギリ飛び出せない。小さい俊足者の打ち出す圧巻のスピードは、「出たらやられる」という意識を大いに植え付けるものだった。



ドリブルをする高井は左から猛スピードで迫ってくるラファエルを確認しながら、中央右寄りに走りこむ。


「これも、すんごい練習したもんね!」

そう心の中で言いながら、高井はキーパーとラファエルを引き付けて、左から全速力で走りこんできた久保にパスを出す。

少し後ろになりすぎたパスだったが、練習時からよくこうなっていたイメージを久保は逃さず、ゴール前で減速していたため、ボールをジャストミートできた。


2-1


逆転に成功



すかさず美津田は久保を片部と交代させる。

前半からチェイシングしていた久保のスタミナは確かに限界間近だった。



「光ったな」

「何がです?」美津田からの激励の意味が、このストライカーには理解できず聞き返した。


「存在感に決まってるだろうが、点取り屋。今日の試合ゴール率100%だぞ。」

呆れ気味に言われた久保は、このゴールが本日最初のシュートだということにやっと気がついた。


今までシュートを外し続けていた日々の少年にとって、この決定力は実感が沸かないものだった。しかし、高揚感はジワジワと全身を包んでくれていった。





あれほど美津田の言動を茶化そうとしていた望月明那の兄望月薫も、もう試合に見入っている。


大剛高校はパスを回すが、今までより迫力が無い。


戦意を失っての事ではない。リベロの秦原が、ラファエルに近い位置まで下がっていったからだ。



「おーい!ビビっちゃだめだよ!」岡山の激が飛ぶが、秦原は逆転されたことから上がれなくなっていた。



「こっちの大黒柱は・・・いらない所が似てるよなぁ。」


「誰とです?」

「わかってるんでしょ?」

イラつき気味に里崎に聞き返すと、岡山は秦原に上がるよう再度指示を出した。


「美津田は危ない時に下がってたんです。『ダメだ』って何度も言ったけど、そう言う時はほとんど彼が正しかった。」



岡山が国巻の監督時代、美津田は今の秦原のポジションだったのだ。







ボールを奪った松田がダブルタッチで相手を避わすが、ボールが足元から大き目に離れてしまう。

取られまいと必死に追いかけると、上がっていた鈴木に左足を伸ばして何とか渡した。


鈴木は強めのグランダーパスを望月に送る。望月は秦原にギリギリ触れられないコースに低めのロングパスを出した。


ハイボールよりも処理しやすいボールを高井は受け取ると、トップスピードでゴールに迫る。ラファエルの激走を左半身から感じながらも再び中央右寄りに迫り、左の片部にパスを出す。久保より足の遅い片部には、意図的に後ろ目のパスを出した。しかし、これは予想していたラファエルの長い足が間一髪でカットする。


片部は悔しがったが、諦めていない男がこの時2人いた。



1人目は須賀である。


二人のカウンターに追いつこうと必死に走り続けた彼は、ラファエルのカットしたボールに追いつき豪快にシュートする。しかし、これはキーパーに弾かれてしまった。


しかし、諦めていない男はもう1人いた。


それは高井である。


キーパーの弾いたボールをダイブしながらヘッドで叩き込むと、ネットを揺らした。



「オフサイドは!?」

秦原が叫びながら岡山を見つめるが、指揮官は首を左右に振った。


須賀がシュートする前に、高井はラファエルの位置を確認し、DFライン手前に戻っていたのである。


先日の滝沢との試合が活かされた。



3-1




残り時間は5分程度である。



大逆転の試合を見つめる岡山に、いやらしく里崎は投げかけた。

「・・・本当に原石だらけですねぇ。」

「でしょ?ここまできたらもう・・・。」

「楽しみなくらいに?」

「そんなこと・・・僕は・・・。」


「ハハハ・・・。さてさて、私はここらで御暇(おいとま)させてもらいましょうかね。」

「失礼な人ですね。途中から来て最後まで見ないなんて。」

「『師弟対決は弟子の大勝』なんて、ドラマすぎてネタに出来ませんもん。でも、収穫は一杯ありましたから満足してますよ。それでは、また。」

「本当に失礼な人だ。」

「新聞屋なんて、みんなそんなもんですって。頑張って下さいね。片思い。」


そこまで言って、里崎はグランドをあとにしていった。



残り時間を考え、鵜飼は何度もスルーパスを出す。しかし、これは木村と小鳥遊に(ことごと)くクリアされた。



遅攻を十八番にする大剛にとって鵜飼のスルーパスを防がれることは、速攻の望みを詰まれたに等しい。



再び鵜飼のパスをカットした木村が鈴木にボールを預けると、彼は左足で高い弾道のボールを出した。


そして笛が鳴る。




試合終了。





美津田監督擁する国巻高校サッカー部の初勝利。





相手への敬意を込めてはしゃぎはしなかったが、選手達は軽く抱き合って喜んだ。





その歓喜の輪に、鈴木は入っていなかった。


「ほ・・・本当に・・・勝てた!!!」


中学時代無勝の献身者は、感動の余り地面に着けた両膝を全く動かすことが出来なかったのだ。


「おめでとう。」

鈴木に駆け寄った坂田が労いの言葉をかけた。


「お・・・お・・・おめでとうございました!」

「え??おめでとうござ・・・?」


日本語が上手く話せないほどに感動の波が押し寄せ、今まで必死に練習した日々を回想すると、左利きの戦士はグランドに(うずくま)って無言で涙を流すことしか出来なかった。





勝利の瞬間。望月薫は、立ち上がって美津田に右手を差し出す。美津田はこれに答えて同じく立ち上がり硬い握手を交した。


しかし、薫の掌の力が強すぎて「痛いって!」と声に出してしまう。



「お前が正しかった!」

「え?」

薫の言葉の意味がわからず、美津田は聞き返した。

「お前、昔言っただろ!俺には今日だったんだよ!!!」





思い出した。

十分な技量がありながら戦術を理解しきれない薫がスタメンから外され、控えに回され始めた5年前の夏。

仲の良かった美津田は彼に一言こう告げた。





「今は違うだろうけど、いつの日か最高の試合に出会える日が来るって。」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「お前の言う通りだった!俺には今日だったんだ!!こんな最高の試合を見せてくれた!明那が・・・また・・・あんなに生き生きと・・・。ありがとう!!!本当にありがとう!!!」



美津田は一瞬表情を歪めたが、唇を噛み締めてすぐに普段の無表情に戻る。


「勝手に最高にすんな!面白くなるのはこれからだ!」

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