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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
集合編
21/207

第20話   デカ○○サンボ

自陣に合計20名の選手が入り乱れる異様な光景に、国巻イレブンは開始3分間同様しっぱなしだった。前監督の大嶺時代も、攻撃的な布陣を強要されたが9人で攻めたことなどない。全くボールに触れない歯痒さを感じつつも、ゾーンプレスを意地でも行使しようと声を掛け合っている。

大剛高校はボールを保持しながらも、簡単にゴール前にボールを出さず、横パスでサイドチェンジを繰り返している。

「圧倒的人数でボールを保持しての遅攻。それが岡山監督の目指したポゼッションサッカーだ。」美津田はそこまで話すと、南部の方に顔を向けて「嫌な戦術だろ?」と聞いた。それがする側の目線か、される側の目線かは、南部には読み取れなかった。


横パスを繰り返しながら大剛のCMF鵜飼は、この日CBに入った須賀のマークが少しズレたのを見逃さず、味方FWの田口にスルーパスを出す。少しパスが強かったが、田口は勢い良く走りこみシュートを放つ。これはGKの坂田が体で防いだ。跳ね返ったボールをすぐさま木村はへデングで左SBに入った鈴木に渡す。鈴木は左足を振りぬくと、前線で張っていた久保に向けてロングスルーパスを放った。



「こっちの攻撃になれば、大チャンスだもんな!」そう思いながら久保が落下点に走りこみ、ボールを受け取ろうとする。その瞬間、久保の目の前に黒い大男があらわれてボールをクリアする。先ほど皆が驚いていたあの外国人選手にカウンターを阻まれた久保は、「デカいし速い!」と驚きを隠せない様子だ。





この外国人選手の正体は、ラファエル佐々岡というガーナ人の父と日本人の母を持つハーフの15歳の少年である。恵まれた身体能力で大剛の守備を一手に背負ったこの巨人は、少し見下げながら「足、速いっすね」と久保に語りかけた。

「・・・え?」劉著な日本語で話しかけられたので、久保は目が点になった。その間に、大剛イレブンの半数以上が、自陣に戻っている。



ラファエルは日本語しか話せない。商業のため日本に渡った父は、母と会ってから日本支部を急遽創設し、そのまま結婚して永住を決断した。父方の家族とは電話でしか話したことがなく、家庭でも日本語しか使わない。心は日本人だったが、世間は違った。欧米のように他民族コミュニティが存在し辛い日本で、彼の容姿は異様なものとしてしか捉えられなかった。同級生に話しかけられる時は興味本意だけで、彼の人間性に触れようとしたものは皆無だった。孤立しがちな彼にサッカーを勧めたのは母である。なにか打ち込めるものがあれば、学生生活を楽しく過ごせるのではという母心からだった。それは成功した。小学校高学年で170センチを越えていたラファエルは、地元のサッカーチームでGKとして活躍した。自身の身体能力を武器にして味方に安心感を与え、相手に恐怖心を与えるという双極的な存在感は、「外人」という差別的な眼差しを払拭する。サッカーをする時間が、一番の楽しみになっていた。



「あ!思い出した!!」控えの高井が大声を出す。

「あいつ!中学の時見たことがある!!すんごいキーパーだった!!」

「キーパーだったの!?」片部が質問すると、高井は頷きながら「ロングボールは全部弾かれましたよ!」と興奮気味に語った。


そこまで話を聞いて、若宮は「なんで今はキーパーじゃないの?」とつぶやくと、美津田は試合を見つめながら語った。

「キーパーの適正が高いからだ。」

「え?」

「キーパーっていうのはチームの中で最も身体能力が高い選手がなるポジションなんだ。だからキーパーっだったんだ。」

「だから、何で今はキーパーじゃないんですか?」

「それ以上だからだよ。このチームのスイーパーとしては。」

「ん?」

「この1バックシステムは、諸刃の剣だ。相手にボールを取られたらすぐに速攻をされてしまう。しかし、どんなに素早い速攻でもアイツが弾いてスローインにする間に、味方が戻ればその速攻も潰せる。9人が常に上がるが1人絶対に上がらないという約束事を決めて、あいつ一人にカウンター阻止を全て任せるんだ。」

「それって無茶苦茶な気がするんですけど・・・。」

ここまで若宮たちの会話を聞いていた南部が間から割って入った。

「無茶苦茶さ、でも・・・。そのスイーパーがあんな選手なら・・・。」

「そこまで無茶苦茶でなくなるって訳さ。反則だろ?」つまらなそうに美津田は言うと、さらに


「さて、南部?お前ならどうしたらいいって考える?」と訊ねた。


南部がサッカーのデータ収集を得意としたのは、ゲームがきっかけである。

サッカーゲームで選手のデータを見たとき、テレビの向こう側で活躍する実際の選手の能力値が、少しゲームの設定と違うのでは?と感じたのが始まりだった。


欧州で活躍する選手達をテレビで観ながら細かい能力表を作っていく。それがデータ収集の始まりだ。つまり、戦術の知識はほぼ皆無なのである。


「僕・・・戦術面はちょっと・・・。」

「戦術のことじゃない。お前は能力を見極める力がある。特徴を見抜く力があるんだ。それって、逆を言えば欠点を見抜く力もあるってことじゃないか?」

そう美津田に言われて、南部は固まった。


「前半の間に、出来るだけ見抜いてみてくれ。・・・ちなみに、一番厄介なのはどの選手だと思う?」


「決まってるでしょ!あのおっきい人ですよ!」

「いや!違う!」若宮の意見にすぐさま南部が反論した。

「あの外人さんはすごいけど、生命線って訳じゃない。本当に厄介なのは・・・あの5番!」


それを聞くと、美津田はニヤっと笑って「だよな。」とつぶやいた。


大剛の5番は秦原というリベロである。攻めあがった9人の選手の中で最後方に位置し、大声を張り上げて味方に指示を出していた。

ちょうど若宮たちの話が終わると、竹下がなんとか大剛のパスをカットして久保にスルーパスを出そうとした。しかし、秦原が素早く竹下からボールを奪い返し、またゆっくりとボールを回しだす。



「取った後もまたあの5番が取り返す。取られるとしたらどこかをしっかり読んでるんだ。あの5番は要注意だぞ。」


そう言っていると、再びCMFの鵜飼がパスを出し、須賀のマークを振り切った田口がシュートを放つ。今度は坂田も止められなかった。




0-1




「あの7番も厄介だ。」7番とは鵜飼のことだ。



「うちにはメイカーが少ない。」

「メイカァ?」

「そう、ゲームメイカーやチャンスメイカーといった、試合を組み立てたりチャンスを演出したりするタイプ。」

「松田君は?どうです?」

「松田はドリブル思考が強い。上手いがメイカータイプじゃないな。」

「じゃあ、少ないってことは誰がそのタイプなんです?」

「今、ここにはいない。」

すでに若宮と美津田の問答を、控え組も聞き入っていた。

「いないってどういうことです?」

「運が良ければじきに来る。・・・おぉ!話をすれば!!」



正門側からグランドへと向かってくる二人の姿を、美津田は見つけると大声で

「こっちだぞー!」と言った。




向かってくる二人の姿にまず岡山監督が気付いて目を丸くする。


すぐに木村も気がついた。


「よく来たな!薫!明那!」

美津田が叫ぶと、岡山と木村は同じタイミングでつぶやいた。





「・・・望月!」と。


すでにキャラがパンク状態

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