第19話 ワンバックって、あの選手のことじゃないよ
岡山監督の顔を、新聞やテレビでみたことは無かった。
「奇跡のイレブン」の記事にはいつも滝沢や大嶺の写真が載っており、岡山監督は名前以外一切の情報が無く、インタビューも当時断っていた。
もっと年配で貫禄のある人物を予想していた国巻の選手達は、目の前の優男に挨拶後も驚きを隠せない。
「もっと怖そうなオジサンとかって思ってたでしょ?違うんだよねー。」岡山は機嫌良さそうにそう言うと、大剛の選手達に挨拶させた。
「じゃ、そっちもアップできたら始めよっかぁ。」
「よろしくお願いします。」
それだけ言うと、美津田は自分の選手達にアップを言い渡す。
アップ後、坂田は先ほど皆が注目していた黒人の選手を見つめる。それに気付いた美津田が「坂田、どうした?」と訊ねた。
「いや・・・彼がフォワードだったら怖いなぁっていうか、嫌だなぁとか思って・・・。」
そこまで言うと美津田は
「それはない。」と言い切る。
「・・・?なんでわかるんですか?」
「岡山監督が【あそこ】にって言ったから。彼はお前に近寄ることは無い。」
言葉の意味がわからず、国巻のGKはただ首を傾げた。
キックオフは大剛から。すぐに久保たちが相手布陣をみて驚く。
先ほどの黒人選手はCB二人を縦にしたダイヤモンド型4バックの最後方に陣取っていた。
「ラッキーっていうか・・・勿体無いな。」中林がそうつぶやくと、大剛のFWがボールを蹴りだしてゲームがスタートする。
すると、両サイドのMFに入った大下と竹下は、「え!?」と声に出し、スタートと同時に困惑した。
大剛の両サイドバックが同時に上がったからである。しかも、縦関係のCBの内、手前の選手も前線に上がってきた。
「おい・・・、これって・・・。」国巻イレブンは驚きで硬直するのを必死で抑えた。
例の黒人選手以外の全員が、国巻側陣内に入ってきた。
「なんか、すごいことになってません?」若宮がつぶやくと、美津田は不機嫌そうに「お前でもわかるか?」と訊ねた。
「だって、大剛の選手達、あの大きい人以外みんな攻撃しようとしてますよ。」
「そう。これが岡山監督の十八番だ。」
美津田がそこまで言うと、新しく入ったもう一人のマネージャーである南部が
「1バックシステム。」と呟いた。
「知ってたのか?」「いえ、調べました。」美津田の問いに答えると、南部はさらに話す。
「『奇跡のイレブンの躍進の理由は、この守備者をDF1人とGKのみにする超攻撃的システム。』当時の新聞で小さく書かれていたのを見つけたんです。」ここまで南部が話すと、美津田は「良く調べた」と評価した。
「俺らがベスト8にまで行けたのも、ベスト8で敗れたのも、すべてはこの1バックシステムが原因だった。」
そこまで話すと、美津田は鋭い眼光でグランドを見つめた。




