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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
集合編
13/207

第12話   しゃべって食べよ

某私立大学そばのファミレスは大忙しである。


ジャージを着た20数名の学生が一挙に来たので、オーダーを聞くのも、てんやわんやであった。



「それでは、国巻高校サッカー部の未来に、かんぱーい!!!」

滝沢がそういうと、「かんぱーい!」と、国巻メンバーと滝沢メンバーがグラスを合わせあった。


「いや~、みっつぁんが監督やるって聞いたときはどんなチームになるんだろ?っておもったけど、面白いチームになりそうだな!」

滝沢が笑顔でキャプテン群に話す。


「いや、毎日がサプライズっていうか、もう大変ですよ。」久保は緊張しながらも笑顔で答えた。


「そっかー、いやぁ、今日一日のお前らの顔見てたらよくわかったよ!」


「よくわからないんですよ。あの監督。」竹下が少し真剣な表情で言うと、滝沢は言った。

「あの人が喋った印象って、確かに無いなぁ。」


「無口な人だったんですか?」

「いや、全く喋らないとかじゃないよ。ただ、必要なことだけ喋る人だったね。無駄なことは喋らないし、しない。」

「へぇ~」

「一緒にちゃんとサッカーした時間は短かったけどさ、よく感じたよ『頭いいなぁ』って。」

「そうなんだ!」

「うん、あの人センターバックだったけど、プレスかけるか引いて守るかの判断とか、秀逸だったよね。」

「あの?」

「ん?」須賀の問いに滝沢が笑顔で待ち構える。


「美津田監督って、当時の監督とはどうだったんですか?」

「ん?岡山監督とってこと?」

「はい。」

岡山監督とは国巻高校サッカー部創部当時の監督で、「奇跡のイレブン」の監督として当時は高い評価を受けていた人物である。




「・・・合わなかったとは思う。」




「そうなんすか?」

「うん。」


一瞬下を向いた滝沢は、再び前を向いて当時の話をしだした。



「岡山さんに、『サイドバックになれ』って言われたことあったんだよ。みっつぁん。」

「へぇ~。」

「まぁ足も速いほうだったし、判断力いいから。俺らもアリかなって思ったんだけどさ。あの一件でみっつぁんはすげぇって感じたよね。」

「???」

「断ったんだよ。」

「サイドバックを?」

「それだけじゃない。『サイドバックにするくらいなら、試合に出さないで下さい』って監督に言ったんだ。」

「何でですか!?」

「わかんない。でも、岡山監督は練習試合3試合に本当に出さなかったよ。」

「え!」

「んで、みっつぁん出ない3試合で7失点してさ。3試合目終了後に、『僕をセンターバックで出してくれるなら、ベストを尽くします。』って言ってさ。かっこよかったなぁ!あん時のみっつぁん!」




滝沢達の席から遠い場所では、松田や高井ら1,2年生が、川村たち滝沢チームと談笑していた。


「お前、上手かったな!」川村は松田を賞賛している。

「どうもっす。」謙遜しているようだが、松田の顔は全力のドヤ顔をしていた。

「羨ましいね。お前らが。」

「なんでですか?」

「オレ、2年生の時にサッカー辞めたんだよ。」

「部活を?」

「そう、高校2年生の時。やる気ある奴少なくてさ。必死にケツ叩いて鼓舞してったんだけどさ。結局みんなやる気無くて。サッカーやるのがバカバカしくなったんだよね。」


「おれらも、大して変わんないですよ。一杯辞めてっちゃったから。」須賀が寂しそうな目でそう言う。自分が入部した頃は、50人近くいた部員が、今ではギリギリサッカー出来る程度の人数になってしまったという事実を噛み締めながらの発言は、重みがあった。


「そっか、お前らも大変なんだな。」


その後は、互いの力量を褒め称えたり、自慢話をしあったりと、和気藹々とした時間が過ぎていった。



時間も2時間近くなると、川村が熱く語りだした。

「滝沢には感謝してる。『もう一回、サッカー楽しんでみないか?』って学部違うオレを誘ってくれた時は嬉しかったな。」

「へぇ。」

「高校当時は有名人だったあいつが、着飾ることなく誘ってくれたのは感動したぜ。」

「なんで滝沢さんって、プロも大学サッカーもしなかったんでしょうね?」

「聞いてみたら?おーい!滝沢!!」

「ん?」遠くの滝沢が返事したとたんに、1,2年生達はオロオロしだす。


「何でお前は大学のサッカー部に入って無いのかだってよ?」川村がニヤケながら質問した。

「あぁ、えぇっと・・・。」

この質問には、実はキャプテン達も興味を持っていたので、食いついた。



「えっと・・・オレ・・・合コンするためにサッカーする気ないんだよね。」



「え?」意外な答えに皆が拍子抜けする。

「大学で、高校時代ほどのクオリティでサッカーやるとこって、中々無いからね。だったらしないほうがいいかなって思ったんだ。」


「でも、プロからオファー来たんでしょ!?」久保が前々から聞いてみたかった質問をついにした。


「うん。あったよ。」


「すげぇ!」


「でも、断った。」


「何でですか!?勿体無い!!」


「・・・オレの親父ってな、オリンピック目指したんだよ。」


「!?」


「サッカーじゃないよ。マラソン。でもさ、結局大会で成績良くなくて、出られなかったよ。」


「・・・。」


「スポーツはシビアだよ。しかもそれで食っていくってなったらさ。オリンピック出られないってなったとたんに居辛くなって仕事辞めて。でも、再就職先中々見つからなくってさ。母親必死にパートしてたよ。」


「・・・・・・。」


「なれたかって言うと、なれたと思う。でも、その後に残酷な人生が来るかもしれないって知ってるとさ、挑戦できなかったな。情けない話だけど。」





ファミレスを出ると、国巻イレブンは「ごちそうさまでした!」と、奢ってくれた滝沢チームにお礼を言った。


川村が急いで坂田に駆け寄った。

「おい、キーパー!」

「え?」

「今日一番凄かったのは、お前のジャンプだったからな!」

「・・・どうも。」

「食えない奴だなぁ。フォワードに転向する気ないの?」

「絶対に嫌です!」

「そんなにキーパーやりたいんだ。」

「はい!」

「・・・頼もしいな。国巻の後ろは。」

「頼もしい?誰がですか?」

「は?決まってんじゃん、お前がだよ!」

坂田はキーパーを始めてから誉められたことが無かった。

例え評価してくれた相手が敵だったとしても、誉められたという事実を認識するのに彼には数十分間の時間が必要だった。そして認識出来た頃には、もう川村は家路についていた。。


各自が家路に向かおうとした瞬間、久保が滝沢に走り寄った。

「滝沢さん!サインください!!」

「え?」

「今日、試合できるって聞いて色紙用意したんです!お願いします!!!」

「こんなチャラ男になった奴のサインでも、いいの?」

「滝沢さんはどうなったって、俺のヒーローです!!」久保はそう言うと、両手で色紙を差し出す。

「・・・わかった。」少し笑いながら、滝沢はサインを書いた。



「ありがとう。」

書いたサインをもらいながら言われた言葉に、久保は「え?」と聞き返した。


「本当にありがとう。」

「・・・なにがですか?」


「君らが残ってくれたから、まだ国巻はサッカー部がある。」

予想外の感謝の言葉に、久保は唇を噛み締めた。


「オレ、『第二の滝沢』になりたいです。」

久保は涙を堪えて言う。


「なれるさ。頑張れよ、ストライカー。」

滝沢は涙を隠せなくなった少年の頭を力強く撫でながら優しく応援した。

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