第11話 青春は、やったりやられたり
いい加減、試合終わらせます。
国巻のイレブンは、コンパクトに全体を固め、ボールを奪う機会を窺い続ける。
激しさのあるゾーンプレスは、滝沢たちを困惑させたが、時間が経つほどに、疲労感は増していった。
一瞬の隙を狙って、川村がロングボールを出す。再び滝沢が抜け出して、シュートを放った。
何とか木村が足を出してカットするが、それは不運にも坂田のつめた逆側に跳ね返り、ゴールに吸い込まれた。
あっけなく2-3と勝ち越されてしまう。
しかし、滝沢の後輩達は、負けた気でいない。
大下を始め、多くの選手が声を掛け合い、木村や坂田をフォローした。
「俺らがまた点取るからさ!」須賀はそう言い切った。
「交代!」美津田の声が響き渡る。
「中林に代わって、高井!!」
綾篠が正規ポジションの左SBに入り、右SBに鈴木で右WGに高井が入った。
中林は体力が限界だった。
汗は尋常ではない量である。
「あとはスタミナだけだな」中林に美津田はそれだけ言うと、ピッチを見つめた。
中林は13歳でタバコを始めた。理由はよくある友人からの勧め。タバコの味は、不良や大人に近づいていく高揚感の代わりに、スタミナを削っていった。
「まだやりてぇなぁ。」そう声にすら出せない疲労感に、中林はさらに悔しさを噛み締めた。
高井のチェイシングは荒削りだが、いいアクセントになった。
中学時代、控えとして実は一度も試合に出ていない彼にとって、ピッチに立てることがモチベーションの全てだった。
【走り回って潰すタイプ】という印象を滝沢達に与えた頃、高井を避けてボランチに預けようとしたボールを、竹下がカットした。
竹下のスルーパスはワントップの片部に入らず、相手川村がカットするも、こぼれ球を久保が拾う。持ち味の一瞬のスピードが光った。
しかし、相手ボランチとセンターバックが前後から挟もうとしてくる。その直前に左の大下に久保はパスを出す。
大下はクロスを出すと見せかけ、ボランチの松田にパスを出す。松田は精度の高いパスを相手ペナルティエリアに送った。
久保は相手CBと競り合いながら、ゴールをすると見せかけて後ろの片部にボールを送る。ほぼゴール正面で、片部はノーマークだった。しっかりゴールを決める。
3-3
執念と頭脳が生んだ同点ゴールに、メンバー全員が沸いた。
疲労の色が濃く出ながらも、ゾーンプレスを慣行する国巻イレブン。
残り時間は5分程度となっていた。
滝沢のロングシュートをしっかりと坂田が止めると、ゴールキックの蹴り方が少し違うことに、1年生2人が気付く。
助走距離がいつもより短い。
「意外とこの方が飛ぶ!」坂田のゴールキックは伸びたが、高井には届かず、相手MFに奪われる。
すぐに滝沢にパスを出したが、それを須賀は必死にカットした。
そばにいた鈴木にパスを出すと、鈴木は宿題に早速取り組んだ。
左足で振りぬいたロングボールは、相手DFの裏に飛んでいった。
滝沢チームは苦し紛れのキックと思ったが、それは一瞬で戦術の一つと気付く。
高井の速さは、この瞬間にトップスピードになった。
「右足の力を抜ければ!」
そう意識したトラップは多少膨らんでしまったが、相手DFにもGKにも取られない場所に転がった。
高井が全速力で相手ゴールマウスに突進する。
速めにキーパーが飛び出し、それに動揺した高井がシュートするも、ギリギリ弾かれてしまう。
悔しがりながらボールの行方を高井が追うと、彼は驚愕する。拾おうとしたのは相手DFでなく、味方ボランチの竹下だった。
高井と坂田の宿題をキャプテンの中で一番応援していた竹下は、坂田がゴールキックした瞬間から、久保や片部より早く上がっていたのだ。
竹下はロングシュートを放つ。
キーパーも戻りながら触ろうとするが、触れない。
ゴールに吸い込まれようとしたボールは
・・・なんとポストに当たって跳ね返ってしまう。
しかし、ボールの転がった先には高井がいた。
全力で放ったシュートは、ゴールネットを揺らした。
高井は大喜びだったが、キャプテンたちを含め、国巻イレブン達は落胆する。
「高井。お前はオフサイドなんだよ。」竹下が悔しそうに言うと、高井はその場でしゃがみ込んだ。
「・・・俺の・・・バカ野郎。」
高井はピッチの上で、うなだれた。
その後は急転無く、必死のゾーンプレスに滝沢チームが四苦八苦したまま時間が過ぎ去る。
・・・試合終了。
3-3 同点
下を向く者もいれば、上を向く者もいた。
「100点に近いな。」
「は?」美津田のつぶやきに、キャプテンたちが噛み付いた。
「勝てなくて、何が100点すか!」久保が大声でいうと、美津田は淡々と言う。
「内容がだよ。」
「・・・。」
「いいサッカーするじゃん。お前ら。」
黙って美津田を全員が見つめる。
「いいんだよ、今日がゴールじゃねぇ。今日はスタートだ。いいスタートだぞ。胸張れ。」
それだけ言うと、美津田はもう帰る支度を始めた。
「メシ、みんなで食うか?」滝沢が国巻イレブンに背後からそういうと、久保は右手で抑え気味に拳を握り締めた。
無理に終わらせた感・・・否めず。




