お迎え
最近忙しかったので、だいぶ間が空いてしまいました……
「王都到着!」
「早いのう!」
「そうですね」
襲撃した日の夜には王都に到着した。
「ドレッドノートはどこに降ろすんだ?」
「あそこのテラスに寄せて泊めてくれんか」
「あいよ」
マリーの指差したテラスに寄せてドレッドノートを停泊させる。
「お手を陛下」
「うむ」
先に降りたイゼリアの手をとってマリーがドレッドノートから降りた。
「それでは私は騎士団に戻り捕縛した人間の移送とノゲイラ邸への襲撃を指示してきます」
「うむ。よしなに頼む」
「では、失礼します」
イゼリアは一礼してその場を去った。
「これで依頼は終了でしょうか、陛下?」
マリーに確認する。
「……」
渋い顔で俺の顔を見る。
「どうかいたしましたか?」
「ああ……だめじゃ!ぞわぞわする!!」
マリーがいきなり身震いした。
「はい?」
「今さらお主に敬語を使われると体がぞわぞわするんじゃ!」
「と、言われましても……」
「もうよい!敬語は使うな!!」
「よろしいんですか?」
「よろしい!国王権限で許すから、もう止めてくれ!!」
なんか身悶えているマリーを見ているのは楽しいが、これ以上はかわいそうかな。
「りょーかい」
マリーはため息を1つついた。
「ふぅ……それでは報酬を渡すから、わらわの部屋まで来てくれ」
「あいよ」
マリーのうしろについて部屋に入った。
ソファに腰掛ける。
「少し待っとれ」
マリーは部屋の奥の金庫から大きな袋持ってきた。
「とりあえずこれで10億じゃ。あとこれを4……」
「ちょっと待て」
まだ袋を持ってこようとするマリーを止めた。
「なんじゃ?」
「ドレッドノートの宿泊費に食事代にその他もろもろで……」
袋を開けて金貨を1枚取り出す。
「これで今回の報酬は十分だ」
「……よいのか?」
それを見てマリーは呆けた顔をしている。
「俺はマリーの誠意が見たかっただけで、金には困ってない。それにおまえはこれからなにかと入用になるだろ?」
「でも……」
「それにな……」
「?」
「シルフィア国王と懇意になれたんだ。本来ならいくら金積んだって無理だろ?」
「ふ、ふふ……ははははっ!」
マリーは突然腹を抱えて笑い始めた。
「なに笑ってるんだよ!?」
マリーは目じりに溜まった涙を拭いながら俺に言った。
「いや……お主はよほどの馬鹿か大物じゃの!久しぶりに笑わせてもらったわい」
「おまえな……」
「マコト」
急にマリーが真剣な顔になった。
「なんだ?」
「真剣にわらわに仕える気はないか?」
俺は首を横に振った。
「……じゃろうな」
マリーは寂しそうでいて納得したような顔で頷いた。
「まぁ……依頼があるならいつでも呼べよ。ドレッドノートならザインからでも1時間ちょいで王都まで来られる」
「そうじゃな……そういえばマコト」
なにか思い出したようにマリーはこっちを見た。
「どうした?」
「イゼリアのことをどう思う?」
「どう思うってどういうことだ?」
「好きか?」
ド直球だな。
「美人だとは思うけど、別にそういう感情はないな」
「そうか、残念じゃ」
マリーが落ち込んだ。
「なんでマリーが残念そうなんだよ」
「いやぁ……お主ならイゼリアに相応しいと思うとるし、お主がイゼリアとくっついてくれたら、なし崩し的にわらわの部下になるかぁ~と考えとっての」
「……あとに言ったほうが本音だろ?」
「そうじゃ」
腹黒いよ。
「まぁお主が好いたところでイゼリアには本命がおるんじゃがな」
「本命?」
「うちの騎士団の団長じゃ」
「ふ~ん」
「早くくっついてくれんかの……このままじゃ行き遅れてしまうわい」
「まぁなんとかなるだろ」
「そうじゃといいがの……マコト、今夜は城に部屋を用意するから泊まっていくとよい」
「いいのか?」
「そのまま帰すのもなんじゃからな」
「りょーかい」
とりあえず今日は泊まって、明日は町でお土産買って帰るか。
「それじゃあわらわはもう休むから、マコトも部屋に行くとよい」
「あいよ」
マリーの従者の女の人に案内された部屋で早々に寝た。
翌日、マリーと朝食食べてをいるところに従者が1人入ってきた。
「お食事中失礼いたします」
「どうしたのじゃ?」
「ただいまシルフィア城門前に、マコト=ムトウ様のお連れだとおっしゃる方々がいらっしゃっているのですが、いかがいたしましょうか?」
マリーがこちらを見る。
「その俺の連れって言ってるのは、赤髪の獣人の女の子と金髪のエルフの女だったりするか?」
「はい。その通りです」
「そうか……あいつら来たのか……」
「どうするのじゃ、マコト?」
「お迎えが来たから、俺はそろそろお邪魔するよ」
「そうか……なにかあったらまた呼ぶぞ」
「あいよ。じゃあなマリー」
「うむ。達者でのマコト」
マリーに別れを告げてシルフィア城を出た。
「マコト!」
ミシャとエリスが駆け寄ってくる。
「待っててくれって言ったじゃないか」
ミシャたちを見て渋い顔をする。
「マコトがいつ帰ってくるからわからないって言うから……」
とたんにミシャの表情が曇る。
「……わかった、わかったからそんな顔すんなミシャ」
ミシャの頭をグリグリ撫でる。
「……ん」
「もう仕事も終わったし、シルフィア観光でもして帰ろうぜ」
「うん!」
ミシャの顔がぱあっと明るくなる。
「うん。ミシャはやっぱりそっちの顔のほうがいいな。エリスもわざわざ来てくれんたんだろ?」
「ま、まあな」
話を振るとエリスの顔が赤くなる。
「ありがとな」
エリスの頭も撫でる。
「……むぅ」
子供扱いするな!とか怒ると思ったけど、大人しく頭を撫でられ続けるエリス。
「それじゃあ、シルフィア観光に行くぞ!」
「「「お~う!」」」
3人がいい返事をした。
ん?
3人?
うしろを振り返るとなぜかマリーがミシャたちと同じように手をあげて笑っていた。
「……なんでマリーがここにいる?」
「いや、わらわもシルフィア観光をしようと思っての」
「さっきさわやかに別れたばっかりじゃないか」
「ぞろぞろ護衛を連れて観光とか面白くないじゃろ?お主と一緒にいれば護衛いらずじゃし、今日はお忍びでシルフィア観光じゃ!」
「仕事は?」
「捕まえたものたちの移送も終わったし、ノゲイラも無事捕まえたようじゃ。尋問はイゼリアや騎士たちがやってくれるしの」
「……さようで」
「さようじゃ!」
いつも通り自身満々で胸を張って言い放つマリー。
「まぁいいや……2人とも、コイツも一緒だけどいいか?」
2人のほうに向いて確認をとる。
「誰、その子?」
ミシャが訝しげな顔でマリーを見る。
「あぁ……なんと言えばいいかな……マリー自己紹介してくれ」
とりあえずマリーに任せる。
「うむ。わらわはマリベル=レ=ブラン=ド=シルフィア16世。一応この国の国王をしておる」
なんの捻りもなく事実を述べるマリー。
「……本当なのかマコト?」
エリスが少し困惑した顔で俺に確認した。
「残念ながら事実だ。このシルフィアの王にして、今回の俺の仕事の依頼者だ」
「そうじゃ。しかしなんで残念ながらなんじゃ?」
マリーがジトっとした目で俺を見る。
「気にするな」
「ふん!まあよい。ミシャとエリスじゃったの、今日1日よろしく頼む」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします!陛下」
ミシャが慌てて返事をしたが、それを聞いてマリーの顔がまた渋くなった。
「陛下がやめてくれんかの?一応お忍びなのじゃ」
「……はぁ」
「まあそういうことだから敬語は使わなくていいぞ」
困惑しているミシャに俺が念を押す。
「マコトがそう言うなら」
なんとか了承したようだ。
「では、さっそく行くぞ!」
マリーがスタスタと先に行ってしまったので、慌てて3人であとを追った。
シルフィア城を出たあと、4人でシルファリオを観光していた。
マリーはこの町に住んでいるはずなのだがいろいろな店を楽しそうに見ている。
(普段は見て回れないんだろうな)
(たくさんごえいつけなきゃだめっていってたもんね)
(まあ、俺もさっきからずっと警戒してるけどな)
周囲の人間や様子や気配にも気をつけているが、特に問題もなさそうだな。
「マコト、なにをそんなにきょろきょろしておるんじゃ?」
マリーが不思議そうに俺の顔を覗いてきた。
「いや、なんでもない」
軽く微笑んで手を振る。
「そうか。ミシャ、これなんてお土産にいいのではないか?」
「う~ん……女将さんもこれなら喜ぶかな」
同年代だからだろうか、ミシャとマリーは結構仲がよさそうだ。
「少し入りづらいな」
エリスが所在なさげに俺の隣に来た。
「エリスもなにか買わないのか?」
「今のところ特に欲しいものはないな」
「そうか」
「……今回はどんな依頼受けていたんだ?」
興味深そうに訊ねてくる。
「いろいろだよ。詳しくはあとで話してやる」
「楽しみにしている」
エリスは買い物より俺の話に興味があるようだ。
俺はそんな3人の様子を楽しみながら、シルファリオを1日歩いた。
「じゃあ行くぜ」
「うむ。ミシャもまた遊びに来るとよい」
「うん!」
観光を終え、シルフィア城に停泊させてあるドレッドノートの前でマリーと挨拶をする。
城1日でだいぶマリーとミシャは仲良くなったようだ。
2人とも同年代の友人がいないからだろうか。
「また機会があったら会おうマリー」
「マコトも達者での」
「ああ」
今度こそマリーに別れを告げてドレッドノートに乗り込む。
「とりあえずブリーフィングルームでまったりしてな」
「うん」
「わかった」
ミシャとエリスを適当にくつろがせて俺はブリッジにあがった。
操縦席に座り一息つく。
「ふう……なんか疲れたな」
「そうだね」
「早く帰ってワノクニ亭のご飯が食べたい」
「じゃあ、いそいでかえろうよ!」
「あいよ。ザインに帰るとしますか」
「うん!」
「進路ザイン。高度2000。速度1000。ドレッドノート発進」
「ごー!だね!!」
明日はお土産配りに行こうかな。
気温が変わりやすくて風邪ひきそうです。