空中浴場ドレッドノート
お風呂のお話です。
「目標高度に到達。進路そのまま速度維持。自動操縦に切り替え」
ドレッドノートに指示を出し、席を立つ。
「とりあえずブリーフィングルームにでも行くか?」
「そうじゃな」
「わかりました」
2人を連れてブリーフィングルームへ。
「適当にソファに座っててくれ。飲み物を持ってくるけどなにかリクエストはあるか?」
「わらわは甘いものが飲みたい」
「私は紅茶をいただけますか?」
「あいよ」
そのまま調理場に行って冷蔵庫を漁る。
「マリーにはオレンジジュースでいいか。あとプリンも持っていこう」
オレンジジュースをコップに注ぎ、プリンを皿に盛る。
食料は意外とあるので、王都に行くあいだにプリンやアイスをいくつか作っておいた。
「茶葉は……これか」
戸棚から茶葉を取り出し、ポットに入れる。
「紅茶は……90度『ホットウォーター』」
魔法で90度ぐらいのお湯を注ぐ。
温度や量を自由に調節できるので、便利な魔法だ。ちなみにお風呂のお湯もこれ。
「あとはカップを2つっと」
カップを2つ取り出し、ほかのものと一緒にお盆に乗せて運ぶ。
「おまたせ~」
持ってきたものをテーブルに置き、カップに紅茶を注ぐ。
「このプルンプルンしておるものはなんじゃ?」
マリーが早くもプリンに興味を示した。
「俺が作ったお菓子だ。まぁ食べてみろよ」
「……うむ」
マリーは半信半疑でプリンを食べた。
「なんぞこれ!美味じゃのう!?こんなものがあったとは……」
うん。いい顔だ。そんな顔が見られるからお菓子作りはやめられない。
「イゼリアも食べてみな」
「はい。いただきます」
イゼリアもプリンを食べる。
「うん。おいしいです!」
笑顔いただきました!
「うむ。これなら道中の食事も期待できそうじゃの」
マリーが腕を組んで頷いている。
「俺が飯作るのか?」
「あたりまえじゃろう?いくら女とはいえ、国王と騎士に料理の腕なぞ期待するでない」
さも当たり前のように言われた。
イゼリアのほうを見る。
「すいません。料理はちょっと……」
俺が作るしかないようだ。
「はぁ……しかたないか」
ため息をついてソファに腰を下ろす。
「期待しておるぞ」
マリーは楽しそうだ。
「あんまり期待しないで欲しいんだけどな……そうだ、ワノクニ料理って食べたことあるか?」
「ないのう。イゼリアはどうじゃ?」
「私もありませんね」
「なら夕飯にご馳走してやる。昼はサンドイッチかなんかでいいだろ?」
「それでよい」
「お願いします」
マリーは相変わらず尊大だが、イゼリアは申し訳なさそうだ。
「ところで、普通船では家具を固定すると聞くが、ここはしてないのう。大丈夫なのか?」
テーブルを突っつきながらマリーが聞いてきた。
「必要ないからな。さっきからぜんぜん揺れないだろ?」
「たしかにそうじゃな」
「ドレッドノートは慣性制御と重力制御ができるシステム積んでるからな」
「「?」」
2人は不思議そうな顔で俺を見る。
今のじゃ通じないか……
「えぇ~っと……どんなに船自体が揺れようが、宙返りしようが、船の中は常に陸地と同じような状態を保てるんだよ」
「ほほう!それはすごいな!!」
「そのようなものは聞いたことがありませんね」
2人は驚いたり疑問を浮かべたりしている。
「この船はいったいなんなんですか?」
イゼリアは納得がいっていないようだ。
「俺にも正確にはわからないんだが、リッテル遺跡に隠されていたことを考えると、古代の人間が残したものだと思う」
「リッテル遺跡ですか……たしかにあの遺跡は我々の文明ができたときからすでにあそこにあったと聞きますが……古代の人間がこのような技術を持っているとは……」
イゼリアが難しい顔をしている。
「俺はそういうことに無頓着だからな。正直ドレッドノートが誰にどうやって作られようが、今は俺の船だ」
「……極論ですが真実ですね。なんだかあなたを見ていると自分が小さい人間に思えてきます」
イゼリアは呆れ半分尊敬半分な感じだ。
「そうなことはないと思うけどな。イゼリアは立派な人間だと思うぞ?」
「ありがとうございます」
イゼリアは薄く微笑んだ。
「わらわもどうでもいいことだと思っておる。大切なのはこのドレッドノートがどれだけ使えるかじゃ」
マリーがちょっとあくどい顔をした。
少女と侮るなかれ、彼女は一国を背負う政治家なのだ。
「まぁ期待には副えると思うぞ」
「わらわもそう思っておるよ」
「そうか。ならいい」
そう言って俺は立ち上がった。
「どこか行くのか?」
「風呂に入ってくる。食器はあとで片付けるから、そこに置いといてくれ」
「うむ。わかった」
「いってらっしゃい」
ブリーフィングルームをあとにして一路風呂へ。
「さぁアスール!ビックイベントだぜ!!」
脱衣所で服を脱いで風呂場でテンションをあげる。
「なにがはじまるの?」
「ドレッドノートで初入浴だ!」
「……それだけ?」
「そう。それだけだ!」
「……」
「俺がどれだけこのときを待っていたか、おまえだって知ってるだろう?」
「ぜんらでさわいでないで、はやくおふろにはいりなよ」
「酷いわ!?」
アスールがあんまり構ってくれないので、入浴の準備をする。
「まずは『ホットウォーター』!」
シャワー用のタンクにお湯を入れる。
「続いても『ホットウォーター』!!」
檜の風呂釜にお湯を注ぐ。
「お湯は溢れる寸前。温度は41度。これが俺のジャスティス!」
全裸でポーズを決める。
「……じゃあ準備も済んだところで、かけ湯から始めましょうか」
蛇口の前の風呂イスに座り、桶にお湯を溜める。
「んでもって肩からかけるっと」
それを何度か繰り返し……
「いざ!にゅうよ……」
ガラララ……
おや?扉が開く音が……
扉のほうを見る。
「邪魔するぞ」
そこには体にタオルを巻いたマリーが立っていた。
「なんでえぇぇぇぇ!?」
瞬時に風呂桶で大事なところを隠す。
「いや、わらわは風呂の入りかたを知らんでな。お主が入るならついでに教わろうと思っての」
「風呂の常識の前に、人間としての常識からやり直せ!」
思わず叫んだ。
「と言われても……お主意外といい体をしておるのう」
顎に手を置きながら俺の体をなめるように見る。
「人の話聞いて!というか見ないで!!」
腕で胸を隠す。
「照れるでない。別にわらわはお主のことを意識しておらんし、お主も我に欲情なぞせんだろう?」
「いや、まぁ……それはそうだけど、そういう問題じゃないんじゃないか?」
「ならばどこに問題がある?」
「倫理とか?」
「そんなもの、ほかに誰が見ているわけでもないし、別にやましいことをするわけでもあるまい?」
「そうなのかな……」
「それより、わらわはどうすればいい?」
「ああ、ちょっと待て。とりあえず前を隠すタオルを取ってきたいから、あっち向いてろ」
「心得た」
そのままそそくさとマリーのうしろを通って脱衣所に行き、大きめのタオルを腰にまいた。
「俺なんか乗せられた気が……」
まぁ今さらしかたないか。
「あとあれが必要かな」
脱衣所に据え置かれているヘアバンドを手に持って風呂場に戻った。
「遅い」
「すまん。待たせた」
「で、まずどうすればいい?」
「とりあえずこれで髪をまとめて」
マリーにヘアバンドを渡す。
「やりかたがわからん」
「なんで?」
「普段そういうことは従者の任せておるからのう」
そうか、こいつ王様だった。
「とりあえず今日は俺がやってやるからちゃんと覚えろよ?」
「任せる」
マリーの背後に立ち、髪を頭の上にまとめてヘアバンドで留める。
「次はその蛇口の前のイスに座ってくれ」
「うむ」
マリーを風呂イスに座らせる。
「その蛇口を捻るとお湯が出るから、それを桶に溜める」
「わかった」
「で、お湯が溜まったらこういう風に肩からかける」
「こうかの?」
「そう。それを何度か繰り返す」
「うむ」
何度かかけ湯をするのを確認して、湯船のほうに誘導する。
「本当はタオルを湯につけるのはアレなんだが、まぁ俺たちしか使わないからいいか」
「この中に浸かるのか?」
「そうだ、最初は熱いと思うから、足からゆっくり入れ」
「わかった」
俺が入るのに習ってマリーも足を入れる。
「意外と熱いのう……」
「慣れればこのぐらいがよくなる」
俺は先に肩まで浸かる。
お湯が湯船からこぼれていく。
「ふうぃ~極楽極楽」
「気持ちよさそうじゃのう」
「気持ちいいぞ?」
「むぅ。もう慣れたかの」
そう言ってマリーもゆっくり湯に浸かる。
「……なるほど。これはいいの~」
気にいったようだが、その口調とあいまって妙にババくさい。
「お湯に入ったら頭はお湯に入れないこと」
「なんでじゃ?」
「髪の毛がけっこう浮くし、なによりのぼせる」
「のぼせる……とはなんじゃ?」
「お湯に長時間浸かっていたり、頭ごとお湯に浸かったりすると、体の温度があがりすぎて立ちくらみを起こしたり、最悪倒れる」
「それは危ないのう。長時間とはどれくらいじゃ?」
「人によるけど、この温度だったら1時間は入らないほうがいいと思うぞ?」
「なるほど、心得た」
それから20分ぐらい風呂に浸かった。
「じゃあ体洗うかな」
お風呂を出て蛇口の前に座る。
俺謹製のシャンプーをビンから少量出し、頭を洗う。
「もの凄い泡だっておるのう、それはなにを使っておるのじゃ?」
マリーが隣のイスに座って俺が髪を洗っているのを興味深そうに見ている。
「シャンプーだよ」
「しゃんぷー?」
「髪を洗う石鹸みたいなもんだ」
「髪を洗うのにそのようなものを使うのか?」
「普段は使わないのか?」
「お湯で軽く洗うだけじゃ。と言っても洗うのはわらわではなく従者じゃがな」
「そうなのか。じゃあこれ使ったら髪の毛つやつやになること間違いなしだぜ。蜂蜜とか入ってるし」
「どうりで甘い匂いがするわけじゃな。そのようなもの入れていいのか?」
「これを入れることによって髪の艶がよくなる。ただし、甘い匂いがするからって、飲むなよ?」
「飲まんわ!」
「まあとりあえず使ってみろよ」
「髪の洗いかたがわからぬ。お主が洗ってくれぬか?」
この王様め!
「わかったよ。ただし、次から自分で洗うんだぞ?」
「わかっておるよ。それより早く洗ってくれ」
「はぁ……」
シャワーで泡を洗い落とし、シャンプーを手にとってマリーのうしろへ立つ。
「じゃあ洗うぞ?」
「頼む」
シャンプーを使ってマリーの髪を洗う。
「どっか痒いとことかあるか?」
「ない。意外と気持ちいいの」
「ありがとよ」
そのまま長い髪を丁寧に洗ってやった。
「泡流すけど、目に入ったらしみるから目を閉じてな」
「うむ」
シャワーで泡を流す。
「髪の洗いかたはこんな感じだ」
「わかった」
「体の洗いかたはわかるのか?」
「わからん」
「じゃあ俺が洗ってみるから、それを見て覚えろ」
「わらわを洗ってはくれんのか?」
「さすがにそれは自分でやれ」
「むう。仕方ないの」
ヘチマのようなもので作ったスポンジにボディーソープをつけて泡立てる。
「それはしゃんぷーとは別のものか?」
「これは体洗う専用」
「今度は花のような香りがするのう」
「花のエキスとか入れてるからな。これで体を洗えばお肌つるつるだ」
「なるほど」
洗いかたをレクチャーしつつ体を洗い、シャワーで洗い流す。
「こんな感じだ」
「わかった」
「じゃあ俺はもう出るから、ちゃんと体洗うんだぞ?」
「うむ」
「それと、脱衣所に入るときは体の水気を落として、最後に絞ったタオルで体拭いてから入ること」
「心得た」
マリーが頷いたのを確認して、風呂を出た。
脱衣所で部屋着に着替えて食堂まで。
「やっぱり風呂上りはこれだよな」
コップに注いだ牛乳を一気飲み。
「くうぅ~!!」
おっさんくさいとか言わないで。
「マコト~!!」
下からマリーが俺を呼んでいる。
「なんだ?」
脱衣所な前まで行く。
「まさか服が着られないとか言わないよな!?」
脱衣所のマリーに声をかける。
「服は着られたんだが、髪がびしょびしょじゃあ!」
とりあえず脱衣所に入った。
「本当にびしょびしょじゃねえか!髪も拭けないか?」
目の前にはびしょびしょの髪のまま立ちすくむマリー。
「拭いたんじゃが、なかなか水気がとれんのじゃ……」
まあ髪長いからな……
「タオル貸してみな」
「ほれ」
マリーからタオルを受け取り髪を拭く。
「『ホットウィンド』」
手から魔法で温風を出して手櫛で髪を乾かす。
「あとは……」
櫛で丁寧に髪を梳く。
「こんなもんだろ。どうだ?さらさらだろ」
「うむ。凄いのう!」
「シャンプー効果だ」
胸を張る。
「しゃんぷーも凄いが、お風呂のことといい、お主は手馴れておるのう?」
「昔はよく親戚の子とか風呂に入れてたりしたからな」
「なるほどのう」
「風呂上りに格別な飲み物があるから飲ませてやろう」
「本当か!?」
「うん。上に行くぞ」
「うむ!」
マリーを連れて調理室へ。
「この牛乳だ!」
「牛乳か……」
マリーにコップ1杯の牛乳を手渡す。
「腰に手をあてて一気に飲み干すのが決まりだ」
「そう言うのであれば……んぐんぐんぐんぐ……ぷはぁ!」
豪快に牛乳を飲み干すマリー。
「どうだ?」
「たしかにこれは格別じゃのう!!」
「そうだろう。この状態まできて初めて風呂を楽しんだと言える」
「うむ。これからは風呂に入るのが楽しみになったのう!」
「今度からちゃんと1人で入れよ?」
「わかっておるよ」
「あとせっかく綺麗な髪してんだから、ちゃんと手入れしろ」
「うむ。しかし、お主はまるで小姑のようじゃのう」
「うるさい!」
「ハハッあまり気にするでない」
マリーは楽しそうだ。
「はぁ……昼飯作るから、どっかでのんびりしてな」
「わかった。楽しみにしておるぞ」
そのままマリーは自室に向かった。
(疲れたな……)
(おひるごはんつくれるの?)
(作らなきゃ昼飯抜きになっちまうだろ?)
(そうだね)
(っと、その前に風呂のお湯どうにかしないとな……)
(どうするの?)
(魔法で水蒸気にして外に放出する)
(だいたんだね)
(まあ、俺にしかできないだろうな。さっさと風呂場行って片付けるぞアスール)
(ごー!だね!!)
明日こそ1人でゆっくり風呂に入るぞ!
カッとなって書きました。反省はしてます……
次はちゃんと物語を進めます。




