謁見
最近夢の中でも小説書いてます。
ザインを出て5時間ほどで王都シルファリオを視認できるところまで来た。
「さすが王都ってだけあって、大きいな……」
王都シルファリオ。
都市の規模はザインのおよそ5倍。
城壁に囲まれた王城を中心に町が広がっている。
都市内の道は血管のように縦横無尽に広がり、建物は中心から外に行くにしたがって低くなっている。
町の色は白を基調に緑がワンポイントになっているようだ。
「どこにおりるの、あるじさま?」
「たしか、城壁の正門前に広場があるからそこに行けばいいはず」
ドレッドノートを徐々に降下させていく。
「あそこだな……うわ」
正門前の広場を確認したが、凄い数の衛兵や騎士で溢れかえっている。
広場の入り口は封鎖され、中央には赤絨毯が正門まで続き、その脇を騎士が固めている。
「ねつれつなかんげーだね」
「どうやら国王が俺のファンって言うのは本当らしいな……」
「よかったね!」
「少し複雑だ。よし、絨毯の前に降ろすぞ」
「りょーかい!」
ドレッドノートをゆっくりと停泊させる。
ちょうど絨毯がハッチの部分に来るようにしてから着地。
「このまま指示があるまでこの場で待機」
ドレッドノートに待機指示を出し、ハッチまで降りていく。
「少し緊張するな」
「このじょうたいですこしなら、あるじさまはおおものだよ」
「そうかな?じゃあ行くぞ」
「うん」
ハッチ横のコンソールに手をあて、ハッチを開く。
パシュ
そして降りた瞬間……
「竜殺しの英雄!マコト=ムトウ様、御成り~!!」
ドン!
その合図とともに絨毯脇の騎士たちが一斉に持っている剣や槍を地面に叩きつけた。
「うわぁ……」
思わず呻いてしまった。
そのまま少し呆然としていると、騎士の列から1人がこちらに歩み寄ってきた。
俺の目の前に立ち、その場で胸に腕を当てる。
「お待ちしておりました。マコト=ムトウ様。王城までは私がご案内いたします」
「……イゼリア?」
「はい。お久しぶりですマコトさん!」
そこには前と同じ鎧を着たイゼリアが立っていた。
ただし今日は兜はなく、儀礼用と思われる金刺繍の施された白いマントを羽織っている。
「イゼリアが俺の案内役なのか?」
「はい。自分で立候補しました」
ニコっと笑う。相変わらず美人なのはいいが、ダルハイムでのことを思い出して、少し顔が赤くなる。
「こ、こんなところにいても仕方ないし、とりあえず連れていってくれないか?」
「わかりました。それではこちらにどうぞ」
イゼリアに促され、赤絨毯の上を歩く。
周囲の騎士たちは直立不動で少し上を精悍な顔で見上げている。
よく訓練されてるな……という印象を受ける。
「しかし驚きました。一応報告は受けていましたが、まさか本当に空飛ぶ船で来られるとは」
イゼリアは後方のドレッドノートをチラリと見て話した。
「普通は驚くみたいだな。まあ今回は国王様の指示があったからあんな派手な登場をしたんだが」
「陛下はあれにも大層ご興味があるようですからね、おそらくここに停泊する様子もシルフィア城からご覧になっているでしょう」
「ふ~ん」
意外と新しいもの好きなのかな?
イゼリアと赤絨毯を進んで行き、正門からシルフィア城の敷地内入った。
「すげぇ……」
白と緑を基調とした巨大な城。
正門から城の門へ行くまでに堀があり、その堀には跳ね橋がかけられている。
ザイン城の3倍はあろうかという城は、大きな4本の塔が4隅に配置されているのが特徴だ。
「シルフィア城は初代国王陛下が建設された城で、およそ1000年の歴史があります」
城を見て呆然としている俺にイゼリアが説明をしてくれた。
「1000年か……そんなにこの王朝は栄えてるわけね」
「はい。かつて他国との戦もありましたが、このシルフィア城まで戦火が伸びたことは一度もありません」
「凄いな」
「我々王都近衛騎士団の誇りです」
イゼリアは胸を張って答えた。
「なるほど。これからの予定はどうなっているんだ?」
俺の予定を確認する。
「はい。このあとすぐに陛下に謁見をして、それから陛下と昼食をご一緒していただきます」
「昼食もか?」
「陛下が是非にと」
「……わかった」
「それでは行きましょうか?」
「おう」
シルフィア城内に入り、階段を上り大きな部屋に案内された。
一見礼拝堂のような雰囲気だが、イスは1つしかない。
正面の高いところに豪華な装飾のされた大きいイスが1つ。
「玉座ってやつか、じゃあ謁見の間なわけね」
「そろそろ陛下がいらっしゃいますので、私と同じようにしていてください」
イゼリアに従って肩膝をつき、腕を胸にあて、頭を下げる。
それから1分ほどの体勢でいる。
「第16代目シルフィア国王陛下!マリベル=レ=ブラン=ド=シルフィア16世様の御成り~!」
衛兵が高らかに名乗りをあげる。
それからわずかな衣擦れの音が聞こえ、収まった。
「面を上げよ」
国王から声をかけられる。でも……なにこの声?
イゼリアと一緒に頭を上げる。
「?」
玉座には1人の人物が座っていた。
その頭にはかなり大きく感じる煌びやかな王冠。
白と金を基調とした豪奢な服。
手には大きな緑色の宝石が頭についた金色の杖。
そんなもので身を固めた、
女の子が玉座に座っていた。
年はミシャと同じぐらい。
亜麻色の艶やかな髪を伸ばし、瞳は翡翠のようで、クリクリしている。
全体的に妖精のような雰囲気を纏う少女がそこにいた。
周りの反応から見てもこの子が国王で間違いないようだ。
「わざわざ足労をかけてすまぬな。竜殺しの英雄殿」
「いえ。ご拝謁に賜り、恐悦至極の至りにございます。国王陛下」
何度か練習したセリフを言う。
「うむ。わらわもお主に会えて嬉しく思う」
「光栄でございます」
「かようなところで話をするのも無粋じゃな。さっそくじゃが昼食にしよう」
「わかりました」
国王と従者のうしろについて食堂までたどり着いた。
食堂の中には20人は座れるのではないかという長いテーブルが鎮座している。
国王が一番端に座り、俺はその対面の端に案内された。
イゼリアも昼食を一緒にするらしく、俺の右前の席に座った。
「ガンツは元気にしておるか?」
国王が俺に質問する。
周りが静かなので、お互いが遠くても声は通るようだ。
「はい。精力的に活動なさっておりますよ」
「そうか。あやつは年甲斐もなく元気じゃからのう」
クスリと国王が笑う。
「そのようですね」
「では、さっそくじゃが今までの冒険の話を聞かせてはくれんか?」
「わかりました。ではまず私がとある森で遭遇したブラッドオークの話などいかがで……」
そのまま昼食を食べつつ、今までの冒険の話をする。
「それで、それからどうなったんじゃ!?」
国王はいつの間にか身を乗り出して俺の話を夢中で聞いてくるようになった。
「……陛下。そのように身を乗り出してはいささか行儀が悪いですよ?」
今までまったく喋らなかったイゼリアが唐突に国王に話しかけた。
「むう……そんなことを言われてものう。マコト殿の話が面白いんじゃよ」
国王は少しスネた様子でイゼリアを見た。
「とは言われましても、初めてお会いになる客人の前でそのようなはしたない態度では、陛下の品位が疑われますよ?」
「まったく……イゼリアはおせっかいじゃな!」
国王がぷんぷんしている。その姿は歳相応だ。
しかし、なんだこの国王とイゼリアのパワーバランスは?
いくら近衛騎士団の副団長だからといって、国王に平然と注意できるものなのか?
俺が不思議そうな顔をしていると、国王がそれに気がついたようだ。
「イゼリアとわらわのやり取りが不思議なのか?」
「ああ……そうですね。仲がよろしいなと思いまして」
国王があごに手をあててなにか考えている。
「そうじゃな……イゼリアは天涯孤独のわらわにとって姉のようなものじゃからのう」
「天涯孤独……姉?」
「マコト殿はわらわがこのような歳で、しかも女で国王などやっておるのを不思議に思わぬか?」
まぁ確かに最初は驚いたけど、俺そういうのあまり気にしないからなぁ……
「普通に考えればおかしいのかもしれませんね」
「そうじゃろうな。わらわにはすでに両親がおらぬが原因なんじゃがな」
「そうなんですか?」
「うむ。母上はわらわを産んですぐに他界した。父上も3年前に病に臥せってそのまま帰らぬ人となった。そしてわらわにはほかに兄弟もおらぬ。ゆえにわらわが国王になった」
「なるほど」
この歳で大変だろうな。
「イゼリアは幼いころからわらわと一緒にいてな。それこそ昔から姉のように慕っておる」
「私はずっと陛下の御側付きをしていまして、今でも相談役のようなものもさせていただいてます」
なるほど。だからあんな感じだったわけね。
「わかってもらえたかのう?」
「はい」
「うむ。ちょうど話もそれたことじゃし、あの船を見せてはもらえぬか?」
ドレッドノートにも興味あったんだったな。
「わかりました。さっそく向かいますか?」
「そうだな。すぐにでも向かうとしよう」
国王が今までの無邪気なものでなく、あくどい感じでニヤリと笑った。
あの顔はガンツが政治の話をしているときの顔と同じだ。
嫌な予感がする。
「どうしたのじゃ?早く行くぞ」
「は、はい……」
(なんかガンツが言ってた裏の事情が絡んできそうな……)
(どうするの?)
(とりあえず行くっきゃないだろう?)
(いつもどおりだね)
(そういうこと。行くぞアスール)
(ごー!だね!!)
鬼が出るか蛇が出るか……
ミシャとエリスはしばらくお休みです。