Dreadnought
移動拠点が欲しかったんです。
ドレッドノートで夕方頃にザイン東門まで到着した。
門の前で着陸し、ハッチから降りて衛兵のところまで歩く。
「これザインに入れる?」
衛兵はドレッドノートを見てポカーンとしたままで、俺の話を聞いていない。
「お~い。聞いてる?」
大きい声を出してなんとかこちらを確認させる。
「は、はい!なんでしょうか!?」
「これをザインの中に入れちゃまずいか?」
「これを……ですか?」
「うん」
「と、とりあえず上の人間に確認を取ります。あなたのお名前と身分証明書を提示してください」
「マコト=ムトウだ。はい。これギルドカード」
衛兵にギルドカードを渡す。
「これは……あなたが『竜殺しの英雄』殿ですか!?」
「まぁそう呼ばれることもある……」
頭をかきながら答える。
「すぐに確認してまいりますので、少々お待ちください!では失礼します!!」
そう言って衛兵は門の詰め所まで走っていった。
30分後……
見たことのある馬車が俺の目の前で止まった。
「マコト殿!どうなされ……」
ガンツが馬車から降りてきて、ドレッドノートを見た瞬間固まった。
「公爵様、コイツをザインの中にいれたいんですが、大丈夫ですか?」
「……これはなんだね?」
ガンツは呆然とした顔で俺を見る。
「リッテル遺跡に隠されていた飛翔艦ドレッドノートです」
「ひしょうかん……どれっどのーと?」
「簡単に言うと空飛ぶ船です」
「そんなものがリッテル遺跡にあったのか」
「はい。今では俺の所有物ですけど」
ガンツはポカンとしたあと笑った。
「ハハハッ!この船はそなたのものか!!まったくマコト殿はいつも私の予想の斜め上を行く」
「それで、大丈夫でしょうか?」
「この船をザインに泊めてもよいぞ!」
「本当ですか?」
「ただし、1つ条件がある」
「なんでしょうか?」
ニヤリとガンツが笑う。
「私も一度乗せてくれないか?」
「……ははっ!喜んで」
「本当か!?」
「はい。わざわざ俺のためにご足労いただいたようですし、とりあえずザイン城までドレッドノートでお送りしましょう」
「おお!ではさっそく頼む!」
「はい。どうぞこちらへ」
ガンツをハッチまで案内し、中に入れる。
「……中は凄いな!こんなもの見たことがない!!」
「特等席にご案内しますよ」
「おお、頼む!」
そのままブリッジへあがる。
「またここも凄い。外の景色が見えるのか!」
「はい。とりあえずイスへお掛けください」
「うむ」
ガンツが座ったのを確認して、俺も座る。
「ドレッドノート発進」
ゆっくりとドレッドノートが上昇を始める。
「おお!浮いている!!」
ガンツ大興奮。
「微速前進」
「おお!!進んでいる!!!」
ついには立ち上がって外を見るガンツ。
子供みたいだな。
「どうですか?」
「素晴らしい!空から見る我が町がこのように美しいとは!!」
「喜んでいただけたようでなによりです」
「うむ」
ガンツを乗せてザイン城まで飛んだ。
「いや、素晴らしい体験をした!」
ザイン城の前庭でガンツを降ろし、正門まで歩く。
「ドレッドノートはどこに停泊させればいいですか?」
「私の庭でかまわんよ」
「よろしいんですか?」
「ああ」
「では、お願いします」
「うむ。それではな」
「はい。失礼します」
ガンツに別れを告げ、ワノクニ亭まで戻った。
「ただいま~!」
挨拶をしてワノクニ亭に入った。
玄関では女将さんとミシャとエリスがなにか慌てている。
「マコト!知ってる!?」
ミシャが俺の元に駆け寄ってくる。
「なんのことだ?」
「いや、それがさぁ、さっき空飛ぶ大きな船がザイン城のほうに飛んでいったんだって!」
女将さんも会話に加わる。
「私も見たが、あれはなんだったんだ?」
エリスも困惑しているようだ。
「ああ……その船俺のだ」
「「「え!?」」」
「俺がリッテル遺跡で見つけて、ここまで乗ってきた。それでさっき公爵を乗せて城まで送ってきたんだ」
「マコトそれ本当!?」
ミシャが尻尾と耳をピコピコさせながら聞いてくる。
「ああ。とりあえず明日にでも乗せてやるよ」
「私もいいのか!?」
エリスも詰め寄ってくる。
「いいよ。というか、これから詳しい話するから部屋戻るぞ。女将さん、お茶の用意してもらえる?」
「あいよ」
とりあえず3人で部屋に戻った。
「……というわけで、あのドレッドノートは俺のものになった」
「へぇ~凄い!」
「あんなものは確かに見たことがない」
ミシャもエリスも感心しているようだ。
「あ、そうだ。はいお土産」
ミシャには赤の、エリスには緑の結晶を手渡す。
「うわぁ……綺麗」
ミシャは光にすかしながら結晶を眺めている。
「ちゃんと忘れなかったんだな。お土産」
エリスも嬉しそうだ。
「まぁな。とりあえず明日はドレッドノートに乗せてやるから、楽しみにしてろよ?」
「「うん!!」」
いい返事といい笑顔。苦労した甲斐がある。
夕飯を食べたあと、今日は風呂に入って寝た。
ミシャとエリスを連れて、ザイン城の前庭まで来た。
「大きいね!」
「それに美しい!」
ミシャとエリスはドレッドノートを見て興奮している。
白い船体に青い幾何学模様が走り、船体の後方には鳥の羽のような金色の翼がついている。
船の上部には人が出られるデッキもある。
昨日調べたデータはこんな感じ。
強襲型魔導飛翔艦 ドレッドノート
スペックデータ
全長50メートル
全高15メートル
幅10メートル
重さ2万トン
メインエンジン マナ反応炉
航行時間 基本的に半永久的
最高速度 時速1200キロ
武装 使用不能
機能 魔術障壁の展開 マスターの意思による遠隔操作 ステルス(完全不可視)モード
内部情報
船内は3階層にわかれている。
《上部階層》
ブリッジ
ブリーフィングルーム
食堂
調理室
《中部階層》
船室×6
トイレ×1
《下部階層》
倉庫×4
そのほかには上部階層からデッキに出られるようになっている。
居住スペースや調理室もあるので、長時間の滞在にも耐えられるようだ。
ドレッドノートの側面に手をあてる。
シュン
ハッチが開いた。
「ここから入るぞ」
ミシャとエリスを手招きする。
「お邪魔しま~す……」
「失礼する」
律儀に挨拶して入る2人。
「「わぁ……」」
中に入って内装に驚いているようだ。
白い金属製の壁が青く光り、清潔で科学的な様相を見せる船内。
でも本当は古代魔導兵器。
「とりあえずブリッジに行くぞ」
「ぶりっじ?」
ミシャが不思議そうな顔をする。
「この船の操舵室みたいなもんだ」
「じゃあ飛ばすの!?」
「そのために来たんだろ?」
「やった!飛ぶみたいだよ、エリスさん!」
「はい!楽しみですね!」
2人とも凄いはしゃぎようだな。
ブリッジに着き、2人を座席につかせた。
「浮上開始」
ドレッドノートを浮上させる。
「うわぁ……」
ミシャは外の景色をキラキラした目で見ている。
「……綺麗」
エリスはうっとりしている。
「進路北西、速度60、高度1500。自動操縦開始」
ドレッドノートを自動操縦にして、席を立つ。
「デッキに出てみるか?ここより飛んでる感じがするぞ」
「行く行く!」
「私も行きます!」
もの凄い勢いで席を立つ2人。
「じゃあ着いてきな」
ブリッジを出て通路脇の梯子を昇る。
「しょっと」
天窓を開けてデッキに出る。
「掴まりな、ミシャ」
梯子を昇ってきたミシャの腕をとってデッキに引き上げる。
「ありがと……凄い……」
ミシャは360度に広がる光景に目を奪われている。
「次はエリスだ。ほら」
エリスもデッキまで引き上げる。
「っと。これは……」
エリスも呆然としている。
「凄いだろ?」
デッキは柵以外に物はなく、視界を遮るものはない。
下を見下ろすとザインの町並みや草原、森などをすべて見渡せる。
「自分で飛んでもこんな高いところは来ないからな」
「うん。綺麗……」
「そうですね……」
柵に身を預けて2人は景色を見ている。
風に髪が煽られ、それをかきあげる仕草はこの景色と合わせて1枚の絵画のようだ。
「気にいったようでなにより」
俺もその光景を見てなんとなく微笑んだ。
それから船内を案内した。
「一応船室とか食堂とかついてはいるが、家具とかないから、結局ただの空間だ」
「みたいだね」
一通り見終わってミシャたちとブリーフィングルームに集まっていた。
「殺風景だな」
エリスも不満そうだ。
「そこで、俺はドレッドノート内部を改装しようと思っている」
「そんなことできるの?」
ミシャは驚いているようだ。
「俺の頭の中にはドレッドノートの見取り図がある。それこそ配管からなにからな」
「つまり、好きにいじれるということか」
「そうだ」
エリスの問いに頷く。
「実は昨日公爵にも同じ話をしたら、改装業者を紹介してもらえることになった。あとは俺たちのアイディア次第で改装を始められる」
「「俺たち?」」
「おまえらも考えるんだよ。自分の部屋とかな」
「「自分の部屋?」」
「このドレッドノートは今後遠征に行くときの移動拠点として使うつもりなんだ。だからミシャとエリスの部屋も当然作る」
「ほんとに!?」
「いいのか!?」
2人とも乗り気なようだ。
「金は俺が出すから気にすんな。今のところ予算の上限は5億フレぐらいで考えてる」
「「5億!?」」
「ウィングドラゴンの収入で今のところ20億ぐらい稼いでるからな。知らなかったのか?」
2人ともブンブン頭を振っている。
そういえばこいつらには話してなかったな。
「マコトお金持ちなんだね……」
「意外だ……あんなにケチなのに」
でも少し疑わしげなのが気に食わん。
「とりあえず金は気にしなくていいから、今から考え始めるぞ」
「「お~う!」」
ザイン城の前庭にドレッドノートを停泊させてワノクニ亭に戻った。
改修を始めて1ヶ月。
「「「かんせ~い!!!」」
ドレッドノートの内装が完成した。
《上部階層》
通路とブリッジはそのまま。
ブリーフィングルームは前に滞在していたダルハイムの宿のリビングのように改装した。
ソファとテーブルや観葉植物を置き。壁紙を貼り、淡いオレンジ色の間接照明をつけた。
全体は茶色を基調とした家具や木目調の置物でまとめる。談話室のようなイメージだ。
食堂もブリーフィングと同じような改装して、6人がけの樫のテーブルを中央に置いている。
調理室は女将さんと相談して使いがってのいいものにした。小さめの冷蔵庫や冷凍庫のようなマジックアイテムを置いてある。
《中部階層》
船室は3室は俺とミシャとエリスの部屋。
各自自由に改装してはずだったのだが、結局ワノクニ亭と同じような畳部屋となってしまった。
まぁそれだけ気に入ってるわけだが。
ほかの3室は来客用として洋風な部屋に。
これもダルハイムの宿を参考にさせてもらった。
トイレは温水便座とウォシュレットをつけた。
両方この世界にはなかったので、俺がオーダーメイドで職人に作ってもらった。
《下部階層》
4つある倉庫のうちの1つは食料倉庫。
部屋を分断して、片側には巨大な冷蔵庫や冷凍庫のようなマジックアイテムを置いてある。
もう片側は常温保存できるお米や小麦粉などを置くことにしている。
次の1つは備品倉庫。生活必需品などを備蓄している。
もう1つは現在空き。
そして最後の1つが俺の1番のこだわり。
「これこれ!やっぱりこれがないと!!」
「ほんとに作ちゃったね……」
「ここまでくると、馬鹿にする気も起きないな……」
ミシャとエリスが呆れている。
「なにを言われようと、俺は作った!作り上げた!!この檜風呂を!!!」
目の前には立派な檜風呂があった。
ちなみにここは古代魔導兵器の内部だ。
そう、最後の倉庫は風呂にした。
一応ほかの2人も風呂好きなので、風呂を作ることには異論はなかったが、図面を見せたら……
「「まさかここまでやるとは……」」
と絶句された。
だいぶ広めの倉庫だったので、規模はほぼ銭湯。
シャワーや蛇口も10個ほど完備している。
風呂桶や風呂椅子も全部檜。
湯量がいくら多かろうと、水を出すのも暖めるのも全部魔法なので、オールオッケー。
「完璧だ!幸せ!!」
「ねぇマコト……ちなみにここにいくらかけたの?」
ミシャが不安そうに聞いてくる。
「そんなでもないぞ?……たぶん1億は使ってないかな」
「「……」」
ミシャとエリスは開いた口が塞がらない様子だ。
「まぁ作っちまったものどうしようもないだろ?」
「それもそうか」
「あって困るものではないですしね」
そう、この2人はお風呂好き。2度目だけど確認のためね。
「あるじさましあわせそう」
「ああ幸せ」
「このままおふろはいるの?」
「いや、まずは新生ドレッドノートの進水式……もとい進空式だ」
「なにやるのマコト?」
ミシャが手に持ったものを見ながら言う。
「デッキに出てこのワインをぶつけて割る」
「聞いたことがないな」
エリスが首をかしげる。
とりあえず3人でデッキに出る。
「よっと!」
ワインを叩きつけ、割る。
「これでよし。あとはザインの周りを1週でもするか。ミシャ、エリス、柵に掴まってろ!」
「わかった!」
「安全にな!」
「あいよ!遠隔操作開始、ドレッドノート発進!!」
「ごー!だね!!」
お出かけしようかな……
次回ドレッドノートでお出かけします。
※ドレッドノートの設定を1つ書き忘れていたので、追記しました。